コロンビア内政・外交状況(11月)

 

Ⅰ.概要

●内政:11日、憲法裁判所が大統領選挙における現職大統領と他の候補者の公平性を保つための選挙保障法を承認したことを受けて、27日、ウリベ大統領は次期大統領選挙に立候補を表明した。パラミリタリーの武装放棄プロセスは106日から停止されていたが、16日、政府と「パラ」リーダーは本件プロセスを再開することで合意した。FARCとの人道的人質交換交渉に関しては、20日、政府が国際的な委員会との交渉開始に向けた作業を行うことを承認したが、FARCはウリベ政権との交渉を拒否した。

●外交:チャベス・ベネズエラ大統領は、コロンビア大統領府治安局(DAS)がベネズエラ政府に対する陰謀を企てていると批判したが、24日にウリベ大統領がベネズエラを訪問した際にはチャベス大統領はコロンビアの国内問題として言及を避け、ウリベ大統領は本件詳細を調査すると発言した。また、要人往来面ではウリベ大統領が4日~5日の米州サミット(於:アルゼンチン)に参加した他、フェルナンデス・ドミニカ共和国大統領がコロンビアを訪問した。

 

 

Ⅱ.内政

1.内政一般

(1)次期大統領選挙

(イ)大統領再選のための選挙保障法とウリベ大統領の立候補

 1019日に憲法裁判所によって大統領再選を可能とする憲法改正法案が承認されたため、現職大統領が候補者となった場合にその他の候補者との選挙活動における公平性を保つための法律である選挙保障法を憲法裁判所が承認するか否かが注目されていた。

 11日、憲法裁判所は賛成7対反対2の採決を以て、一部修正を施した上で同法を承認した。これを受けてウリベ大統領は27日にテレビ演説を通じて次期大統領選挙に立候補する旨表明した(注:選挙保障法は他の候補者との公平性を保つための諸規制を適用するために、現職の大統領に対してのみ1128日までに立候補するよう定めていた)。

(ロ)保守党の候補者選出投票

 27日、保守党は次期大統領選挙に際して独自候補を擁立するか、或いはウリベ大統領を支持するかを問う保守党員による投票を全国882の市町村で実施した。保守党ホームページによれば、全投票者の73%にあたる60万人以上がウリベ大統領を支持すべきとし、右に反対したのは196000票であった由。

(ハ)ペニャロサ元ボゴタ市長の不出馬表明

 ペニャロサ元ボゴタ市長は、20日付エル・ティエンポ紙のインタビュー記事において次期大統領選に出馬しない旨表明するとともに、明年312日の国会議員選挙に上院議員候補として出馬する意向を明らかにした。

(2)世論調査結果

 ギャロップ・コロンビアが111日から9日に全国4都市の男女1000人を対象に行った世論調査結果が公表された。興味深い点は次の通り。

(a)ウリベ大統領に対する好感度。( )内は8月の調査結果。

好感:69%(76%) 好感せず:21%(17%)

(b)ウリベ大統領の手腕

良い:72%(80%) 悪い:23%(17%)

(c)コロンビアは良くなっているか。

良くなっている:44%(49%) 悪くなっている:35%(33%)

(d)FTAについて

賛成:42%(55%) 反対:50%(37%)

(e)パラミリタリーとの和平プロセス

良い方向へ向かっている:60%(70%) 悪い方向:29%(22%)

(3)県知事、市長の再選問題

 ウリベ大統領は、1019日に憲法裁判所が大統領の再選を可能とする憲法改正法案を承認した後の演説において、県知事、市長の再選を可能とする法改正手続きを行うと述べたが、16日、上院本会議において本件法案は自由党、保守党の協力を得られずに廃案となった。自由党は、ウリベ大統領の意向を受けた県知事、市長の再選は地方自治体首長によるウリベ大統領支持を増加させる契機となると考え、また、保守党は現職の県知事、市長の大多数が自由党系であるため、これに反対した模様。

 

2.非合法武装勢力

(1)パラミリタリー

(イ)武装放棄プロセス再開への動き

(a)プロセスの中断

 「パラ」リーダー、「ドン・ベルナ」の条件付き対米引渡決定(当館注:929日、政府は「ドン・ベルナ」が和平プロセスに貢献し、違法行為を停止する等の条件に従わない場合に米国に引き渡すことを決定した旨大統領府コミュニケを通じて発表した)及び最高警備刑務所への収監により、106日以来中断されている「パラ」の武装放棄に関し、1日、大統領府は定められた武装放棄の期限20051231日までに武装放棄を完了するよう求めるとともに、自発的な武装放棄を拒否する者には軍事攻撃を行う旨のコミュニケを発した。

(b)「パラ」の政治参加を拒否

 4日、プレテル内務・法務大臣及びレストレポ和平高等弁務官は「パラ」リーダーに対し、現時点における政治参加を拒否し、1231日までの武装放棄を引き続き求めた。

(c)武装放棄プロセスの期限延長

 8日、レストレポ和平高等弁務官は「パラ」の武装放棄中断を再開すべく「パラ」リーダーと会合を持ち、信じるに足る作業上の理由があれば武装放棄期限は延長されると述べた。その後、16日にはプレテル内務・法務大臣が「パラ」リーダーと会合を持ち、「パラ」の武装放棄を2006年も継続することで合意した。他方、対米引渡は「パラ」との交渉マターではない旨「パラ」リーダーに通告した。

(ロ)米国の支援

 2日、米国議会は、2006年の予算において2000万ドルを上限として「パラ」及び他の非合法武装勢力との和平プロセスに条件付き(注:米国務長官が議会に対し、コロンビアが米国から引渡要請されている犯罪者の対米引渡に十分な協力を行っていることを証明する等)で資金援助することを承認した。本決定は、外国における作戦のための予算に関する両院協議会の枠組みで為された。

(2)ELNとの対話プロセス

 19日、ELN書記局はコミュニケを発出し、ELN書記局が「市民保証人グループ」の提案を受け入れ、今後、フランシスコ・ガランELN代表とレストレポ和平高等弁務官の間でコロンビア政府とELN間の正式会合の開催につき協議することに合意した旨明らかにした。

(3)FARC

(イ)人道的人質交換交渉

 20日、大統領府はFARCとの人道的人質交換交渉に関し、レストレポ和平高等弁務官が国際的な委員会と作業を進めることを承認した旨のコミュニケを発出した。また、21日付エル・ティエンポ紙はレストレポ和平高等弁務官が既にフランス及びスイス政府と接触していることを報じ、22日付同紙はジャン・バティスト・マティエ仏外務省スポークスマンがコロンビア政府による本決定を歓迎し、今後も人道的合意に向けた支援を行う用意があると発言した旨報じた。

 他方、FARC幹部「ラウル・レジェス」は27日に放映されたテレビインタビュー番組において、ウリベ政権との人道的人質交換交渉の可能性を否定した他、フランス政府の仲介によるイングリッド・ベタンクール前大統領候補(20022月に誘拐)解放の可能性を否定した。

(ロ)FARCの攻撃

(a)グアビアーレ県の大量誘拐

 28日、グアビアーレ県において23人がFARC7戦線によって誘拐され、その後、14人が解放された。誘拐がFARC掃討作戦「愛国プラン」の拠点付近で実行されただけでなく、軍駐屯地から僅か5キロメートルの地点で発生したため、同県住民から軍当局に対して強い批判が為された。

(b)農民に対する退去の脅迫

 16日、コーヒー栽培地帯のカルダス県エンシマーダスにおいて、FARCが農民に対して退去するよう脅迫したため、675人の子供を含む2218人の農民が避難した。FARCは農民が戻らぬよう地雷を埋設する等したが、17日には国軍が街道を制圧した。また、21日には国際赤十字委員会が人道支援を開始した。コーヒーの収穫時期であるため、農民は早期に帰還できるよう治安の回復を当局に求めた。

(ハ)FARC幹部の逮捕

 5日、FARC国際委員会のメンバーで米国におけるコカイン取引を行っていたファロウク・シャイク・レジェスが、メキシコから帰国した際、ボゴタ市のエル・ドラード空港で逮捕された。国軍及び検察庁によると、同人はFARCのコカインを米国に密輸していただけでなく、パラミリタリーのコカインも取り扱っていた由であり、当局が本年に逮捕したFARC国際委員会メンバーの中で最重要人物の一人であるとのこと。

 

 

Ⅲ.治安等

1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)

(1)殺人:1378件<117件>/1423件<125件>

(2)集団殺人:15人<00人>/15人<00人>

(3)脅迫:12件<3件>/62件<5件>

(4)窃盗・強盗:5313件<1823件>/5385件<1910件>

(5)自動車盗難:1347件<384件>/1327件<410件>>

(6)誘拐:24件<1件>/15件<1件>

(7)テロ:41件<1件>/60件<2件>

 

2.主な事件

(1)ガレラス山の噴火

 24日、コロンビア南西部のナリーニョ県に位置するガレラス山が噴火し、内務・法務省災害予防・支援局は、最高警戒レベルの「警戒警報レベル1」を発令した。これにより、コロンビア政府は周辺住民に避難勧告を行った。

 その後、噴火が沈静化したため25日にレベル2へ、28日にはレベル3へと引き下げられた。

(2)イタリア人観光客の殺害

 4日、912日から行方不明となっていたイタリア人観光客の遺体が容疑者の証言によりアトランティコ県で発見された。同人は知人のコロンビア人から土地取引を持ちかけられてアトランティコ県へ赴き、拷問を受けて金銭を奪われた後に殺害された由。大統領府治安局アトランティコ支部によれば、本件はゲリラとは無関係とのこと。

(3)米国におけるコカイン価格の上昇

 17日、ジョン・ウォルターズ米国麻薬統制政策局長は、ワシントン及びニューヨークの路上における1グラムあたりのコカインの価格が、2月の150ドルに比べて169ドルに上昇している他、麻薬密売組織は利益を確保するために不純物を混在させていると述べた。その理由として、コロンビアにおける麻薬対策が功を奏しているためであると説明した。

(4)ロベルト・カマチョ下院議員の事故死

 20日、保守党のロベルト・カマチョ下院議員が搭乗していたヘリコプターが悪天候のためクンディナマルカ県で墜落し、同議員は死亡した。カマチョ議員は当選4回の保守党の有力議員で、2006年の選挙には上院議員として出馬予定であったため、保守党にとっては大きな打撃となった。

 

 

Ⅳ.外交

1.要人往来

(1)フェルナンデス・ドミニカ共和国大統領の訪問

 8日、フェルナンデス・ドミニカ共和国大統領が当国を訪問し、ウリベ大統領とアルコール燃料等の代替エネルギー分野、治安及び麻薬対策等について会談した。

(2)レジェス外務次官のエクアドル訪問

 17日、レジェス外務次官はエクアドルを訪問し、リバデネイラ・エクアドル外務次官と国境地帯における違法作物に対する除草剤の空中散布、治安問題等に関し会談した。会談後、レジェス次官は明年1月から一時的にエクアドルとの国境地帯における除草剤の空中散布を停止し、手作業にて違法作物を除去することを発表した。

 

2.対ベネズエラ関係

(イ)大統領府治安局(DAS)を巡る軋轢

 2日、チャベス・ベネズエラ大統領はテレスール・テレビのインタビュー番組において、DASが「ベ」政府に対する陰謀を企て、コロンビア海軍と共に独立した政府機関のように振る舞っていると同機関を批判した。これに対し、ウリベ大統領は米州サミットにおいて証拠が示されることを期待すると発言したが、米州サミットにおいて本件に関する進展はなかった。

(ロ)ウリベ大統領のベネズエラ訪問

 24日、ウリベ大統領はベネズエラを訪問し、チャベス大統領とコロンビア領のグアヒーラからベネズエラ領のマラカイボを結ぶガス・パイプラインの敷設等エネルギー分野を中心に会談した。また、記者会見ではDASを巡る軋轢に関して質問が為され、チャベス「ベ」大統領は本件がコロンビアの国内問題であるとして回答を避け、ウリベ大統領は本件に関する書類をチャコン「ベ」内務司法相より受け取った旨明らかにし、今後、コロンビアにおいて詳細を調査すると述べた。

 

3.米州サミット

 ウリベ大統領は4日~5日にアルゼンチンのマル・デル・プラタにおいて開催された第4回米州サミットにバルコ外相、ボテロ商務・産業・観光相、レジェス外務次官とともに参加した。今次米州サミットでは、コロンビアに関し、コロンビアの和平構築努力及びOASのコロンビア和平プロセス支援ミッションを評価するとの宣言文が採択された。

 当国マスメディアは、ウリベ大統領が今次サミットにて仲介役に回り、同大統領が本年12月の香港でのWTO会合後に議論することを提案するまでFTAAをめぐるサミットでの議論は収まらなかったと報じた他、ウリベ大統領がFTAAに関する様々な見解を分析するための作業部会の設置を提案するとともに、明年1月以降に同会議をボゴタで開催する用意があると述べた旨報じた。