経済情勢
2010年 6月9日
在コロンビア日本大使館
Ⅰ.概要
●「コ」政府は,2010年の財政赤字見込み額3.3兆ペソ(約15億ドル)を補填するため,財源としてIsagen社(「コ」発電公社)の政府出資分の売却を検討していた。しかし今般,スルアガ大蔵相は,本件は次期政権に委ねる旨決定した。
●鉱業部門が好調:4月の石油生産量,1~3月の金生産量はともに過去最高を記録。
●ベルムデス外相は5月19日,EU-中南米諸国首脳会談(於:マドリッド)の機会に,ウリベ大統領,サパテロ・スペイン首相,ガルシア・ペルー大統領,バロッソ欧州委員会委員長及びヴァン=ロンプイ欧州理事会議長同席の下,EU・コロンビアFTAに署名。今後,3ヶ月程度でテキストの最終決定及び翻訳を終えた後,調印,双方議会・司法当局等の承認を経て発効となる。なお,「コ」国内における批准プロセスは最長2年を要するとみられる。
●赤松農水相は4~6日にかけて「コ」を訪問し,ウリベ大統領,フェルナンデス農業・地方開発相,プラタ商工観光相等と個別に会談,主に両国の経済関係強化に向けた意見交換を行った。
Ⅱ.主な出来事
<国内情勢>
(1)各機関による2010年経済成長率見通し
(ア)スルアガ大蔵相(24日):目標の2.5%を上回る。要因は,製造業,商業及び建設業が好調であること,輸入増にみられる民間需要の回復,及びエネルギー需要の回復。なお,次期政権の課題は,生産性の向上,適正な為替レート,労働力の質の向上。
(イ)ウリベ中央総裁(11,28日):3.0%。消費者マインドの改善,好調な小売売上,輸出入の増加が要因。なお,ギリシャ危機並びに欧州経済不安の「コ」経済への影響は,石油価格下落及び金融市場におけるボラティリティと,今のところ最小限にとどまっている。
(ウ)国内外民間アナリスト平均(12日報道):2.4~3.0%。工業生産・販売の増加,エネルギー消費量の増加,及び消費者マインドの回復を理由に,当初見通しの2%程度から上方修正。
(2)インフラ関連
(ア)ボゴタ市メトロ建設計画に関するピエドライータ国家企画庁(DNP)長官発言(21日):メトロ第一号線の完成は2018年まではないとみられる。
(イ)公共交通機関トランスミレニオCarrera 7に関するボゴタ市長発言(5日):Carrera 7(Calle 34~170間)に建設予定のトランスミレニオの入札を10日に実施。入札価格は960億ペソ。本年8月の工事開始,2011年中頃の完成を目指す。
(ウ)国家テレビ委員会(CNT)発表(26日): 6月中に地上デジタルテレビ(欧州方式)チャンネルで,3局が公共放送を開始する。また、年内に5局が加わる予定。
(3)企業情報
日野自動車発表(29日):日野自動車が出資するPraco Didacol社のムニョス販売部長(日野自動車担当)によれば,コロンビアの日野自動車工場における生産は操業開始以降18ヶ月が経過,旺盛なトラック需要が要因で,工場はフル稼働の状態が続いている。また,バス及び小型バスの生産も開始する予定であり,シフトの増加を検討している。
<対外関係>
(1)対米国FTA関連
(ア)クリントン国務長官発言(13日):米政府の「コ」及びパナマとのFTAの議会での批准を目指す方針に変わりはないが,議会における優先課題が他にあるほか,11月には中間選挙を控えており,実現は非常に難しい。
(イ)ラテンアメリカ商業同盟(5日):1,200以上の米企業から成るラテンアメリカ商業同盟は,オバマ大統領に対し,「コ」及びパナマとのFTAの議会での早期批准を要請した。
(2)対欧州連合(EU)FTA関連
(ア)EU・「コ」FTA署名(概要):5月19日,ベルムデス外相は,EU-中南米諸国首脳会談(於:マドリッド)の機会に,ウリベ大統領,サパテロ・スペイン首相,ガルシア・ペルー大統領,バロッソ欧州委員会委員長及びヴァン=ロンプイ欧州理事会議長同席の下,EU・コロンビアFTAに署名。今後,3ヶ月程度でテキストの最終決定及び翻訳を終えた後,調印,双方議会・司法当局等の承認を経て発効となる。なお,「コ」国内における批准プロセスは最長2年を要するとみられる。
(イ)合意内容:
(ⅰ)工業製品及び漁業産品のうち99.9%に係る関税を即時撤廃
(ⅱ)「コ」産品に対する一般特恵関税制度(GSP-Plus)の据置き
(ウ)酪農部門に対する保護措置(同FTAの発効は酪農部門への影響が大きいとして,署名に対する反発が高まっていたことを受けた措置):
(ⅰ)EUによる「コ」酪農部門に対する支援
(ⅱ)同部門の競争力強化と生産性向上のため,7年間で3千万ユーロを拠出
(ⅲ)酪農生産者及び同部門の企業関係者保護のため,EUからの粉ミルクの輸入を年間4千トン(「コ」における1日の生産量に相当)に制限
(ⅳ)輸入割当量(発効初年度は4千トン)までの粉ミルクの輸入に対する段階的に引下げた関税の適用(発効時は98%,15年以内に撤廃)※対米FTAでは発効時は33%
(ⅴ)17年間のセーフガード措置
(ⅵ)同FTAに付随する声明(Declaracion vinculante)の署名:ウリベ大統領とバロッソ欧州委員会委員長の間で,同FTAにより酪農部門に困難な状況が生じた場合,合意内容の調整が可能とする声明に署名。
(ⅶ)スペイン政府は単独で,「コ」酪農部門に対する経済協力の実施を表明
※なお,「コ」国内では13日,トゥルバイ会計検査院長が,酪農生産者に対する保護政策の不備,及び同FTA署名後は次期政権下において国会の批准プロセスが行われることから,署名は新政権に委ねるべきとの異議を唱えた(もっとも,「ト」院長発言には法的権限はない)。これを受け,「コ」政府は13日中に政令1673を定め,外国企業が余剰に抱えている販売可能期間が12ヶ月未満の古い牛乳の流入を禁ずる措置を講じた。また,フェルナンデス農業・地方開発相は,国家経済社会計画審議会(CONPES)に対し,5月24日までに政府による酪農部門支援計画を採択するよう要請した。
(エ)酪農団体の反応:酪農生産者は18日午前中,全国各地でデモを実施。中央・北Valle地域牧畜業協同組合(Cogancevalle)のサンドバル代表は,同FTAにより,カリ,ブガ,カルタゴ及びトゥルラ地域では79%が零細生産者であることから8千人が影響を受けると訴えた。また,メデジンでは,アンティオキア北部の500人以上の生産者が,200頭の牛を引き連れ,貧困家族に1万5千リットルの牛乳を無料で配布するなどしてデモに参加。なお,酪農部門を除く民間部門の反応は,「コ」の輸出市場拡大と競争力強化に繋がるとの見方から概ね好意的。
(3)その他FTA関連
(ア)対カナダFTA:加・「コ」両政府は27日,加・「コ」FTA発効後も両国の人権についてモニタリングを実施し,両国議会及び国民に対し毎年発表することに合意,署名した。
(イ)対パナマFTA交渉:第2ラウンドが5月10~14日にボゴタで開催。労働問題や原産地規則等について進展がみられた。
(4)対アジア関係
(ア)赤松農水相のコロンビア訪問(4~6日):赤松農水相はウリベ大統領,フェルナンデス農業・地方開発相,プラタ商工観光相等と個別に会談し,主に両国の経済関係強化に向けた意見交換を行った。
(イ)対韓国FTAに関するプラタ商工観光相発言(8日):3~5日にかけて,韓国・「コ」FTA交渉ミニ・ラウンドがロス・アンゼルスにて開催,双方が関心のある品目をそれぞれ提示した(「コ」側:乳製品,牛肉,豚肉,養鶏産品,花,果物,野菜,菓子,チョコレート,ジュース,タバコ,クルマエビ,ツナ,縫製品,化粧品等。韓国側:プラスチック,自動車,自動車部品,家電等)。なお,第3ラウンドは6月10~14日にソウルにて開催予定。
(ウ)アジア太平洋経済協力会議(APEC)に関するサントス副大統領発言(7日):アジア太平洋地域諸国との関係強化は,「コ」がアジアを戦略的に重要視していることから,APEC新規参加如何に拘わらず優先課題である。年内に新規参加モラトリアムが解除されることを期待する。
(5)上海万博関連及び対中国関係
(ア)上海万博が5月1日に開幕。開会式にはサントス副大統領が出席。これに先駆けウリベ大統領は4月15日,「コ」の上海万博参加が当国のイメージ改善に果たす役割は大きく,投資誘致に繋がるものであると述べた。また,対中貿易拡大の重要性,アジア太平洋経済協力会議(APEC)への加盟希望についても言及した。なお,「コ」は,「Colombia is Passion, the City is Activity」のテーマでコロンビア館を出展中。
(イ)中・「コ」関係に関する習近平国家副主席発言(4月30日):習近平国家副主席は,上海万博開会式出席のため中国を訪問していた「サ」副大統領に対し,両国間の貿易インバランスを解消するため,対「コ」投資を増加させる旨述べた。また,両首脳は,中・「コ」FTA及び二重課税防止条約の締結の可能性について協議した。
(ウ)対中国FTAに関する「サ」副大統領発言(7日):今後2~3年のうちに中・「コ」FTAが纏まることを期待する。
(6)その他
「国際競争力ランキング2010年版」(19日):スイスに本部を置く世界的なビジネススクールである経営開発国際経営所(IMD)が発表した「国際競争力ランキング2010年版」において,「コ」は前年の51位から45位に浮上(チリ28位,ブラジル38位,ペルー41位,メキシコ47位,アルゼンチン55位,ベネズエラ58位)。中南米の中では最もランクの改善幅が大きかった。
<経済指標>
(1)経済活動全般
(ア)実質工業生産指数(国家統計庁DANE発表):3月の実質工業生産指数(コーヒー豆加工を除く)は,前年同月の落ち込みが大きかったこともあり、前年同月比+6.4%と高い伸びを示した。とりわけ,飲料(同+26.3%),基礎化学品(同+18.2%)が好調であった。
(イ)建設活動:3月の新規建設着工承認面積は122.9万㎡,前年同月比+15.9%となった。
(2)産業動向
(ア)石油
(ⅰ)サモア石油庁ANH発表(19日):4月の石油生産量は77.6万バレル/日,前年同月比+19.5%であった。また,2012年における石油生産の目標量は120~140万バレル/日。
(ⅱ) コロンビア石油公社Ecopetrol発表(11日):4月の石油輸出は403.5万バレル,9.1億ドルに上った。輸出量,輸出額ともに史上最高を記録した。
(ⅲ)マルティネス鉱山相発言(4日):2010年の石油埋蔵量は前年の20億バレルから31億バレルへ増加。内訳は,確認埋蔵量が26億ドル,推定埋蔵量が5億ドルとなっている。
(イ)金(コロンビア地質・鉱物研究所Ingeominas発表):1~3月の金生産量は415,755トロイオンス,前年同期比+13%であった。鉱物資源探査の拡大,国際金価格の上昇,世界的な金融危機に伴う金需要の増加から,生産量は史上最高となった。
(ウ)コーヒー(コーヒー生産者連合会FNC発表):FNC加盟コーヒー生産者による4月のコーヒー生産量は64.7万袋(1袋=60Kg),前年同月比+88%となった。背景には,天候に恵まれたことによる季節要因及び栽培刷新プログラムの奏功が挙げられる。また,これに伴い輸出量も増加,同+18%の65万袋を記録し,21ヶ月連続した前年同月比マイナスからプラスに転じた。
(エ)観光:プラタ商工観光大臣の4日発表によれば,第1四半期に「コ」を訪問した観光客数は311,363人,前年同期比+10.8%であった。また,同期間の観光収入は26.6億ドルに上った。
(3)物価・雇用(DANE発表)
(ア)物価:4月の消費者物価上昇率は+1.98%(前年同月比,以下同)と,3月の+1.84%を上回った。費目別にみると,教育(+4.14%),保健(+4.12%)が高い伸びを示した一方,娯楽,通信,衣類は前月に続きマイナスとなった。なお,4月の生産者物価上昇率は
+0.28%であった。
(イ)雇用:4月の全国失業率は12.2%と,前年同月の12.1%から僅かに悪化した。一方,主要13都市の平均失業率は,製造業,建設業,商業の回復に伴い,12.9%から12.4%へと改善した。
(4)金融
(ア)金融部門利益:金融監督庁が28日に発表した1~4月の金融部門利益は3.3兆ペソ,前年同期比+3.8%であった。
(イ)金融政策:中央銀行理事会は27日,政策金利を3.0%に据置くことを決定した。消費者物価上昇率が長期インフレ目標(3±1%)の下限付近で推移しているほか,期待インフレ率も低下傾向。「コ」経済はインフレ圧力を生じさせることなく回復しており,先(4月30日)の0.5%ポイントの利下げを含む金融緩和政策は,経済成長に寄与していると判断。
(ウ)金融監督庁発表(24日):以下6つの金融機関(Inversora Pichincha, Financiera Internacional, CMR Falabella, Finandina, Coomeba, WWB Colombia)は近々銀行となるべく係る手続きを申請中。これに伴い,国内の銀行数は現行の18行から24行となる。
(5)財政
(ア)税収(国税・関税庁DIAN発表):4月の税収は6.0兆ペソ,前年同月比-21.1%となった。付加価値税収(国内分)は同+10.7%と増加したものの,所得税収が3.9兆ペソ,同-30.3%と大幅に落ち込んだ。
(イ)Isagan(「コ」発電公社)売却問題に関するスルアガ大蔵相発言(15日):政府は,2010年の財政赤字見込み額3.3兆ペソ(約15億ドル)を補填するため,財源としてIsagen社政府出資分の売却を検討していた。しかし今般,同相は,本件は次期政権に委ねる旨決定した。
(6)貿易・対内直接投資
(ア)貿易(DANE発表):3月は,輸出が32.4億ドル(前年同月比+19.4%),輸入が31.4億ドル(同+24.8%)となった結果,貿易黒字は前年同月の2.0億ドルから9,870万ドルへと縮小した。輸出については,伝統産品(石油・同製品, コーヒー,フェロニッケル,石炭)が石油輸出増に伴い同+39.8%の伸びを示した一方,非伝統産品は対ベネズエラ輸出の落ち込みから同+0.3%にとどまった。輸入については,燃料など原料・中間財が大幅に拡大した。なお,「ベ」・「コ」経済統合委員会CAVECOLによれば,第1四半期の2国間貿易額は,米・「コ」軍事協定取極締結を契機とした「ベ」政府の輸入制限措置により,前年同期比-70%と大幅に落ち込んだ。
(イ)対内直接投資(FDI)に関するプラタ商工観光相発言(7日):1~4月のFDI流入額は23.9億ドル,前年同期比+23%となった。分野別では,石油・鉱物資源への投資が同+38%と最も拡大した。
Ⅲ.主な経済指標 ( )は前年同期の数値
(1)経済活動指数(出所:国家統計庁(DANE))
(ア)実質工業生産指数(3月) 前年同月比+6.4%(同+0.3%)
(イ)実質工業売上高指数(3月) 前年同月比+6.1%(同+3.5%)
(ウ)新規建設着工承認面積(3月) 122.9万㎡(106.0万㎡)
(2)雇用(4月失業率)(出所:DANE)
(ア)全国平均 12.2%(12.1%)
(イ)主要13都市平均 12.4%(12.9%)
(3)消費者物価指数(4月)(出所:DANE)
(ア)前月比+0.46%(同+0.32%)
(イ)前年同月比+1.98%(同+5.73%)
(ウ)前年末比+2.24%(同+2.26%)
(4)金利(5月末現在の政策金利)(出所:中央銀行)
3.0%(4月30日,0.5%ポイント引下げ。以降据置き)
(5)為替(5月)(対ドル為替レート)(出所:中央銀行)
(ア)月初 1,950.44ペソ
(イ)月末 1,971.55ペソ
(ウ)最高値 2,029.54ペソ(10日)
(エ)最安値 1,950.44ペソ(3日)
(6)株式指数IGBC(5月)(出所:コロンビア証券取引所(BVC))
(ア)月初 12,697.70ポイント
(イ)月末 12,236.19ポイント
(ウ)最高値 12,697.70ポイント(3日)
(エ)最安値 11,852.70ポイント(25日)
(7)貿易(出所:DANE)
(ア)輸入額(FOB)(3月) 31.4億ドル(25.1億ドル,前年同期比+24.8%)
(イ)同(1~3月累計) 83.3億ドル(75.2億ドル,同+10.8%)
(ウ)輸出額(FOB)(3月) 32.4億ドル(27.1 億ドル,同+19.4%)
(エ)同(1~3月累計) 90.3億ドル(75.8億ドル,同+19.1%)
(8)国内個人送金(出所:中央銀行)
(ア)3月 3.6億ドル(3.9億ドル,前年同期比-7.5%)
(イ)1~3月累計 9.0億ドル(11.0億ドル,同-17.7%)
(9)ガソリン価格(2010年5月)(出所:鉱山・エネルギー省)
レギュラーガソリン1ガロン 7,565.79ペソ(2ヶ月連続据置き)
(10)自動車販売台数(4月)(出所:Econometria社)
18,086台(13,447台,前年同月比+33.1%)
(了)