コロンビア内政・外交状況(9月)
Ⅰ.概要
●内政:大統領の再選が可能な場合(10月19日、憲法裁判所より再選を認める判断が下った)、ウリベ大統領(大統領選挙、明年5月)は過半数の得票で勝利するとの世論調査結果が出た。「公正・和平」法の初めての適用が元FARCゲリラに対して為されることが発表された。非合法武装勢力については、政府が和平プロセスに向けた活動を行うために収監中のガランELN代表の臨時出所を認めた他、パラミリタリー・リーダーの「ドン・ベルナ」の対米引渡には条件が付された。
●外交:ウリベ大統領は国連首脳会合及び国連総会において演説を行った他、米国議会関係者と「公正・和平」法等につき会談した。また、ラゴス・チリ大統領、バスケス・ウルグアイ大統領がコロンビアを訪問した他、グティエレス前エクアドル大統領がコロンビアを訪れて領域内庇護を申請した(10月4日「コ」政府により右が認められたが、その後、同前大統領はエクアドルに帰国した)。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)大統領再選法
(a)7日、マヤ行政監察庁長官は、現職大統領の再選が可能となった場合の候補者間の公平性を維持するための選挙保障法に関し、23項目の修正及び削除を求め同法を国会に差し戻すよう求めた。マヤ長官は2ヶ月前にも憲法裁判所に対して大統領再選法を不承認するよう求めている。
(b)18日付エル・ティエンポ紙は、憲法裁判所が大統領再選法を不承認とした場合、ウリベ派議員のマリオ・ウリベ上院議員、ジミー・チャモロ上院議員、ヘルマン・バルガス上院議員等が、大統領再選に関する国民投票、大統領選において白票を投じる運動等の代替策を計画していることを報じた。
(c)プレテル内務・法務大臣は19日付エル・ティエンポ紙のインタビューにおいて、憲法裁判所はゲリラや麻薬組織等、大統領再選に反対する過激なセクターから圧力を受けていると述べた。これに対して19日に憲法裁判所はコミュニケを発出し、どの判事も如何なる圧力も受けていない旨表明し、他方、ウリベ大統領は政府関係者に対し、憲法裁判所が静かな環境で判断を出せるよう沈黙を求めた。
(2)「公正・和平」法
(イ)9日、レストレポ和平高等弁務官は、パラミリタリーに恩恵を与えるための法律と批判されている「公正・和平」法を39人の元FARCゲリラに対して適用する旨明らかにした。これにより、同法が適用される元ゲリラは全ての罪を自白する等の条件を満たすことで刑期は最高8年へと短縮される。一方、14日付エル・ティエンポ紙は、39人のうち1人が元ゲリラではない疑いがあるとした他、同FARCゲリラの一人であるチャベラ・アセベドは1994年に武装放棄して既にその恩恵を受けていたが、その後3人を殺害して服役をしていたため、今回で2回目の武装放棄の恩恵を受けることになると批判している。
(3)世論調査結果
世論調査会社ナポレオン・フランコ社が6月17日から9月21日に全国1209人の18歳以上の男女を対象に行った世論調査結果が発表された。興味深い点は次の通り。
(イ)大統領再選が可能な場合、誰に投票するか。
(a)ウリベ大統領:56%
(b)自由党の候補者:11%
(c)モックス前ボゴタ市長:5%
(d)左派系ポロ・デモクラティコ或いはアルテルナティーバ・デモクラティカの候補者:5%
(e)ペニャロサ元ボゴタ市長:4%
(f)不明:7%
(g)白票:6%
(h)棄権:6%
(ロ)大統領再選がない場合、誰に投票するか。
(a)自由党候補者:15%
(b)モックス前ボゴタ市長:11%
(c)左派系ポロ・デモクラティコ或いはアルテルナティーバ・デモクラティカの候補者:8%
(d)ペニャロサ元ボゴタ市長:10%
(e)不明:13%
(f)白票:20%
(g)棄権:22%
(ハ)大統領再選がない場合、誰が大統領になると思うか(上位6人のみ)
(a)オラシオ・セルパ(自由党):30%
(b)ペニャロサ元ボゴタ市長:10%
(c)モックス前ボゴタ市長:8%
(d)ガルソン・ボゴタ市長:8%
(e)ナバロ上院議員(左派):6%
(f)ノエミ・サニン駐西大使:6%
(4)トゥルバイ元大統領の逝去
13日、トゥルバイ元大統領が内臓疾患のため逝去した。享年89歳。同氏は1978年から1982年まで大統領を務めた自由党の重鎮で、任期中には非合法武装組織「M-19」によるドミニカ共和国大使館占拠事件に対処した。最近ではウリベ大統領の再選を積極的に支援していた。
2.非合法武装勢力
(1)ELN
(イ)6日、ウリベ大統領はELNが敵対行為を停止することを条件に、ELNとの間に国内紛争があることを認める旨発言した。ウリベ大統領はこれまでコロンビアには紛争は存在せず、テロリストの脅威のみが存在するとしてきた。
(ロ)7日、政府はイタグイ刑務所に収監中のフランシスコ・ガランELN代表が政府とELNの和平への対話に向けた活動を行うために3ヶ月の間、臨時出所することを認める決定を行った。
(ハ)9日付エル・ティエンポ紙は、ELNとの和平交渉仲介を行っている市民団体がコミュニケを通じ、本件和平交渉提案をフェリペ・ゴンサレス元西首相及びノーベル賞作家のガルシア・マルケスに通知したことを明らかにし、フェリペ・ゴンサレス元西首相が交渉保証人となる可能性があると報じた。
(ニ)12日、ガランELN代表は、レストレポ和平高等弁務官の他、以後ガランと対話を行う「市民保証人」グループのメンバーと共にイタグイ刑務所を臨時出所し、和平プロセスに向けた作業を行う「和平の家」へ移動した。
(ホ)16日にチャベス・ベネズエラ大統領が国連本部の記者会見において、ELNから和平プロセスの仲介促進の申し入れがあった場合はベネズエラ領を中立地帯として提供する旨発言したことに対し、ELN書記局はコミュニケを通じてチャベス「ベ」大統領の提案を感謝して受諾する旨表明した。
(2)FARC
(イ)人道的人質交換
(a)政府による人道的人質交換交渉提案
8日、レストレポ和平高等弁務官は、人道的人質交換交渉に道を開くためにバジェ県プラデラ村ボロ・アスール地区において10日間の国軍による軍事活動停止及びFARCの交渉参加者の身の安全を保障することを提案した。これに対し、FARC国際委員会は10日付コミュニケにより同提案を拒否し、従来通り、バジェ県プラデラ及びフロレンシア両村における30日間の治安機関撤退を要求した。
(b)フランスとFARC幹部の会合疑惑
20日、フランスの密使とFARC幹部のラウル・レジェスがコロンビア・エクアドルの国境地帯で秘密裏の会合を行っていたとインターネット版エル・ティエンポ紙が報じた。
21日、コロンビア政府は、同政府の許可なく行われている交渉に対し抗議する旨の文書を駐コロンビア・フランス大使に渡した。
(ロ)攻撃
(a)19日、トリマ県とキンディオ県の間のラ・リネアにおいてFARCの攻撃があり、警官1人が死亡、2人が負傷した。
(b)20日、ナリーニョ県におけるFARC第29戦線の攻撃により、約300世帯が避難する事態となった。また、22日には同県のFARCの地雷埋設地帯において9人の警官と2人の市民が死亡し、3人が負傷した。
(ハ)FARCの逮捕者
(a)FARC幹部ラウル・レジェスは5日付左派系通信社Anncolホームページを通じて、8月24日にブラジルで逮捕された「カミーロ」がFARC国際委員会に所属していることを明らかにするとともに、同人を人道的人質交換の交換対象リストに加える旨表明した。
(b)14日、メタ県各地の爆弾テロに関わり、またボゴタ市では公共交通のトランス・ミレニオを含む交通機関を破壊しようとしていたFARCの爆弾専門家ウィルソン・エルリデス・バラガン(通称「エル・ディアブロ」)が逮捕された。
(3)パラミリタリー
(イ)「ドン・ベルナ」の処遇
(a)麻薬取引の罪で米国から引渡を求められていた「パラ」リーダーの「ドン・ベルナ」に対し、29日、コロンビア政府は「ドン・ベルナ」の対米引渡に条件を付す決定を下した。これにより「ドン・ベルナ」は和平プロセスへの貢献、違法行為の停止等の条件に従わない場合に米国へ引き渡されることとなった。この決定に対し、ウッド駐米コロンビア大使は「ドン・ベルナ」の引渡が中断されたことに落胆の意を表明した。
(b)29日夜、ウリベ大統領は「ドン・ベルナ」を収監中の農場からコンビタ最高警備刑務所へと移送することを決定し、翌30日に同人は刑務所に移送された。ウッド駐コロンビア米国大使は同大使館ホームページを通じて今回の措置を評価した。
(ロ)武装放棄
(a)3日、カサナーレ県において、センタウロス・ブロック構成員1135人が「パラ」リーダーのビセンテ・カスターニョと共に武装放棄した。
(b)11日、アンティオキア県において北西部ブロックの250人が武装放棄した。
(c)6月11日に武装放棄の意志を表明していたタイロナ抵抗ブロックのリーダー、エルナン・ヒラルドは、14日、シエラ・ネバダ・デ・サンタ・マルタ北部の農民と武装放棄者の安全の保障を400人の構成員の武装放棄の条件とすることを政府に通告した。
(d)24日、ビチャーダ県において、ボリーバル中央ブロックの300人が武装放棄した。
(e)20日付エル・ティエンポ紙は、統計によると和平プロセスに参加している「パラ」の約65%のみが武器を引き渡したに過ぎず、また、当局及び専門家は高性能の武器は隠匿されているとの見方をしていることを報じた。
(ハ)和平プロセス
16日、プレテル内務・法務大臣は「指定地域」サンタ・フェ・デ・ラリートに集結している「パラ」リーダーに対し、武装放棄プロセスが完了した後は「公正・和平」法に従い刑務所で刑期を務めるよう通告した。
Ⅲ.治安
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1359件<117件>/1450件<115件>
(2)集団殺人:4件17人<1件4人>/8件47人<0件0人>
(3)脅迫:31件<2件>/18件<4件>
(4)窃盗・強盗:5556件<1923件>/5426件<1830件>
(5)自動車盗難:1262件<445件>/1345件<439件>
(6)誘拐:40件<2件>/17件<2件>
(7)テロ:43件<0件>/46件<0件>
2.主な事件
(1)ボゴタ市におけるコカイン大量押収の続報
8月31日にボゴタ市で押収された3.8トンのコカインが、カサナーレ県のパラミリタリー、麻薬組織ノルテ・デル・バジェ・カルテル及びFARC第43戦線のものと判明した。
(2)麻薬組織の欧州ネットワークへの打撃
オランダ、ベルギー、スペインの警察当局の共同作戦により、麻薬組織ノルテ・デル・バジェ・カルテルの欧州ネットワークに加わっていた10人のコロンビア人を含む16人が逮捕されていたことが5日に公表された。この作戦は8月上旬に開始され、高純度のコカイン4600キロも押収されている。
(3)非合法武装勢力間抗争による一般市民の犠牲者
7日、プトゥマヨ県におけるFARCと「パラ」の戦闘で2人の幼女が死亡し、29人の農民が負傷した。また、8日にも同県におけるFARCと「パラ」の戦闘で2人の子供が死亡した他、子供13人を含む29人が負傷した。
(4)ハイジャック
12日、バジェ県フロレンシアを出発したアイレス航空の小型機(乗員・乗客25人)が親子2人にハイジャックされたが、ボゴタ市に着陸した後、犯人は人質を解放して自らも投降した。犯人は、1991年にカケタ県における警察とゲリラの銃撃戦で被弾して半身不随となったポルフィリオ・ラミーレスとその息子であり、ラミーレスは国に対して賠償金を求めていたが支払われなかったために、その支払いを求めて犯行を行ったとのことである。
(5)コカインの押収
最新の政府当局の統計によると、2005年の9月までのコカイン押収量は、海軍が61.5トン、警察が60.1トンと、既に2004年1年間の押収量を超えていることが判明した。また、警察によると、違法作物撲滅のための除草剤散布面積も既に11万8209ヘクタールに達しており、昨年の13万9611ヘクタールを上回るとのことである。その他、手作業による違法作物の除去も1万7922ヘクタールと昨年の5倍に達していることが明らかになった。
また、21日には、9月上旬にブエナベントゥーラを出航した船から6トンのコカインが発見され、9人が逮捕された。
(6)村松治夫氏の誘拐・殺害に関する起訴
22日、検察は村松治夫氏の誘拐及び殺害に関し、FARC第22戦線のウィルマル・アントニオ・マルティン(通称「ウーゴ」)司令官を起訴した。
Ⅳ.外交
1.国連首脳会合及び第60回国連総会
(1)16日、ウリベ大統領は国連首脳会合において演説を行い、コロンビアにおける治安対策及び社会政策の推進を表明した他、国連改革に関しては現実を反映した改革となるよう求めた。
(2)17日、ウリベ大統領は国連総会において演説を行い、民主主義について各国政府を右派、左派と分類することは政治的分極化を招くと否定し、国連改革については多国間主義の強化と経費節約を求めた。また、当国政府が進めている武装放棄者の社会復帰計画及び麻薬代替プログラムへの支援を求めた。
2.対米関係
(1)本年3月に麻薬密輸の容疑で逮捕されたプラン・コロンビアに参加していた米国兵士が、2003年7月から合計85キロのコカインをコーヒーの箱に隠し、軍用機により密輸していたと自白していたことを9日付エル・ティエンポ紙が報じた。
(2)14日~18日、ウリベ大統領は国連首脳会合及び国連総会出席のために訪米した際、議会関係者及び報道関係者と「パラ」の武装放棄プロセス、「公正・和平」法等につき会談した。
2.要人往来
(1)ラゴス・チリ大統領の訪問
ラゴス・チリ大統領は2日~3日の日程でコロンビアを訪問してウリベ大統領他と会談し、OASのコロンビア和平プロセス支援ミッション、コロンビアのAPEC加盟、南米共同体、放射性物質の輸送等に関する共同宣言を発出した。
(2)バスケス・ウルグアイ大統領の訪問
18日~20日の日程でバスケス・ウルグアイ大統領はコロンビアを訪問してウリベ大統領他と会談を行い、国連改革、OASコロンビア和平プロセス支援ミッション、地域統合等に関する共同宣言を発出した。
3.政治亡命
21日、グティエレス元エクアドル大統領はコロンビアを訪れ、領域内庇護を求めた。また、グティエレス元大統領は、パラシオ・エクアドル大統領がコロンビアとの二国間関係を危険に晒していると批判した。なお、コロンビア政府は10月4日、グティエレス前「エ」大統領に対して領域内庇護を認めたが、13日、同前「エ」大統領はコロンビア外務省に対して領域内庇護を放棄する旨の書簡を送付した。