コロンビア内政・外交状況(10月)
Ⅰ.概要
●内政:大統領の再選を可能とする憲法改正法案が憲法裁判所において承認された。パラミリタリーの武装放棄プロセスは、収監中の「パラ」リーダー「ドン・ベルナ」の処遇を巡って中断した。他方、EUは本件プロセスへの支持を表明し、インスルサOAS事務総長は対コロンビア支援ミッションの強化を提案して加盟国の支持を得た。
●外交:
ウリベ大統領は第15回イベロアメリカ・サミットに参加した他、エクアドルを訪問してパラシオ・エクアドル大統領と会談した。グティエレス前エクアドル大統領がコロンビアにおいて領域内庇護を求め、承認されたが、同前「エ」大統領はそれを放棄してエクアドルに帰国した。また、ボット・オランダ外相がコロンビアを訪問し、OASコロンビア和平プロセス支援ミッション等に対する支持を表明した。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)大統領再選を可能とする憲法改正
19日、憲法裁判所は「議会は大統領再選を可能とするための憲法改正を行うことができる」に関して賛成7、反対2でこれを承認し、以て大統領の再選が可能となった。他方、「国会が選挙保障法(現職大統領の候補者とその他の候補者との公平性を保証する法律)を策定する権限を国務院に対して付与する」ことは8対1で否決されたため、大統領の再選が可能となるためには憲法裁判所で同様に審議されている選挙保障法が承認されることが必要となった。なお、選挙保障法は11月11日に憲法裁判所によって一部修正された上で承認された。
(2)大統領府治安局(DAS)を巡るスキャンダル
エル・ティエンポ紙によると、15日、DAS副長官室の高官がノゲーラDAS長官に近い人物に対する捜査をしているとの噂が広がり、その後、同長官が信頼を置いていたエンリケ・アリサ特別諜報局長が「パラ」に対して秘密裏に情報提供するための事務所を設置しようとしている内容の盗聴テープがDAS捜査員によって提出された。これを受けてノゲーラDAS長官は辞任を表明し、25日、ウリベ大統領はそれを承認した。また、ナルバエスDAS副長官は同日解任された。
2.非合法武装勢力
(1)パラミリタリー
(イ)武装放棄プロセスの中断
9月30日に「パラ」リーダーの「ドン・ベルナ」が収監されていた農場からコンビタ最高警備刑務所に移送されたことを受け、10月6日、「パラ」幹部は「ドン・ベルナ」に対する政府の措置に抗議し、武装放棄プロセスを停止することを決定した。また、「ドン・ベルナ」を和平プロセスの交渉人の地位に戻すよう政府に求めた。
これに対し、政府は7日付コミュニケを通じて「パラ」に和平プロセスへの真摯な姿勢を求め、11日には「ドン・ベルナ」をコンビタ最高警備刑務所から、同人がこれまで活動してきたアンティオキア県のイタグイ最高警備刑務所に移送して事態の打開を図ったが、武装放棄プロセスの再開には至らなかった。
また、22日、「パラ」リーダーの「エルネスト・バエス」は、「公正・和平」法の適用、武装放棄者のための生産プロジェクト等が不透明であるとして、合意されていた年内の武装放棄完了が不可能であると述べた。
(ロ)国際社会のコロンビア和平プロセス支援
(a)EU
EU閣僚理事会は3日に採択した宣言の中で「公正・和平」法及びOASコロンビア和平プロセス支援ミッションへの支持を表明した。
(b)OAS
12日、インスルサOAS事務総長はOAS常設理事会においてコロンビア和平プロセス支援ミッションの拡充を提案し、OAS加盟国の大多数の支持を得た。インスルサ事務総長の提案には、同ミッションの人員を100人以上にすること、また年間予算を現在の6倍となる1000万ドルに増加すること等が含まれている。
(2)FARC
(イ)アラウカ県の封鎖
1日、FARCはアラウカ県の送電塔4基を破壊して同県に対する電力の供給を停止した上、幹線道路を武力により封鎖した。この封鎖による被害は70億ペソ以上に及ぶ見込みである。
(ロ)治安機関に対する攻撃
2日、FARCはチョコ県シピにおいてライフル銃を奪うために警察官を襲撃し、1人が死亡、11人が負傷した。また、9日はアラウカ県フォルトゥル及びウイラ県カンポアレグレにおけるFARCの攻撃により、5人の警官が死亡した。更にウラバ地方では15日のFARCによる攻撃で7人の国軍兵士が死亡した。
(ハ)国軍による対FARC作戦
国軍が23日に傍受したFARCの衛星通信により、26日にコロンビア南部のグアビアーレ県とバウペス県の県境に位置する河川を移動中のゲリラの集団を急襲する「トロヤ」作戦が国軍により実施され、FARC第44戦線及び第39戦線の司令官を含む多数のゲリラが死亡した。
3.麻薬
(1)コカ栽培を巡る戦闘
2日、メタ県ビスタエルモサにおいてコカ栽培を巡ってFARCとパラミリタリーが交戦し、13人が死亡、11人が負傷、約40人が行方不明となった。
(2)国立公園における違法作物除去
9日、プレテル内務・法務大臣は約3900ヘクタールのコカ栽培面積があるとされるマカレナ国立公園を上空から視察した。その後、年内は国立公園内の違法作物除去を除草剤の空中散布ではなく手作業で行い、その結果を受けて国立公園における除草剤の空中散布を行うか否かの判断を明年始めに行う旨発表した。これまで政府は国立公園における除草剤散布を推進していた。
(3)押収コカイン
11日、ナリーニョ県トゥマコで7.5トンのコカイン(2億ドル相当)が押収された。このコカインはパラミリタリー及び麻薬組織ノルテ・デル・バジェ・カルテルのものとされる。
Ⅲ.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1423件<125件>/1450件<115件>
(2)集団殺人:1件5人<0件0人>/8件47人<0件0人>
(3)脅迫:62件<5件>/18件<4件>
(4)窃盗・強盗:5385件<1910件>/5426件<1830件>
(5)自動車盗難:1327件<410件>/1345件<439件>
(6)誘拐:15件<1件>/17件<2件>
(7)テロ:60件<2件>/46件<0件>
2.主な事件
(1)ヘルマン・バルガス上院議員暗殺未遂事件
10日、ヘルマン・バルガス上院議員が帰宅途中に車爆弾によるテロに遭い、警護車輌が炎上した。バルガス上院議員は無事であったが、9人が負傷した。なお、バルガス上院議員は2002年12月にも郵便爆弾のテロ攻撃を受けている。
本件に関しては、FARC、麻薬組織、麻薬組織と結びついたパラミリタリー等の犯行説が出たが、真相は依然不明のままである。他方、FARCは25日付コミュニケにより本件とは無関係である旨表明した。
(2)武装放棄者によるウリベ大統領の隣人の誘拐、殺人
ウリベ大統領の農場の隣人である花卉業者エルナンド・カダビッドが13日に誘拐され、22日に死体となって発見された事件で、「グラナダの英雄」ブロック及びモンテス・デ・マリア・ブロックに所属していた「パラ」武装放棄者を含む7人が逮捕された。
(3)迫撃砲弾の発見
11日、大統領府警護隊の敷地に迫撃砲弾が着弾し、同砲弾を発射したとされる民家から9台の発射台及び迫撃砲弾が発見されたが、15日付エル・ティエンポ紙は迫撃砲弾に敢えて「FARC」の文字が書かれているなど不審な点があるとの見方も報じた。
(4)ハリケーン「ベータ」
28日、ハリケーン「ベータ」によりプロビデンシア島の家屋40%が破壊され、住民5000人の半数が被災した。
Ⅳ.外交
1.グティエレス前エクアドル大統領のコロンビアへの亡命
9月21日、グティエレス前エクアドル大統領はコロンビアを訪れて領域内庇護を求めていたところ、10月4日、バルコ外相はグティエレス前「エ」大統領に対し、政府決定第4638号によりコロンビア政府が同人に対してコロンビア共和国における領域内庇護を承認する旨通知した。本件に関しバルコ外相は、グティエレス前「エ」大統領の政治亡命は承認されたが、同人がコロンビア・エクアドル関係に干渉することのないよう求めた。
13日、外務省は、グティエレス前エクアドル大統領が領域内庇護を放棄し、エクアドルに向けて出発することを伝える書簡を受領したことを明らかにした。14日、グティエレス前エクアドル大統領はチャーター機によりエクアドルに帰国し、エクアドル警察当局に身柄を拘束された。
2.米国の対コロンビア軍事支援削減の可能性
9日付エル・ティエンポ紙は、米国会計監査院(GAO)の報告書を引用し、米国のイラク、アフガニスタンにおける兵員の再配置及び予算状況により、今後、カーニョ・リモン-コベーニャス石油パイプラインの警護及び「愛国プラン」におけるコロンビア軍の訓練を行っている米国特殊部隊の人員が50%以上削減されると報じた。
3.要人往来
(1)第15回イベロアメリカ・サミット参加
ウリベ大統領は14日から15日にスペインで開催された第15回イベロアメリカ・サミットに出席し、「パラ」との武装放棄プロセスに対して国際社会からの支援を得た。他方、サラマンカ宣言においてコロンビアの非合法武装集団をテロリストとして非難することに関しては、キューバ及びベネズエラの反対があった。
(2)ボット・オランダ外相の訪問
19日、ボット・オランダ外相がコロンビアを訪問し、ウリベ大統領他と会談した。ボット外相は、パラミリタリーの武装放棄者を主たる対象とした「公正・和平」法、ウリベ大統領の治安対策(Seguridad
Democratica)及びOASコロンビア和平プロセス支援ミッションに対する支持を表明した。
(3)ウリベ大統領のエクアドル訪問
23日、ウリベ大統領、バルコ外相他はキトを訪問し、パラシオ・エクアドル大統領他と主に対米FTA交渉について会談を行った。