コロンビア内政・外交状況(1月分)
Ⅰ.概要
内政:カノ農業大臣の中央銀行理事への転出により、アリアス次官が農業大臣に任命された。非合法武装勢力との和平プロセスは、2005年に入っても継続しているが、武装放棄した一部「パラ」の脱走等も報じられ、本件プロセスが一筋縄ではいかない様子がうかがえる。
外交:昨年12月のFARC幹部グランダの逮捕を巡ってベネズエラとの間に軋轢が生じたが、近隣諸国の支援もあり解決した。レモアン国連事務総長特別顧問が4月の任期切れを以て退任することが国連より発表された。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)20日、左派系のポロ・デモクラティコの新党首にサムエル・モレノ・ロハス上院議員が就任した。モレノ党首は、前任者のアントニオ・ナバロ、グスタボ・ペトロと距離を置くことは好まないが、より穏健な民主左派政党を目指すと述べた。
(2)21日、カノ農業大臣は中央銀行理事に転出し、後任としてアリアス次官が農相に任命された。
(3)23日付エル・ティエンポ紙は、大統領再選法案に関する憲法裁判所の最終判断が判明するのは9月になる見込みと伝えた。
2.非合法武装勢力
(1)ELN
(イ)5日付エル・ティエンポ紙はメキシコのアキム・ラ米カリブ担当外務次官がELNとコロンビア政府との交渉に関し、交渉プロセスが順調に進んでいると思っており、また、コロンビア政府とELNとの会合場所は必ずしもメキシコとは限らないと語った旨報じた。
(ロ)12日付エル・ティエンポ紙は、ELNが昨年12月31日付声明においてボリバル南部自治体との対話進展に伴って1月5日以降に同地域の対人地雷を撤去することを表明していたが、同地の住民の話として、ELNはすでに昨年10月より対人地雷の撤去を始めていたことを報じた。
(2)パラミリタリー
(イ)18日、コルドバ県のサン・ホルヘ・ブロック及びシヌー・ブロックの合計925人が武装放棄した際、「パラ」リーダーの「エルネスト・バエス」は、武装放棄者に対する刑罰を国民が決めるために国民投票実施を求めた。これに対し、プレテル内務・法務大臣は本件は国会で議論されるべきであり、そのための特別国会が召集されると述べた。
(ロ)19日、ライス米国務長官は上院外交委員会の公聴会において、米国は「パラ」の武装放棄プロセスに対して更なる支援をすべきであると述べた。
(ハ)20日付エル・ティエンポ紙は、2004年11月に武装放棄したバナネロ・ブロック452人のうち、犯罪歴の調査により恩赦対象とならなかった15人がサンタ・フェ・デ・ラリートに移送されていたが、そのうち11人が脱走したと報じた。
他方、20日、レストレポ和平高等弁務官は11人の元「パラ」の脱走の事実を否定した他、政府は恩赦対象とならない「パラ」の武装放棄者を収監する刑務所建設のために、サンタ・フェ・デ・ラリートの134ヘクタールの土地の取得手続き中であることを明らかにした。
(ニ)13日、NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチは年間報告書を提出し、「パラ」との和平交渉が不処罰の方向に進んでいると批判した。また、2003年末のカシーケ・ヌティバラ・ブロックの武装放棄に関しても、武装放棄者の多くは「パラ」に紛れ込んだ一般犯罪者であったこと、「パラ」であった者は武装放棄後も「パラ」として活動していることから、完全なる失敗であったと批判し、2004年の大量武装放棄に対して懸念を表明した。
Ⅲ.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1448件<135件>/1363件<138件>
(2)集団殺人:5件23人<0件0人>/4件23人<0件0人>
(3)脅迫:39件<3件>/32件<9件>
(4)窃盗・強盗:3930件<1246件>/4173件<1049件>
(5)自動車盗難:1340件<478件>/1505件<402件>
(6)幹線道路での車上強盗:59件<21件>/79件<25件>
(7)誘拐:32件<0件>/19件<0件>
(8)テロ:43件<0件>/54件<2件>
2.主な事件
(1)10日付エル・ティエンポ紙は、米国から引渡要請が為されている収監中のFARC幹部「ソニア」の暗殺計画が発覚したため、同幹部はコロンビア及び米国当局監視下のコロンビア海軍の船舶に収監されたと報じた。情報機関によると、FARCは同幹部がFARCの麻薬取引に関する情報を当局に伝えることを恐れ、1月4日までに同幹部を奪還するか、それが出来ない場合は暗殺しようとしていたとされる。
(2)6日、国防省の軍事作戦報告書が発表された。それによると、2004年、非合法武装組織構成員2518人が当局により殺害され、同11020人が逮捕された。また、前年に比べてテロ活動は46%、誘拐は49%以上それぞれ減少した。
(3)25日、トリマ県イバゲ市のピカレーニャ刑務所で2度の爆発があり、5人が死亡したが少なくとも30人のFARCゲリラが脱走した。
Ⅳ.外交
1.FARC幹部拘束を巡るベネズエラとの軋轢
(1)発端
(イ)12月14日、コロンビア警察は、FARCの「渉外担当」とされるロドリゴ・グランダをベネズエラとの国境近くのノルテ・デ・サンタンデール県ククタ市で逮捕したと発表したが、エル・ティエンポ紙は政府情報筋からの情報として、グランダはカラカスで拘束された後、ククタ市に連行されて逮捕された旨報道した。
(ロ)FARCは、12月30日にホームページを通じて、本件に関するチャベス「ベ」大統領の説明を求めた。
(2)軋轢の深刻化
(イ)4日、チャコン「ベ」内務・法務大臣は、本件がコロンビア、「ベ」当局間の合意による「誘拐」との可能性を踏まえた調査を行う旨述べ、翌5日、「ベ」政府は本件に両国当局が関係していた証拠があるとのコミュニケを発出した。
(ロ)9日、チャベス「ベ」大統領は、コロンビア警察の虚偽を非難しつつも、グランダのベネズエラ国籍については申請当時に提出された書類が偽造であり、帰化は無効である旨言及した。
(ハ)12日付エル・ティエンポ紙は、コロンビア政府がベネズエラにおけるグランダ拘束及びそれに対する報奨金の支払いを承知していた旨報道し、同日、ウリベ国防相はグランダ拘束の関係者に報奨金を支払ったことを認めた。
(ニ)13日、チャコン「ベ」内務・法務はコロンビア警察による虚偽の発表とベネズエラ当局者への報奨金の支払いを「賄賂」と非難し、ランヘル「ベ」副大統領はコロンビアのベネズエラに対する主権侵害を非難した。
(ホ)14日、チャベス「ベ」大統領が国会での演説においてウリベ大統領の謝罪を求めたが、コロンビア政府はコミュニケを通じて主権侵害はなかった旨繰り返した。
(ヘ)15日、ウッド駐コロンビア・米国大使はウリベ大統領を支持する旨発言し、18日には、ライス次期(当時)米国務長官が上院外交委員会の公聴会において、ベネズエラは地域のネガティブな勢力であると発言した。
(ト)16日、大統領府はコミュニケを発し、テロ対策における「ベ」側の協力姿勢に疑問を呈した。
(チ)19日、コロンビア政府は「ベ」政府に対し、同国に頻繁に入国している10人のゲリラのリストを送付し、バルコ外相は本件リストがベネズエラにおけるテロリストの活動の証拠であると語った。
(3)外交ルートによる解決の模索
(イ)14日のチャベス「ベ」大統領による二国間貿易関係停止等の発言を受け、ウリベ大統領はロドリゲス・サパテロ西首相他、殆どのラテン・アメリカ諸国の首脳に電話をかけて協力を要請した。
(ロ)マヌエル・ロドリゲス・ペルー外相
本件問題の仲介を申し出、カラカス訪問の後、15日にコロンビアを訪問。
(ハ)18日、メキシコは外務省コミュニケを通じて、ペルー、ブラジルに続いて本件の交渉促進者となることを申し出た。
(ニ)ルーラ伯大統領
(a)17日、本件問題に関し少なくともどちらか一方の要請があれば交渉の仲介をする用意があると発言。
(b)19日、ルーラ伯大統領とアモリン伯外相はコロンビアのレティシアを訪問し、ウリベ大統領、バルコ外相と会談。両外相はブラジルが交渉促進者として行動を開始すると発表した。後の報道によると、このとき、ルーラ伯大統領はダボス・フォーラム(於:スイス)終了後の2月14日以降の積極的仲介をウリベ大統領に伝えたが、遅すぎると判断し、キューバのカストロ国家評議会議長に仲介を求めた。
(ホ)カストロ・キューバ国家評議会議長
(a)21日、ロケ・キューバ外相はカラカスを訪問してチャベス「ベ」大統領と会談した後、カストロ議長に対しチャベス「ベ」大統領が交渉による解決合意に前向きである旨報告した。
(b)22日、カストロ議長はウリベ大統領と電話会談を行い、ロケ・キューバ外相とチャベス「ベ」大統領の会談内容を記した書簡をモレノ・キューバ外務次官に託してコロンビアに派遣した。ウリベ大統領は、右書簡によりチャベス大統領が解決合意に前向きであることを知り、カストロ議長及びチャベス「ベ」大統領に対話の意思を表明した。
(ヘ)コロンビア外務省
(a)27日、バルコ外相は、ペルーにおいてアリ・ロドリゲス「ベ」外相と会談を行った。後の報道により、本会談で関係修復に関する合意に至っていたことが判明した。
(b)28日、大統領府及び外務省は、FARC幹部拘束を巡るベネズエラとの問題が解決した旨の声明を発出した。概要は次の通り。
・コロンビア政府は、ベネズエラ側による調査に不具合があったとすれば、再発を防止するために事件の再調査をする意向がある。
・両政府は、両国の主権を最大限に尊重しつつ、テロ、麻薬、密輸、誘拐及びその他の一般犯罪に対処する。
・2月3日にウリベ大統領はチャベス大統領と会談することとする(当館注:ウリベ大統領の健康上の理由により、右会談は2月15日にカラカスにて行われた)。
2.19日、ルーラ・ブラジル大統領はレティシアにおいてウリベ大統領と会談し、医療サービス、技術・科学支援等について合意した他、南米・アラブ連盟サミット(5月)に向けて作業を継続することも確認した。また、両首脳は国連、特に安保理の改革の必要性も表明した。
3.24日、国連情報センターはプレスリリースを発出し、レモアン国連事務総長コロンビア問題特別顧問は4月の任期切れと共に退任するが、国連事務総長は状況の変化及び政府、ゲリラ両者の明確な要請があれば国連側のより積極的な支援を考える用意があると報じた。
Ⅴ.今後の予定
4月上旬~中旬:ウリベ大統領及びバルコ外相の訪中・訪日等。