コロンビア内政・外交状況(4月分)
Ⅰ.概要
内政:パラミリタリーの武装放棄者に対する法的枠組みである「公正・和平」法案が国会で審議され、一部条項が削除されたものの、12日までに上院・下院合同第一委員会で可決された。政府とELNの対話は、政府の一定の譲歩等も見られたが、ELNが墨外交を公に批判したこともあり、墨政府は交渉促進者の任務終了を表明。また、ウリベ大統領がベネズエラにおいて交渉内容を暴露し、それがメディアに流れたことでELNの不信感を呼び、現在、交渉の進展は見られない。
外交:ウリベ大統領は9日から12日の日程で訪日し、IDB沖縄総会に出席した後、天皇陛下との御会見、小泉総理大臣との首脳会談等を行った。3月下旬に麻薬密輸容疑で逮捕されたプラン・コロンビアに従事する米国軍人が、米国とコロンビアの二国間協定により保護されていることが明らかになった。要人の往来では、ライス米国務長官、ラゴス・チリ大統領がコロンビアを訪問した。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)「公正・和平」法案の国会審議
(イ)概要(国会の動向を中心に)
2月15日に招集された特別国会に提出された法案に関し、各条項毎に審議・採決が行われた。米国はこれまで沈黙を守っていたが、6日、同法案の脆弱性を示しつつ、審議の成り行きを注意深く見守っていると述べ、ウッド駐コロンビア米国大使は本件はコロンビアの決定事項としながらも、法的枠組みの早期実現及び麻薬マフィアの対米引渡における二国間関係の強化を希望している旨国会議員にメッセージを送った。他方、「パラ」リーダーは、10日、法案が「パラ」にとって厳しいものとなる中で、現在審議されている法案が「パラ」の社会復帰を十分に保証するものではないとし、本法案が可決された場合には和平交渉を離脱する旨発言することで議会に対して圧力をかけた。
しかし、一部の条項(注:以下(ロ)(a))が削除されたものの12日には最後の条項が可決され、これを以て同法案の全ての条項が上院・下院合同第一委員会で可決されたこととなり、今後、上院本会議、下院本会議でそれぞれ審議される。
(ロ)国会審議のポイント
(a)「パラ」に政治的地位(estatus
politico)を与えると同時に「パラ」の活動に騒乱罪(sedicion)を適用するという条項に関しては、麻薬マフィアが対米引渡から逃れるために悪用することが懸念され、結局、本条項は削除された。
(b)重罪を犯した武装放棄者に対する刑期は5年から8年とされ、和平交渉が行われているサンタ・フェ・デ・ラリートに留まっている期間は最長18ヶ月間に限り、刑期から差し引かれることとなった。
(c)犯罪の真相解明に関し、本法律により創設される検察庁内の特別チームが被害者・犠牲者の被った損害に関する捜査を行うが、その期限は30日間となった。
(d)国連人権高等弁務官事務所は、上記(b)に関し、同地における滞在が刑期と見なされるようなメカニズムが存在していないにも拘わらず刑期から差し引くことを批判した他、(c)については捜査期間が極めて短いことを批判している。
(ハ)今後の見通し
今後の審議においては、和平プロセス推進派で「パラ」に宥和的な議員による、上記(ロ)(a)の反乱罪適用の復活、及び(b)の刑期の更なる短縮等を求める動きの他、「パラ」の動向も注目される。
(2)公職者の大統領選挙立候補
大統領再選憲法改正法案(2003年01号)第10条は、公職にある者はたとえ辞任をしたとしても、当初の任期中に行われる別の公職の選挙に立候補することを禁じていたが、6日、憲法裁判所は右を承認しなかった。このため、これまで同様、選挙の1年前までに公職を辞職することにより、当初の任期中に行われる公職の選挙に出馬することが可能となった。現職の知事及び市長で来年の大統領及び副大統領選挙に立候補するものは本年5月28日までに辞職することが必要である。
(3)「パラ」武装放棄者等に対するプロジェクト
「パラ」武装放棄者のための生産プロジェクト(ヤシ、カカオ、ゴム、ユカ生産等、及び牧畜、縫製等)に対し、今後2ヶ月間にウラバ、アンティオキア県南東部、マグダレーナ南部、コルドバ、クンディナマルカの5地域に約44,724百万ペソが拠出されることが26日、報じられた。本プロジェクトにより、「パラ」武装放棄者(総雇用者数の50%)、国内避難民(同25%)、小作農民(同25%)が恩恵を受けることになる。
2.非合法武装勢力
(1)政府とELNの対話停滞
(イ)背景
3月29日にウリベ大統領が4カ国首脳会談(於:ベネズエラ)において、ELNが政府との直接対話を行う際、市民に対する誘拐停止を約束しなかったことを暴露し、また右を批判したことがテレビ中継された(なお、ウリベ大統領はテレビ中継されていることを知らなかったとしている)。
(ロ)ウリベ大統領の暴露に対するELNの反応
ELN書記局メンバーのアントニオ・ガルシアは、8日付の新聞社とのインタビュー記事でウリベ大統領の機密保持違反を疑問視した他、誘拐がELNの資金源として必要である旨を明らかにした。また、交渉促進者のバレンシア墨大使の公正さの欠如により、政府とELNの歩み寄りが困難な状況にあるとも述べた。
(ハ)ベネズエラ、ブラジル、スペイン大使のガランELN代表の訪問
3月29日の4カ国首脳会談に際してELN書記局はベネズエラ、ブラジル、スペインに対し政府との対話への関与を求める書簡を発し、これを受けて同三カ国の大使は8日、イタグイ刑務所に収監中のガランELN代表を訪問した。同大使は政府との交渉開始をガランELN代表に促した他、メキシコの交渉促進に対する支持を繰り返した。
(ニ)政府による本件和平プロセスに対する資金供与の示唆
ELNが資金源として誘拐を必要としているとのアントニオ・ガルシアの主張を受け、レストレポ和平高等弁務官は、コロンビア政府が将来的にELNとの和平プロセスに対する資金供与をする用意がある旨のコラムを11日付エル・コロンビアーノ紙に寄稿した。
(ホ)墨政府による交渉促進任務終了の表明。
ELN書記局が17日付コミュニケにおいて、墨政府が国連人権委員会において対キューバ決議に賛成票を投じたこと及びオブラドール・メキシコ市長の特権剥奪を批判したため、墨外務省は18日付コミュニケを通じて交渉促進の任務終了を表明した。しかしながら、墨政府は両者の要請があれば再び交渉促進を行う用意があるとしている。
同日、レストレポ和平高等弁務官は、墨政府に対してこれまでの交渉促進に謝意を表明する一方で、墨政府の協力を拒否するELNの態度を批判する旨のコミュニケを発した。
(2)FARCの攻撃
(イ)14日、FARCはカウカ県の先住民の村トリビオをシリンダー爆弾等を用いて激しく攻撃した。国軍は攻撃ヘリコプター、装甲車等を投じたが、村に通じる道に地雷が埋設され、また、山からの攻撃が止まなかったため、23日頃まで住民は村に帰還することが出来なかった。
(ロ)6日、アラウカ県においてトラックで移動中の国軍兵士がFARCの待ち伏せ攻撃に遭い、ロケット砲、手榴弾の他、300発以上の銃弾を受け、17人が死亡した。
Ⅲ.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1374件<142件>/1382件<157件>
(2)集団殺人:4件24人<1件4人>/4件23人<0件0人>
(3)脅迫:32件<3件>/49件<4件>
(4)窃盗・強盗:3488件<954件>/3894件<1121件>
(5)自動車盗難:1494件<492件>/1503件<508件>
(6)幹線道路での車上強盗:42件<7件>/61件<24件>
(7)誘拐:29件<0件>/35件<0件>
(8)テロ:43件<0件>/55件<2件>
2.主な事件(バジェ県ブエナベントゥーラの治安悪化)
(1)19日、2005年の3ヶ月半の間にバジェ県ブエナベントゥーラでは既に116件の暗殺があり、うち16人がパラミリタリーの武装放棄者であったと当局が発表した(年間の平均被害者数は250人)。
(2)20日に賭博サッカーに誘われた後に行方不明となっていた12人の若者が、21日に射殺死体となって発見された。29日、当局はパラミリタリーに所属する5人の逮捕を発表し、麻薬取引に関係して殺害されたとの見方を示した。
(3)22日、12人の若者の死体発見に続き、幼稚園に2発の手榴弾が投げ込まれて1人が死亡、13人が負傷した。ブエナベントゥーラでは貧困や失業等の社会状況の厳しさに加え、「パラ」武装放棄者、FARC民兵、12のギャング団の抗争による治安の悪化が懸念されている。
Ⅳ.外交
(1)7日、3月28日にプラン・コロンビアの後方支援に用いられている米国の航空機から16キロのコカインが発見され、米国軍人4人が逮捕された事件(注:後に1人が釈放)に関し、同軍人の身柄が米国との二国間協定に基づき保護されている旨報じられた。ウッド在コロンビア米国大使は6日、コロンビアと米国の二国間協定の内容を確認するとともに、本件に関する捜査が進展している旨述べた。また、中国訪問中のウリベ大統領は、米国における刑罰が適切なものとなるよう求めた。
(2)ウリベ大統領は、中国訪問(6日から8日)後、バルコ外相、ベレス教育相、ボテロ商務・産業・観光相、メヒア鉱山・エネルギー相らと共に9日から12日の日程で訪日し、IDB沖縄総会に出席した後、東京において天皇陛下との御会見、小泉総理大臣との首脳会談の他、日・コロンビア経済委員会等各種会合、会談に参加した。また、多くの企業及び大学関係者も中国、日本を訪問し、投資の促進や学術交流を目的とした会合に出席した。
(3)20日、外務省は、エクアドルのグティエレス大統領罷免に関し、エクアドル情勢に懸念を表明し、憲法秩序の堅持と民主主義の尊重を訴えるコミュニケを発出した。
(4)21日、ラゴス・チリ大統領が、OAS事務総長選挙においてインスルサ前チリ外相へのコロンビアの支持を得る目的で当国を訪問してウリベ大統領と会談を行った。ウリベ大統領は共同記者会見においてガビリア元大統領がOAS事務総長選挙に勝利したとき以来、中米地域との間で中米の候補を支持する約束を維持してきた旨述べた。
(5)25日、ウリベ国防大臣は上院本会議において、ベネズエラの武器購入がアンデス諸国間の軍事バランスの不均衡を増大させており、本件には明確な正当性がない旨主張したのに対し、チャベス・ベネズエラ大統領及びランヘル同副大統領はこれを批判した。バルコ外相は、ベネズエラがこれまでのコロンビアより多くの武器を所有していたことは周知の事実であり、今回の武器購入によりその分武器が増加しただけだと述べ、状況の沈静化を図った。
(6)27日~28日にライス米国務長官が当国を訪問し、ウリベ大統領及びバルコ外相と会談した。ライス米国務長官は治安回復、国内避難民の減少等、ウリベ大統領の手腕を評価すると共に、対コロンビア支援の継続を約束した。また、ベネズエラの武器購入に関しては、地域の安定性に対する懸念を表明し、小型武器がゲリラの手に渡らないようコントロールする必要性に同意した。
Ⅴ.今後の予定
1.6月
(1)5~7日:第15回OAS総会(於:米国)
(2)未定:パラ・エクアドル外相のコロンビア訪問
2.7月
11~12日:ウリベ大統領のスペイン訪問