コロンビア内政・外交状況(8月分)
Ⅰ.概要
内政:自由党関連では、大統領候補に意欲を見せていたペニャロサ元ボゴタ市長が同党を離党した他、党の大統領候補選出のための投票日が明年3月12日と決定された。非合法武装勢力については、これまでで最大規模の2033人のパラミリタリーが武装放棄した他、FARCは政府の人道的人質交換提案に対して2つの村の非軍事化を引き続き求め、本件交渉提案は事実上決裂した。また、FARCに対する爆弾製造技術の指導により有罪となった後、行方不明となっていたIRAメンバーと思しきアイルランド人3人が、アイルランドに姿を現した。
外交: ウリベ大統領夫妻はブッシュ米大統領の私邸を訪問し、パラミリタリーの武装放棄、FTA,「公正・和平」法等について会談を行った。また、米国務省はコロンビア政府による人権状況の改善を認め、70百万ドルの対コロンビア支援の凍結解除を行った。インスルサOAS事務局長がコロンビアを訪問し、パラミリタリーの武装放棄プロセスに対する支援を表明した。バルコ外相は中米を訪問した他、アルゼンチンで開催されたリオ・グループ特別外相会合に出席した。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)自由党の動向
(イ)ペニャロサの自由党離党
8日、ガビリア自由党党首(元大統領)は自由党の大統領候補選出のための投票日を決定するため、ペニャロサ元ボゴタ市長、ラファエル・パルド上院議員、セルパ前大統領候補他と会合を持った。その会合において、ペニャロサ元ボゴタ市長は突然自由党からの離党を表明して会場を去った。候補者選出のための投票日については、ガビリア党首に一任された。
(ロ)大統領候補者選出の投票日
16日、ガビリア自由党党首は自由党大統領候補選出のための投票日を明年3月12日の国会議員選挙と同日に行うことを発表した。
(2)駐英国公使の辞任
23日、在英国コロンビア大使館のフアン・マヌエル・ガラン特命全権公使(ガラン元大統領候補の子息)は、明年の上院議員選挙に立候補するために同職を辞任した。バルコ外相は本件に関し、今後も国会議員選挙出馬を目指して多くの大使等の辞任が見込まれると述べた。
2.非合法武装勢力
(1)パラミリタリー
(イ)和平プロセス及び「公正・和平」法
(a)7日、プレテル内務・法務大臣は、ノルテ・デル・バジェ・カルテルの麻薬マフィアが「パラ」の和平プロセスを悪用して対米引渡から逃れようと私兵を「パラ」ブロックに見せかけている動きに対し、司法機関の捜査により「パラ」の和平プロセスへの参加が認められる可能性はないと警告した。
(b)24日、和平プロセスの進展により、「パラ」リーダーが本件プロセスのために集結している「指定地域」サンタ・フェ・デ・ラリートの警護をしていた「パラ」構成員の武器がOASに引き渡され、「指定地域」の解除に向けた一歩が踏み出された。今後は政府治安機関が警備にあたる。
(c)27日、「パラ」リーダーの「エルネスト・バエス」は、幾つかのNGOがOASと共に本来の任務ではない司法調査を行っていると批判した。また、NGOのヒューマン・ライツ・ウォッチはOASのコロンビア和平プロセス支援ミッションの活動が消極的であり、「パラ」の敵対行為停止の監視等を十分に行っていないと批判した。
(ロ)武装放棄
(a)1日、「パラ」リーダーの「ドン・ベルナ」配下の「グラナダの英雄」ブロック構成員2033人が武装放棄した。今回の武装放棄は2003年以降の「パラ」の武装放棄で最大規模である。
(b)23日、対米引渡から逃れるために「パラ」として振る舞っている麻薬マフィアの一人と考えられていた「ゴルド・リンド」が、太平洋ブロックの150人と共に武装放棄した。なお、「ゴルド・リンド」は麻薬密輸及び資金洗浄の容疑で米国から引渡要請が為されている。
(2)ELNによる神父殺害
15日、ノルテ・デ・サンタンデール県オカーニャにおいて神父2人と左官2人が襲撃され、殺害された。当初、警察はFARCによる犯行としていたが、19日にはELNの北東部戦線が誤った情報により襲撃をしたことを認めて許しを求めた。しかし、殺害に加わった者の名前を明かしておらず、当局への引渡についても言及していない。
(3)FARC
(イ)人道的人質交換交渉の提案
(a)バジェ県カイセドニアにおける人質交換交渉提案
7月26日、レストレポ和平高等弁務官は、FARCとの人道的人質交換を模索するためにFARCが指定する場所で、FARCの都合の良い時に、FARCと早急に会合を持つようウリベ大統領から指示されたことを明らかにした。8月4日、現在FARCに誘拐されているバジェ県議会議員の家族が住んでいるバジェ県カイセドニアのアウレス地区が今回の政府提案を受けて、レストレポ和平高等弁務官に対し同地区を本件交渉の会合場所として承認するよう求めた。9日、レストレポ和平高等弁務官はその要請に対し、政府が同地区をFARCとの会合場所として承認した旨発表した。
(b)FARCは14日付コミュニケにより、安全確保のためにフロリダ、プラデラ両村の30日間の非軍事化を求めた。16日、これに対しウリベ大統領は同両村の非軍事化の可能性を否定し、今回の交渉提案は事実上決裂した。
(ロ)IRAメンバーと思しき3名
昨年12月にFARCに対する爆弾製造技術の指導の容疑で有罪判決を受けながら行方がわからなくなっていたIRAメンバーと思しき3人のアイルランド人が偽造旅券を用いてアイルランドに戻っていたことが判明し、5日にはメンバーの一人がニュース番組に出演した。コロンビア政府は3人の引渡を求めることを検討しているが、コロンビアとアイルランドの間には犯罪人引渡条約がないため、今後の進展は不明。なお、英国政府は3人が英国に入国した場合にはコロンビアに引き渡す旨表明した。
(ハ)FARCの攻撃
(a)1日、コロンビア北部のセサル県バジェドゥパール市郊外において、爆弾による攻撃で14人の警察官が殺害された。
(b)9日、FARCがカケタ県の送電塔に対して攻撃を行ったため、サン・ビセンテ・デル・カグアン他カケタ県各地に対する電力供給が停止した他、幹線道路に対する攻撃も行われた。電力システムに対する攻撃は、7月にプトゥマヨ県においても行われていた。
(c)アンティオキア県北部のプエルト・バルディビアにおいて、FARC第36戦線はコカ栽培に従事していた農民を襲撃し、12人が死亡6人が負傷した。
(ニ)FARC幹部の逮捕
19日、FARC幹部のフランシスコ・アントニオ・カデナ・コジャソス(通称「カミーロ」又は「エル・クーラ」)がブラジルで逮捕された。「カミーロ」は元神父でFARC最高司令官の「マヌエル・マルランダ」に近い人物とされる。
Ⅲ.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1450件<115件>/1476件<162件>
(2)集団殺人:8件47人<0件0人>/3件26人<0件0人>
(3)脅迫:18件<4件>/26件<4件>
(4)窃盗・強盗:5426件<1830件>/4892件<1536件>
(5)自動車盗難:1345件<439件>/1364件<436件>
(6)誘拐:17件<2件>/32件<0件>
(7)テロ:46件<0件>/54件<1件>
2.主な事件
(1)16日、パナマ発マルティニーク行きの当国ウエスト・カリビアン航空のチャーター機がベネズエラのマチケス地域に墜落し、乗員乗客の160人全員が死亡した。エンジントラブルのためマラカイボ空港へ緊急着陸する旨連絡があった後、通信が途絶えていた。
Ⅳ.外交
1.対米外交
(1)ウリベ大統領夫妻の米国訪問
4日、ブッシュ大統領夫妻の招待により、ウリベ大統領夫妻はモレノ駐米コロンビア大使、バルコ外相、ボテロ商務相、オスピナ国防相他と共にテキサス州クロフォードのブッシュ大統領の私邸を訪問し、ブッシュ大統領夫妻、ライス国務長官らと会合を持った。会合においてウリベ大統領は次期IDB総裁選挙における米国のモレノ候補支持に謝意を表明した他、「パラ」の武装放棄、FTA、「公正・和平」法について会談した。また、ブッシュ大統領はウリベ大統領に対し、コロンビア支援継続を約束した。
(2)対コロンビア支援の凍結解除
米国務省は3日付の声明により、コロンビア政府及び治安機関による人権状況の改善を認め、70百万ドルの対コロンビア支援の凍結解除を行った。
しかし、米国議会を通過して現在ブッシュ大統領の裁可待ちとなっている法案では、犯罪人を米国に引き渡さない国家への財政支援を承認しないとしているため、米国の対コロンビア支援は未だ不透明であるとマスコミは報じている。
(3)コカイン密輸の米国軍人に対する判決
3月28日にプラン・コロンビアの後方支援に用いられていた米国の航空機から16キロのコカインが発見され、米国軍人5人が逮捕された件に関し(当館注:うち1人はその後、釈放された)、8月14日、テキサス州フォート・ブリス基地における軍事裁判において5人のうち1人に懲役5年が宣告された。他3人については判決待ちとなっている。なお、同罪はコロンビアでは最低21年の懲役となるとの報道があった。
(4)23日~24日、アルベルト・ゴンサレス米司法長官がコロンビアを訪問し、ウリベ大統領、イグアラン検察庁長官他と対米引渡、「公正・和平」法、麻薬カルテル対策等について会談を行った。ゴンサレス長官は、たとえコロンビア政府の和平プロセスに参加していようとも、麻薬取引の容疑のある「パラ」リーダーを米国に引き渡すよう主張した。
2.要人往来
(1)インスルサOAS事務局長のコロンビア訪問
29日~30日の日程でインスルサOAS事務局長が当国を訪問し、ウリベ大統領、バルコ外相、レストレポ和平高等弁務官他と主にパラミリタリーの武装放棄プロセスに関して会談を行い、本件プロセスに対するOASの支援を表明した。
(2)バルコ外相の中米訪問
9日、バルコ外相は8日から12日の日程でホンジュラス、グアテマラ、エルサルバドル、ジャマイカを訪問し、貿易、技術協力、教育、文化、移民、安全保障等について各国外相らと会談した。
(3)バルコ外相のリオ・グループ特別外相会合(於:バリロチェ)出席
25日~26日の日程でバルコ外相がアルゼンチンで開催されたリオ・グループ特別外相会合に出席した。同会合では、「パラ」の武装放棄プロセス及びOASによるコロンビア和平プロセス支援ミッションに対する支持が表明された。