コロンビア内政・外交状況(6月分)
1.概要
内政:大統領再選法案が下院本会議で可決され、次会期の上院・下院での再可決を待つこととなった。非合法武装勢力に関しては、ELNとの交渉促進者にバレンシア元駐コロンビア墨大使が任命されるなど、今後の動向が注目される。パラミリタリーに関しては6月15日に「指定地域」が設置され、7月1日の交渉開始が宣言された。FARCによるものとされるラ・ガバラにおける34人の農民虐殺が15日に起こった。
外交:ウリベ大統領は21日から22日の日程でブラジルを訪問し、ルーラ大統領と会談した。15日、2001年から拘留されていたIRAと思しき3名が保釈された。
2.内政
(1)ELNとの交渉
(イ)1日、ELNはコロンビアの和平を模索するため、フォックス大統領のイニシアティブを受け入れると共に、早急に墨政府と直接コンタクトする用意があるとの声明を出した。
(ロ)4日、政府の許可を得て、ガランELN代表はイタグイ刑務所を臨時出所し、国会で開催された国際フォーラムに参加すると共に、当地墨大使とも会談した。
(a)国際フォーラムでガランの提案した人道的合意の内容
・対人地雷及び爆発物使用の制限についての、コロンビア政府との合意。
・ELN政治犯及び戦時捕虜に対する一般恩赦。
・ELN及び政府双方の停戦。
・コロンビア国民が熱望する政治的解決のための合意
(b)墨大使との合意事項
・ELNとコロンビア政府との対話の可能性があり、墨政府による仲介の試みを開始する必要性がある。
・墨政府は、同国を対話実施場所として提案する。
・フォックス墨大統領は、墨政府の役割等について適宜発表する。
・交渉議題の具体化については、オープンにしておく。
(ハ)16日、墨政府はコロンビア政府とELNの対話における交渉促進者としてバレンシア駐イスラエル墨大使を指名した。
(ニ)18日、ELNとの交渉促進者であるバレンシア元駐コロンビア墨大使は、ウリベ大統領と会合した。この会合はウリベ大統領が主宰し、バレンシア大使の他、レストレポ和平高等弁務官、在コロンビア墨大使館のリモン臨時代理大使が出席した。会合の中でウリベ大統領はバレンシア大使に対して、ELNとの対話を始める唯一の条件はELNが敵対行為の停止を宣言することであり、ELNに対してはあらゆる保証を提供すると繰り返した。
(ホ)ELNの6月14日付声明の概要は次の通り
(a)我々は現政権において和平プロセスが可能となるといった幻想は抱いていない。
(b)人道的合意を進めることは、和平プロセスを進めようとする双方の真意を明らかにすることになろう。
(c)政府とパラミリタリーとの対話は、先行に対する不透明感を増大させている。
(d)現在の権力構造に手を加えず、ゲリラを解体することが歴代政権の目標であり、これは80年代終わりから90年代初めのゲリラの解体からも明らかである。
(e)社会・経済・政治面での変革が実現できるのであれば紛争解決も可能となろう。
(ヘ)23日、ELNとの交渉促進者であるバレンシア大使は、初めてイタグイ刑務所のガランELN代表を訪問した。
(2)パラミリタリーとの交渉
(イ)15日、レストレポ和平高等弁務官は、政府とパラミリタリー・グループ(主にAUC)との交渉プロセスについてマンクソAUC代表と連名で以下のようなコミュニケを出した。
(a)大統領令第091号及び092号に則り、6月15日より、コルドバ県ティエラ・アルタ地域に「指定地域」が設定された。
(b)7月1日にサンタ・フェ・デ・ラリートにおいて、開会式を催行する。
(ロ)28日付エル・ティエンポ紙は以下のようなウッド駐コロンビア米大使のインタビュー記事概要を掲載。
(a)現下の規定要因が継続するうちは、米国としてカラマーニャ指揮のOASミッションを支援することは「法的に可能」という結論に達した。
(b)単に、資金洗浄あるいは犯罪を継続するために交渉にいる者もいる。しかし、紛争地域から1000人、あるいは楽観的に10000人を撤収させるということは、実行する価値のある目標である。他方、パラミリタリー・リーダーらに対する引き渡し要請は譲ることができない。米国は和平プロセスの間、交渉のテーブルには決してつかない。
(c)米国はパラミリタリーとの交渉を懐疑的に見ており、パラミリタリーにあるのは麻薬テロリズムと破壊のみであり、彼らが何か政治目標を持っているとは思えない。
(d)(米国とコロンビアの)二国間関係はとても「建設的」であり、パラミリタリーが非合法活動を継続できないこと、そして、彼らが条件履行をしない場合はそれによる結果を甘んじて受ける用意をしなければならない。
(3)FARC関連
(イ)1日付エル・ティエンポ紙はマルランダFARC最高司令官の死の可能性とアルフォンソ・カノ司令官への権力移譲の可能性を報じた。
(ロ)3日、収監中のFARC幹部シモン・トリニダッドは、米政府が同人の身柄の即時引き渡しをコロンビア政府に要請したことを正式に通知された。また、政府は4日、FARC南部方面隊の経理責任者のソニア司令官の米国への引き渡しを最高裁判所に対して要請した。
(ハ)15日、防衛戦略研究センター・セミナーにおいてウッド駐コロンビア米大使は、収監中のFARC戦闘員とFARCに拘束されている人質の交換について「FARCは現在の人質を解放したとしても新たに必要な人質を誘拐するだけである。テロリズムに対する妥協はさらなるテロリズムを引き起こす。」と述べつつ、非合法武装勢力にいかなる形であれ譲歩することを否定した。
(4)国会審議
(イ)9日、反テロ法が下院本会議で可決された。その後、両院協議会における調整を経て、大統領の裁可を得たのち、憲法裁判所の判断を受けて公布の運びとなる。
(ロ)17日、国会下院本会議において、大統領再選憲法改正法案が賛成92票(保守党と自由党系独立派)、反対6票で可決された。なお、棄権が66票に上り、内52票が自由党議員、残りが左派系及び自由党系独立派議員となっている(下院の定数は166議席。現在2議員が資格停止となっている)。
この後、両院協議会において案文についての微調整を行った後、次会期での上院・下院の再可決を待つこととなる。
(5)その他
18日付エル・ティエンポ紙が17日に発表された国連麻薬・犯罪事務所(UNOCD)年次報告の内容を報道。
(a)政府の取り組みの成果
コロンビアの違法作物の栽培面積は2002年12月の102,100ヘクタールから2003年には86,300ヘクタールに推移しているが、生産(栽培)ピークの2000年の163,300ヘクタールからは約50%の減少に匹敵し、プラン・コロンビアを通じて米国がコロンビアに対して行った資金供与と連動している。
(b)国連による警告
非合法作物栽培者及び麻薬組織は、撲滅戦略に対する以下のような対抗措置を見つけ始めている。
・現在の品種よりもより多くの収穫量を上げられるような品種を開発している。
・狭い場所に密生させて栽培して土地を最大限に活用している。また、低木林や合法作物の下生えとして非合法作物を隠したり、薬剤散布が困難になるように山岳地や傾斜地での栽培を選択している。
・簡単にレーダーで発見される大規模栽培から小規模栽培へと移行してきている。コロンビアのコカ栽培者の93%が3ヘクタール以下の耕地を所有し、それはコロンビアのコカ栽培のほぼ70%を占めている。
・プトゥマヨ県やグアビアレ県で栽培が大きく減少しているのに対して、他の県で増加している。例えば、メタ県は38%、ナリーニョ県は17%の上昇を示している。
3.治安(6月分)
<>はボゴタ市の統計。斜線の右件数は5月分
(1)殺人:1651件<134件>/1817件<131件>
(2)脅迫:40件<4件>/52件<7件>
(3)窃盗・強盗:4055件<1085件>/4264件<1015件>
(4)自動車盗難:1574件<403件>/1662件<414件>
(5)誘拐:55件<3件>/99件<0件>
(6)テロ:65件<2件>/75件<4件>
(警察統計)
※注目を集めた事件
(イ)15日未明、ノルテ・デ・サンタンデール県ティブー地域ラ・ガバラ村の外れにあるリオ・チキート農場において、FARC第33戦線のゲリラと思しき集団が34人の農民を虐殺した。
(ロ)27日、ヘネコ前上院議員は家族と車でサンタ・マルタ-リオアンチャ間を移動中、パラミリタリーによって誘拐された。これに対して政府は、犯人とされるパラミリタリーのリーダー、ロドリゴ・トバル・プポ、「ホルヘ40」、「エルナン・ヒラルド」との交渉を停止することを決定したが、その後、犯行声明及び解放を約束する声明が「ホルヘ40」から発せられたため、政府は上記3名の交渉参加を認めた。
(ハ)ヘネコ前上院議員を除く8人は29日早朝サンタ・マルタ近郊で解放され、ヘネコ前上院議員も30日に解放された。
4.外交
(1)ウリベ大統領のブラジル訪問(21日~22日)
ルーラ・ブラジル大統領と会談した他、ブラジル企業家と第1回ブラジル・コロンビア・ビジネス・ラウンドを開催。共同声明の中で、コロンビアがブラジルのアマゾン監視システム(SIVAM)を利用する可能性を指摘し、不審機の取締り及び麻薬密輸の撲滅にとり前進を意味するとの点で意見が一致した。
(2)ランメル英国外務政務次官が21日から22日までコロンビアを訪問し、チョコ県キドボの国内避難民の共同体を訪問した他、サントス副大統領らと会談した。
プレスのインタビューを受けたランメル政務次官は、ウリベ大統領が16日、ラ・ガバラの虐殺につきアムネスティ・インターナショナルがFARCに対して十分な非難をしていない旨発言したことに対して、「NGOは問題を作り出しているのではなく、問題の解決に取り組んでいるのである。」と述べ、人権保護団体に関するコロンビア政府の発言に憂慮している旨表明した。しかしながら、同時に英国は和平プロセスが前進するようにコロンビア政府を全面的に支援する用意があるとも述べた。
(3)FARCに対して軍事訓練を行った罪と偽造旅券行使の罪で2001年8月に逮捕され、今年4月に偽造旅券行使の罪で有罪判決が下されたIRAのメンバーと思しきアイルランド人、マーティン・マッコリー、ジェームズ・モナハン、ニアル・コノリーの3人が、15日に保釈された。しかし、本件の判事は彼らにコロンビア出国の許可を与えていない。彼らの弁護士は判事に対して、二審及び最終判決がなされる間、彼らが出国できるように申請したが、5月13日に却下されている。
(4)30日、アイルランドEU議長国は、コロンビア政府とAUCとの間の交渉開始を歓迎するプレス・リリースを発表した。
5.今後の予定
9月14日 ウリベ大統領 第59回国連総会(於:ニューヨーク)