コロンビア内政・外交状況(7月分)

 

Ⅰ.概要

内政: ウリベ大統領は79.2%と驚異的な支持率を獲得。モレノ駐米大使が次期IDB総裁に選出されたことに伴い、ウリベ大統領はパストラーナ元大統領に次期駐米大使をオファーし、了承された。主にパラミリタリーの武装放棄者に対する法的枠組みである「公正・和平法」が大統領により裁可されたが、各方面から批判を受けた。政府はELNに対して新たに対話プロセスを提案したが、公開書簡により拒否された。FARCによる送電施設及び幹線道路の橋に対する攻撃により、プトゥマヨ県が一時孤立化した。

外交: 「公正・和平法」に関する説明をするために、サントス副大統領らのミッションが米国を訪問したが、有益な成果を得られなかった。ウリベ大統領はスペイン、英国を訪問し、「公正・和平法」の適用を監視するための委員会創設をEUに求めた。米国の対コロンビア軍事援助の一部が、人権問題に関連して米国議会が本件支出に付した条件のため一時停止されていることが明らかになった。

 

Ⅱ.内政

1.内政一般

(1)世論調査結果

 ギャロップ社が7月上旬(4日から6日)及び7月下旬(21日から24日)に実施した世論調査の結果が公表された。7月上旬及び下旬の調査結果の興味深い点は次の通り。

(イ)ウリベ大統領の7月下旬の支持率(( )内は7月上旬)

 支持率:79.7%(69%) 不支持率:16%(22%)

(ロ)大統領の手腕に対する支持率(7月上旬)

 ゲリラ対策:64% 汚職:64% 経済政策:52

(ハ)7月下旬時点の投票シュミレーション(主要候補者のみ)

(a)大統領再選が可能な場合

・ウリベ大統領:70.2

・セルパ前大統領候補:14.5

・ナバロ・ポロ・デモクラティコ党大統領候補:4.7

・モックス前ボゴタ市長:2.6

・カルロス・ガビリア前アルテルナティーバ・デモクラティカ党首:1.8

(b)大統領再選が不可能な場合

・セルパ前大統領候補:23.7

・ノエミ・サニン駐西大使:19.6

・モックス前ボゴタ市長:13.4

・ナバロ・ポロ・デモクラティコ党大統領候補:12.7

(2)人事

(イ)7日、ウリベ国防大臣が辞任を表明し、ウリベ大統領に受理された。それにより、19日にオスピナ大統領府法律顧問が国防大臣に就任した。

(ロ)20日、上院、下院の新議長及び新副議長が選出された。上院議長にはコロンビア史上初めての女性上院議長となるクラウディア・ブルム議員、下院議長にはサン・アンドレス島出身のフリオ・ガジャルド議員がそれぞれ就任した。

(ハ)27日、モレノ駐米大使が次期IDB総裁に選出されたことに伴い、29日、ウリベ大統領はパストラーナ元大統領に次期駐米大使のポストをオファーした。後にこの人事がトゥルバイ元大統領の考えによるものであることが判明した。ウリベ大統領を批判してきたパストラーナ前大統領に対する駐米大使ポストのオファーは、反ウリベ派の切り崩しであるとの批判も生じた。

(3)麻薬関係

(イ)違法作物買い取り提案

 23日、ウリベ大統領はビジャビセンシオのタウン・ミーティングにおいて、コカ、ケシといった違法作物を政府に引き渡す代わりに農民に対して支払いを行うことを提案した。これに対し、パルド上院議員はウリベ大統領の提案は即興で為されたものであり、政府による「買い取り」は違法作物の耕作を助長するものであると批判した。

(ロ)麻薬マフィアとの交渉

 12日、「パラ」に近いとされるロシオ・アリアス下院議員は、クンビタ刑務所において対米引渡が要請されている150人の囚人と会合を持った。本会合の目的は、麻薬取引に関する情報提供と引き換えに「恩恵」を得ることを米国及びコロンビア政府と交渉するためのハイレベル委員会設置であった。これに対しプレテル内務・法務大臣は、政府として対米引渡に関し交渉する余地がない旨答えた。

(4)貧困状況

 CEPAL(国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会)発表の統計によると、コロンビアの貧困状況は危機的であり、人口の52%にあたる2300万人が12ドルでの生活を余儀なくされており、そのうち10%が極貧状態(11ドル以下)となっている。

 

2.非合法武装勢力

(1)パラミリタリー

(イ)公正・和平法

(a)22日、ウリベ大統領は「公正・和平法」を裁可し、25日、同法は発効した。

(b)4日付ニューヨーク・タイムズ紙社説は公正・和平法を殺人者、テロリスト、麻薬マフィアの不処罰法であるとして批判した。5日、ウリベ大統領はこれを拒絶した。また、レストレポ和平高等弁務官は同社説に対する反論を送付したが、ニューヨーク・タイムズ紙はその掲載を拒否した。

(c)6日、カトリック司教会議議長に就任したカストロ大司教は、これまで「公正・和平法」を批判してきたが、現在は同法が(「パラ」の)犠牲者に対する支援となると考えていることを明かした。

(d)ウッド大使の発言

 9日、ウッド駐コロンビア米国大使は、「公正・和平法」は不完全であるが故、重要なのはその執行であるとした。また、法的枠組みができあがった以上、和平交渉場所であるサンタ・フェ・デ・ラリートの「指定地域」は不要であると述べた。

(e)公正・和平法の説明ミッション

 17日、サントス副大統領、バルコ外相、レストレポ和平高等弁務官は米国政府関係者に対して公正・和平法の説明を行うため訪米したが、同法に異議を唱えている有力議員及び同法に批判的社説を掲載したニューヨーク・タイムズ紙との面談はできなかった。

(f)OAS人権委員会

 15日、OASの米州人権委員会は「公正・和平法」が「パラ」による犯罪の真相を明らかにするものではなく、また、麻薬マフィアに恩恵を与えるものであると批判した。

(ロ)武装放棄

 14日、「ロス・モンテス・デ・マリアの英雄」ブロックの594人がボリバル県で武装放棄した。

(2)ELNとの対話プロセスの頓挫

(イ)69日、「アノリの英雄」戦線の武装放棄式典においてウリベ大統領がELNに対して敵対行為を停止して対話プロセスを受け入れるよう求めたことにより、政府とELNの間で秘密のやりとりが開始された。

(ロ)625日、政府がELNに対して外国において国際社会の保証人を伴った期限付きの対話を提案し、720日にはレストレポ和平高等弁務官と「フランシスコ・ガラン」が会合を持った。同じ頃、フェリペ・ゴンサレス元西首相も仲介提案を行った。

(ハ)724日、ELNは公開書簡においてパラミリタリーに好意的且つ人道問題の解決に否定的な政府の態度を批判しつつ、政府提案を拒否した。

(3)FARC

(イ)人道的人質交換交渉

(a)26日、レストレポ和平高等弁務官は、FARCとの人道的人質交換を模索するためにFARCが指定する場所で、FARCの都合の良い時に、FARCと早急に会合を持つようウリベ大統領から指示されたことを明らかにした。今回、会合の場所をFARCの指定する場所としている点で、これまでの提案と比べて政府が歩み寄り開始のための最低条件を緩和したと言えるが、FARCがこれまで求めてきたフロリダとプラデラの非軍事化は認めないとしている。

(b)シラク仏大統領の密使

 20日付エル・ティエンポ紙は、7月上旬、シラク仏大統領が人道的人質交換に関するFARCの前向きの意向を模索して、FARCのスポークスマン、ラウル・レジェスと会合を持つために密使をコロンビアに派遣したと報じた。

(ロ)FARCの攻撃

(a)5日、FARCはカウカ県カルドノを5時間に渡って攻撃し、少なくとも80%の住民が村から非難した。

(b)20日、コロンビア南部プトゥマヨ県の送電システムがFARCによって破壊され、同県の住民70%に対する電力サービスの供給がなくなった。翌21日には同県の主要幹線道路上の橋が爆破され、他地域へのクセスが困難となった。27日、暫定的な橋を設置するために移動中であった国軍の車列がFARCによって攻撃され、2人が死亡、5人が負傷した。プトゥマヨ県では商業活動が停止し、他県への移動も制限され、500家族以上の国内避難民が発生した。

(ハ)米国との関係

 11日に放映されたテレビ局CM&のインタビュー番組において、FARCのスポークスマン「ラウル・レジェス」は、米国務省がFARCとの対話再開に関心があるとのメッセージをFARCに送ってきたことを明らかにした。FARCは米国政府がそのことをエル・ティエンポ紙を通じてを公表するのであれば、対話再開をする用意があると答えた。

(ニ)FBIFARC幹部との接触

 18日、米国政府情報筋は、FBI20032月以来FARCに拘束されている米国兵士3人に関する情報を入手する目的で、200412月に身柄を拘束されたFARC幹部ロドリーゴ・グランダと会合を持っていたことを明らかにしたが、テロリストとは交渉しない旨強調した。

 

Ⅲ.治安等

1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)

(1)殺人:1476件<162>件/1362件<138件>

(2)集団殺人:326人<00人>/15人<00人>

(3)脅迫:26件<4件>/44件<6件>

(4)窃盗・強盗:4892件<1536件>/4320件<1472件>

(5)自動車盗難:1364件<436件>/1352件<442件>

(6)誘拐:32件<0件>/25件<1件>

(7)テロ:54件<1件>/36件<0件>

 

2.主な事件

(1)1日、大統領府治安局(DAS)のアトランティコ支部長がウリベ大統領に対する3件のテロ攻撃計画をねつ造した罪で免職、逮捕された。同支部長は支部で実施している作戦が評価されるようにテロ攻撃計画をでっち上げたとのこと。

(2)7日、「パラ」との和平プロセスが行われているコルドバ県サンタ・フェ・デ・ラリートの近くで、40キロのコカインを運搬中の大統領府治安局(DAS)職員2人と検察庁特別捜査局(CTI)の捜査員2人を含む8人が逮捕された。

(3)10日、ウイラ県カンポアレグレ市議会がFARCに襲撃され、3名が死亡した。全国地方議会連盟によると、最近5年間に216人の地方議会議員が殺害され、1335人が脅迫されている。

(4)14日、バジェ県ハムンディ付近を通行中のバスの乗客15人が国軍の攻撃により死亡した。国軍によると死亡した15人はELNメンバーとのこと。

Ⅳ.外交

1.対米外交

(1)米国の対コロンビア支援

 約1億ドルに近い米国の対コロンビア軍事援助が、人権問題に関連して米国議会が本件支出に付した条件のため一時停止されていることが報じられた。米国議会は、プラン・コロンビアのパッケージの25%(軍事援助)の支出は、米国務省による「証明」を条件としている。この「証明」には、特に、人権侵害に関与した軍人が退役したか否か、及び、本件調査における司法権の十分な協力が得られているか否かの確認を必要としている。

(2)バーンズ国務次官のコロンビア訪問

 27日、コロンビアを訪問中のバーンズ米国務次官は、ウリベ政権に対する財政支援の継続と愛国プラン及びパラミリタリーの武装放棄プロセスに対する支援を表明した。

(2)ウリベ大統領の欧州訪問:ウリベ大統領はスペインとイギリスを訪問した。同訪問において大統領はコロンビアへの投資誘致と「パラ」との和平プロセスを説明した。

(イ)スペイン(11日~13日)

 12日、ウリベ大統領はEUに対して「公正・和平法」の適用を監視する委員会の設置を求めた。右に関し、サパテロ西首相はウリベ大統領が絶対的な透明性を以て臨むだろうと述べるとともに、「公正・和平法」に関するNGOからの見解の聴取を継続すると述べた。

(ロ)イギリス訪問(13日~14日)

 14日、ウリベ大統領はブレア英首相と会談し、公正・和平法の適用を監視するEUの委員会創設を求めた。これに対し、ブレア首相は協力することを受諾した。また、ブレア首相はコカの手作業による駆除プログラムと森林保護家族プログラムに関心を示した。

3.近隣国との外交

(1)630日、コロンビア外務省がコミュニケを通じて、如何なる国家もテロリズムに対して中立ではあり得ないと表明したことを受けて、71日、パラ・エクアドル外相はコロンビアの状況に対して中立であったことはないと述べたが、エクアドルはコロンビアと共同軍事行動をとることはないと述べた。

(2)1日、ボゴタで開催された二国間ハイレベル委員会の第一回会合に参加するためにコロンビアを訪問したロドリゲス・ベネズエラ外相は、ベネズエラ、コロンビア両国におけるテロ対策の重要性をバルコ外相と共に確認した。

(3)25日、バルコ外相はエクアドルを訪問し、パラ・エクアドル外相と両国国境地帯における除草剤散布問題等につき会談した。