コロンビア内政・外交状況(6月分)
Ⅰ.概要
内政:
自由党党大会が開催され、単独指導体制を求めるガビリア元大統領が党首に選出されたが、次期大統領選挙候補者の選出については意見調整ができなかった。非合法武装勢力の武装放棄者を対象とした公正・和平法案が上院及び下院本会議で可決。ELNの「アノリの英雄」戦線の武装放棄式典において、ウリベ大統領はELNに対話の再開を呼びかけた。
外交:FARCによるエクアドルとの国境地帯への攻撃を契機に、エクアドルとの間で国境問題に関する議論が始まった。24日に予定されていたルーラ・ブラジル大統領のコロンビア訪問がキャンセルされた。30日から7月1日の日程でロドリゲス・ベネズエラ外相がコロンビアを訪問した。
Ⅱ.内政
1.重要法案
(1)公正・和平法案
(イ)概要
主にパラミリタリーを想定した武装放棄者に対する法的枠組みである本法案は、2月より審議が行われてきたが、6月22日未明、上院及び下院本会議で最終的に可決された(当館注:7月22日に大統領により裁可された)。
(ロ)ポイント
(a)「パラ」に対して政治的地位が与えられ、騒乱罪が適用される。但し、「パラ」の罪全てに騒乱罪が適用されるわけではないとの見方が強い。
(b)殺人等の重犯罪の刑期は5年から8年とされるが、自白されなかった犯罪が後に発覚した場合には刑期の20%増しが可能。
(c)麻薬取引を目的としている非合法武装集団は本法律の対象外(麻薬取引を行っていた「パラ」の取り扱いについては不透明)。
(ハ)反応
(a)3日、米国上院議員(民主党)6人はウリベ大統領に書簡を送り、その中で公正・和平法案に懸念と不満を表明し、法案が可決された場合には今後の対コロンビア支援が危機的状況になると警告した。6日、これに対してプレテル内務・法務大臣は、同法案が国際基準を満たしており、武装放棄者に対して厳しい要求をしていると反論するとともに、同法案について説明する必要があると述べた。
(b)6月第2週、米下院国際委員会は、コロンビア政府が非合法武装勢力の中で米国から訴追されている者を米国に引き渡すことを条件に、米国は非合法武装勢力の武装放棄プロセスを支援することを決議した。
(c)14日、ウッドロー・ウィルソン・センターのパネルに招かれたウッド米国大使は、「少なくともコロンビア国内の暴力を減少させる観点から、コロンビア政府が進める「パラ」との和平プロセスを擁護する。」との発言を行い、特にNGO関係者との間で物議を醸した。
(2)選挙保障法
(イ)概要
大統領再選法案が議会で可決されたことに伴い、対立候補者が不利にならないように公平性を保つための法案。当初、同法案に反対していた左派系ポロ・デモクラティコ党は40億ペソの広報活動用の助成金交付を政府案に盛り込むことで政府と合意し、この協力により、20日、同法案は上院、下院の本会議において可決された。
(ロ)ポイント(主な禁止事項)
(a)選挙前4ヶ月間、大統領が各地で行っているタウン・ミーティングの模様を国営放送で放映すること。
(b)大統領が公共事業の除幕式に参加すること。
(c)演説の中で他の候補者に言及すること。
2.内政一般
(1)自由党党大会
10日~11日、自由党党開会が開催された。集団指導体制を求めるセルパ前大統領候補と自由党の分裂を防ぐため単独党首による指導体制を求めるガビリア元大統領の確執が表面化していたが、党大会においてガビリア元大統領が自由党の単独党首に選出され、23日、正式に党首に就任した。自由党からの大統領候補者選出については、来年の選出を求める自由党員と早期の選出を望むセルパ前大統領候補との意見調整が出来ず、決着は持ち越しとなった。
(2)世論調査結果
19日、コロンビア民間企業基金が行った世論調査結果が公表された。興味深い点は以下の通り。
(イ)ウリベ大統領の評価
(a)ウリベ政権は状況を改善してきたか。
改善した:64.7% 改善していない:28.4% わからない:7.0%
(b)コロンビアの状況は改善しているか。
改善した:44.6% 改善していない:46.7% わからない:8.7%
(ロ)
(a)大統領の連続再選が承認されることを望むか。
望む:60.9% 望まない:36.1% わからない:3.0%
(b)現政権の政策を継続するために大統領の連続再選は承認されるべき。
同意:62.6% 不同意:30.8% わからない:6.6%
(c)憲法裁判所が再選法案を承認しない場合、それは民意に反する。
同意61.7% 不同意:27.9% わからない:10.4%
(ハ)大統領再選が承認された場合、次のどの状況が望ましいか。
(a)ウリベ大統領が2006年大統領選挙の候補者となる:58:5%
(b)ウリベ大統領が2006年大統領選挙の候補者とならない:25.6%
(c)どちらでもない:11.6%
(d)わからない:4.3%
(3)次期大統領選挙関連
(イ)左派系ポロ・デモクラティコ党の大統領候補
2日、ナバロ・ウルフ上院議員がサムエル・モレノ党首を破り、ポロ・デモクラティコ党の大統領候補に選出された。
(ロ)25日、ガビリア元大統領に説得されて自由党に戻ったラファエル・パルド上院議員は、治安維持、経済発展、貧困撲滅を掲げて大統領予備候補(自由党)となることを表明した。まずは自由党の大統領候補となるべく、セルパ前大統領候補に対峙する旨宣言した。
(4)麻薬関連統計
14日に公表された国連麻薬・犯罪事務所(UNODC)の報告書によると、2004年12月のコカ栽培面積は8万ヘクタールで、2003年12月と比較して7%、2000年と比較して51%減少している。
3.非合法武装勢力
(1)パラミリタリー
(イ)「ドン・ベルナ」の対米引渡問題
コルドバ県議会議員殺害の容疑で5月24日に逮捕命令が出され、5月27日に投降した「パラ」リーダー、「ドン・ベルナ」に対し、9日、米国は正式に引渡要請を行った。
ウリベ大統領は本件に関し、(コロンビアは)法治国家であるとだけ答えたが、プレテル内務・法務大臣は米国へ引き渡すとの決定はウリベ大統領次第であると述べた。
(ロ)「トロバの英雄」ブロック
15日、コルドバ県ルシア・オチョにおいて「ドン・ベルナ」の配下にある「トロバの英雄」ブロック465人が武装放棄した。武装放棄式典において「パラ」リーダー、「エルネスト・バエス」は、「民主主義を尊重し、「公正・和平」法案の国会審議の結果が如何なるものであれ、それを遵守することを約束する」と述べた。
(ハ)「パラ」創設者の一人、ビセンテ・カスターニョが週刊誌「セマナ」のインタビューに答えた。2004年4月より行方不明となっている弟カルロス・カスターニョについては、その生存と米国と取引している可能性を仄めかし、また国会議員の35%以上が「パラ」の友人であると述べ、物議を醸した。
(2)ELN
9日、アンティオキア県の「アノリの英雄」29人の武装放棄式典が行われた。ウリベ大統領は本件に関し、ELNに対して武装放棄を継続するよう呼びかけると共に、誘拐停止を含む敵対行為の停止をELNが受諾するのであれば、政府もELNに対する軍事作戦の停止を受け入れると述べた。また、ELNとの対話に関しては、(今すぐの)武装放棄の必要はなく、敵対行為停止のみが必要であると述べた。
(3)FARC
(イ)25日、エクアドルとの国境近くのプトゥマヨ県テテジェの国軍基地をFARCが攻撃し、19人の兵士が死亡した。
(ロ)26日、FARCスポークスマンの「ラウル・レジェス」は26日の当国テレビ局のインタビュー番組の中で、FARCの手中にある3人の米国軍兵士と米国に引き渡されたFARC幹部「シモン・トリニダッド」及び「ソニア」を米国と交換する用意がある等述べた。これに対して、27日、マコーマック米国務省報道官は米国はテロリストとは交渉しないと述べた。
(ハ)15日、4ヶ月間の当局の諜報活動により、メタ県、グアビアーレ県、カケタ県のジャングル地帯を結ぶFARCの幹線道路が存在することが明らかになった。道路には手製のガソリンスタンドも備わっていた。パストラーナ政権期の和平交渉が決裂した際、FARC幹部が非武装地帯から脱出するために使用された。
Ⅲ.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1362件<138件>/1419件<125件>
(2)集団殺人:1件5人<0件0人>/5件24人<0件0人>
(3)脅迫:44件<6件>/23件<6件>
(4)窃盗・強盗:4320件<1472件>/3724件<987件>
(5)自動車盗難:1352件<442件>/1375件<455件>
(6)誘拐:25件<1件>/14件<0件>
(7)テロ:36件<0件>/53件<0件>
Ⅳ.外交
(1)エクアドルとの二国間関係
(イ)25日のエクアドルとの国境に近いプトゥマヨ県テテジェに対するFARCの攻撃に関し、近隣の市長がゲリラはコロンビアで攻撃を行い、エクアドルに逃亡するとの発言をした。こうした状況下、エクアドル外務省はコロンビア人に対する査証取得の義務付けを検討していると述べたのに対し、バルコ外相は査証取得措置の導入は国境の治安問題を解決するものではないと述べ、諜報活動や二国間関係のメカニズムの強化を提案した。
他方、オスピナ国軍最高司令官はエクアドルの国境の町トゥルカンを訪問し、サパテル・エクアドル統合参謀本部長と本件に関する会合を持った。
(2)24日、予定されていたルーラ・ブラジル大統領のコロンビア訪問がブラジル国内問題によりキャンセルされた。
(3)30日~7月1日、ロドリゲス・ベネズエラ外相がコロンビアを訪問し、バルコ外相と二国間ハイレベル委員会等につき会談した。
Ⅴ.今後の予定
1.8月4日 ウリベ大統領の訪米