コロンビア内政・外交状況(5月分)
Ⅰ.概要
内政: 武装放棄者に対する法的枠組みとなる「公正・和平」法案の審議において、パラミリタリーに政治的地位を与えるとする条項が復活した。1989年のガラン大統領候補(当時)暗殺事件に関し、サントフィミオ元司法相が黒幕であったとの新証言があり、同元法相が拘束された。非合法武装勢力については、政府との和平交渉に参加していた「パラ」リーダーの「ドン・ベルナ」の逮捕命令が出され、同人はその3日後に投降した。
外交: プラン・コロンビアに参加していた米国軍人2人が大量の弾薬所持により当局に拘束されたが、二国間の取り決め(免責特権)により米国大使館に身柄を移された。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)「公正・和平」法案(主にパラミリタリーの武装放棄者に対する法的枠組み)
4月12日に上院・下院合同第一委員会を通過した「公正・和平」法案は、5月17日、上院本会議における審議において「パラ」に政治的地位を与えるとした条項が復活した。本条項は、パラミリタリーが対米引渡から逃れるために悪用する恐れがあるとして(当館注:「パラ」に政治的地位が与えられることにより、「パラ」は麻薬取引を政治犯罪として主張する可能性がある)、上院・下院合同第一委員会において削除されていた。(なお、6月22日未明、本法案は下院本会議を通過したため、両院協議会での調整、大統領の裁可を得て公布の運びとなる。)
(2)ガラン元大統領候補暗殺に関する証言
かつてメデジン・カルテル首領パブロ・エスコバルの下で多くの暗殺に拘わっており、現在収監中のジョン・ハイロ・ベラスケス(通称「ポパイ」)は、1989年のルイス・カルロス・ガラン大統領候補(当時)暗殺の黒幕がサントフィミオ元司法大臣であることを明らかにし、12日、サントフィミオ元大臣は当局により身柄を拘束された。「ポパイ」によると、サントフィミオ元大臣はパブロ・エスコバルに対し、ガランが大統領になった場合にはパブロ・エスコバルは米国に引き渡されると述べ、ガラン大統領候補の殺害を教唆したとのことである。サントフィミオ元大臣の取り調べは8ヶ月間行われる予定である。
(3)世論調査結果
14日付エル・ティエンポ紙と16日付セマナ誌は、4月23日及び5月3日にインバメール・ギャロップ社が国内主要4都市において行った世論調査結果を掲載した。興味深い点は以下の通り。
(イ)コロンビアの状況は改善しているか、悪化しているか。
改善:36%(前回3月;43%) 悪化:40%(同;33%)
(ロ)大統領に好意を抱くか。
抱く:69%(前回3月;72%) 抱かない:19%(同;19%)
(ハ)大統領の活動を支持するか。
支持:71%(前回3月;76%) 不支持:21%(同;19%)
(ニ)コロンビアは1年前に比べて安全か。
安全:64%(前回3月;69%) 安全ではない:31%(同;27%)
(4)国会議員の動向
(イ)パルド上院議員の離反
8日、ウリベ大統領の支持者だったラファエル・パルド上院議員が、今後は自由党に参加し、ガビリア元大統領を支援していくことを表明した。
(ロ)ウリベ大統領派議員の動向
来年の国会議員選挙に際し、ウリベ大統領支持派による政党を立ち上げるか否かを議論するため、カンビオ・ラディカル党のヘルマン・バルガス上院議員を始めウリベ大統領支持派の議員がウリベ大統領と会合を持った。その結果、ウリベ大統領を支持する各政党、各会派は同大統領支持の姿勢は変わらないものの、「ウリベ党」を創ることなく独自に国会議員選挙に挑むことが確認された。
(ハ)保守党の大統領候補者
26日、保守党のカルロス・オルギン党首は、大統領再選法案が承認された場合、保守党としては大統領候補者を選出しないが、同法案が不承認となった場合は自らが大統領選挙に出馬する旨表明した。
(5)選挙保障法案の審議
ウリベ政権は選挙保障法案(当館注:大統領再選法が成立した場合に現職大統領が有利となるため、競合する政治勢力が不利にならないよう公平性を維持するための助成法案)の審議に関し、左派政党ポロ・デモクラティコの協力を得ることで合意したが、自由党は審議を拒否した。(なお、同法案は6月20日に上院及び下院本会議で承認された。今後、大統領の認可を経て公布される。)
(6)国勢調査
22日、国家統計庁による国勢調査が開始された。調査は11月30日まで続き、調査結果は2006年1月に判明する予定。
2.非合法武装勢力
(1)パラミリタリー
(イ)「パラ」リーダー、ディエゴ・フェルナンド・ムリージョ(通称「ドン・ベルナ」)の投降
20日、検察庁は「ドン・ベルナ」に対し、ベニテス・コルドバ県議会議員暗殺事件(4月10日)に関する逮捕命令を発出、24日、ウリベ大統領はカストロ国家警察長官に同人の逮捕を指示し、警察官800人以上を動員して「パラ」との交渉場所である「指定地域」内外において捜査が行われた。27日、「ドン・ベルナ」は当局に対して投降すると共に武装放棄した。
(ロ)OASの和平プロセス支援継続
2日、インスルサOAS事務総長は、「パラ」との和平プロセスに関し2004年2月からコロンビアに派遣しているOAS和平プロセスミッションの継続を表明した。
(ハ)「パラ」のリクルート
ボゴタ市内85カ所ある「パラ」武装放棄者のための保護施設において、「パラ」構成員が月額40万ペソの報酬を提示しつつリクルート活動を行っていたことが報じられた。
(ニ)武装放棄者のプロジェクト始動
13日、「パラ」武装放棄者がアンティオキア県のウラバ地方において4つの生産プロジェクトを開始した。
(2)FARC
(イ)対FARC軍事作戦
1月以来、国軍がコロンビア南部メタ県において実施している対FARC軍事作戦「エンペラー・オペレーション」により、同県においてFARCと激しい戦闘が行われていたことが報じられた。報道によると、4月29日以降、43回の戦闘が行われ、FARC戦闘員161人が死亡した。
(ロ)FARCの攻撃
(a)2日、トリマ県のイバゲ、カハマルカ間でFARCによる待ち伏せ攻撃があり、1人の市民の他、パトロール中の警官3人が死亡した。この地域におけるFARCの攻撃は4人の死者を出した3月15日に続いて2回目。
(b)6日、トリマ県カハマルカの地雷埋設地帯において8人の兵士が死傷した。現場はトリマ県とキンディオ県を結ぶラ・リネアの近くであった。
(c)29日、カケタ県ヤリにおいて、近年最大のFARC武器貯蔵庫が発見され、異なる口径の弾薬50万発の他、爆弾等が押収された。武器貯蔵庫を守っていた6人のゲリラは軍との戦闘で死亡。
(d)19日、チョコ県でキブドー市に移動中の14人の警官がFARCの待ち伏せ攻撃により10人が死亡、4人が負傷した。また、プトゥマヨ県ではFARC第48戦線の爆発物を用いた攻撃により警官3人が死亡し、1人が負傷した。
(ハ)「チグイロ」のベネズエラからの引渡
ベネズエラで逮捕されていたFARC第16戦線のホセ・マヌエル・ベガ(通称「チグイロ」)が16日にコロンビアに引き渡された。今後、麻薬取引と3人の米国人宣教師殺害の容疑で取り調べられる。
Ⅲ.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1419件<125件>/1374件<142件>
(2)集団殺人:5件24人<0件0人>/4件24人<1件4人>
(3)脅迫:23件<6件>/32件<3件>
(4)窃盗・強盗:3724件<987件>/3488件<954件>
(5)自動車盗難:1375件<455件>/1494件<492件>
(6)幹線道路での車上強盗:46件<8件>/42件<7件>
(7)誘拐:14件<0件>/29件<0件>
(8)テロ:53件<0件>/43件<0件>
2.主な事件
(1)火山活動
コロンビア南部のガレラス山が4月下旬からガスや火山灰を放出するなど活動を活発化させてきたが、5月23日、関係当局は噴火の際の住民避難プランを準備した。その後、小康状態が続いている。
(2)誘拐減少
国防省は、2005年1月から4月までの誘拐件数が2004年の同時期に比べて62%減少したことを発表した。
(3)FARCによる市議会議員の襲撃
24日、カケタ県プエルト・リコ市議会を15から20人のFARC構成員が襲撃し、議員4人を含む5人が死亡した。
(4)コカインの過去最大量の押収
12日、コロンビア南部ナリーニョ県トゥマコのミラ川河口地域において、これまで最大の15.1トンのコカイン(325百万ドルに相当)が警察と海軍の共同作戦により押収された。翌13日には、カストロ国家警察長官がFARCとパラミリタリーが同地域において「商業同盟」を形成していることを明らかにした。
Ⅳ.外交
(1)大量の弾薬所持の米国軍人の逮捕
3日、警察は匿名の電話を受け、トリマ県のメルガルにおいて麻薬或いは武器の大規模取引があるとの情報を得た。その後、同地域において2人の退役コロンビア軍人が乗った不審車を発見し、取り調べにより取引が近くのコンドミニアムで行われることが判明した。コンドミニアムを調べたところ、弾薬32,900発が発見され、同所にいた米国軍人2人を含む3人が逮捕された。米国軍人はプラン・コロンビアに参加している軍事技術者と射撃インストラクターであったため、コロンビア・米国間の免責特権により、5日、米国当局に引き渡された。
警察情報筋は、この弾薬がパラミリタリーに引き渡される予定であったとする情報があることを明かした。
Ⅴ.今後の予定
1.6月
(1)27日:ルーラ・ブラジル大統領のコロンビア訪問
(2)未定:パラ・エクアドル外相のコロンビア訪問
2.7月
11~14日:ウリベ大統領のスペイン訪問