コロンビア内政・外交等定期報告(8月)
T.概要
<内政>
●7日に大統領就任式典が行われ、ウリベ政権の第2期目が開始した。また、アラウホ前文化大臣が外務大臣に就任した。
●2004年4月以後、行方不明となっていたカルロス・カスターニョ元AUC(全国自警団連合)最高司令官に関し、元「パラ」の供述によれば兄ビセンテの指示より殺害されていたことが明らかにされた。
●コロンビア各地でFARCによる攻撃が相次ぎ、ラ・グアヒラ県では88台のトレーラーが焼き払われた。
●マカレナ国立自然公園において、8人のコカの伐採者がFARCによって地中深く埋められた爆弾によって死亡した。
<外交>
●アラウホ外相がベネズエラ、エクアドル、パナマ、ペルー、チリを訪問した。
U.内政
1.内政一般
(1)大統領就任式典
7日、ウリベ大統領は、金田外務副大臣を含む国際社会からの73の代表団を迎えて第2期目を開始した。また、マリア・コンスエロ・アラウホ前文化大臣が同日、外務大臣に就任した。
(2)国会におけるウリベ派の影響力
(a)2日、上下両院の各7常設委員会の執行部が選出され、全ての委員会執行部がウリベ派議員によって占められた。
(b)30日、国会において全国選挙審議会(CNE)メンバー(9人)選出のための投票が行われた。結果は次の通り。ウリベ派の保守党(2人)、急進改革党(2人)、全国統一社会党(U党)(1人)、アラス・エキーポ・コロンビア党(1人)、市民集結党(1人)、反ウリベ派の自由党(1人)。選出を巡っては、ウリベ派の急進改革党と反ウリベ派の自由党が手を組んでそれぞれ2枠を獲得する一方で、ウリベ派最大政党のU党が1枠しか得ることができず、投票において寝返った「裏切り者」探しを行う等、遺恨を残した。
(3)人事
(イ)国軍人事
15日、国軍最高司令官にフレディ・パディージャ・レオン将軍、空軍総司令官にホルヘ・バジェステロス・ロドリゲス将軍、海軍総司令官にギジェルモ・エンリケ・バレラ・ウルタド海軍中将がそれぞれ就任した。
(ロ)内務・法務大臣
22日、保守党党首で元上院議員のカルロス・オルギン・サルディが内務・法務大臣に就任した。なお、9月7日、サバス・プレテル前内務・法務大臣はイタリア大使に任命された。
(4)紛争被害者補償
2日、「公正・和平」法により創設された全国紛争被害者補償・和解委員会(CNRR)は、FARCが結成された1964年以降の紛争被害者全てを補償対象とすることを発表した。
2.非合法武装勢力
(1)パラミリタリー
(イ)元「パラ」リーダーの収監
14日、ウリベ大統領は、それまで自由に行動していた元「パラ」リーダーに対し、和平プロセスの実効性を確保するために当局への出頭を命じた。また、出頭しない場合には対米引渡停止を含む法的恩恵を失うこととなると警告した。これにより、元「パラ」リーダーはアンティオキア県リオ・ネグロ市の警察署に出頭し、その後、ラ・セハ市の施設に移された。ビセンテ・カスターニョを始めとする数名の元「パラ」は依然として行方不明となっている。また、9月4日には北部ブロックの元リーダーである「ホルヘ40」がセサル県バジェドゥパール市において当局に出頭し、その後、ラ・セハ市の収監施設に移送された。
ウリベ大統領の本命令の背景には、「公正・和平」法の詳細を規定する政令公布前に、重罪を犯しているにも拘わらず自由に行動する元「パラ」リーダーへの批判が高まっていたことがあるとされる。
(ロ)カルロス・カスターニョ元AUC(全国自警団連合)最高司令官行方不明事件の真相
2004年4月、カルロス・カスターニョ元AUC最高司令官は正体不明の集団に襲撃され、行方不明となっていた。本年8月23日、カルロスの兄ビセンテ・カスターニョの命令を受けた同氏の警護隊長「モノレチェ」とその仲間がカルロスを襲撃し、殺害した旨、5人の元「パラ」メンバーが自白したとスクープされた。
翌24日、「モノレチェ」は当局に自首し、25日にはカルロスを殺害したことを自白した。その後、9月1日には「モノレチェ」の供述した場所からカルロス・カスターニョと思われる白骨化した死体が発見され、4日、イグアラン検察庁長官はDNA検査により死体がカルロス・カスターニョのものと判定された旨発表した。政府はビセンテ・カスターニョに対し早急に出頭するよう求めたが、これに応じず、9月20日、検察庁は同人の対米引渡も視野に入れつつ逮捕命令を発出した。依然、行方不明となっている。
(ハ)麻薬マフィアの「パラ」偽装
17日、米国から引渡要請が為されている麻薬マフィアのファン・カルロス・シエラ(「エル・トゥソ」)が元「パラ」リーダーが収監されているアンティオキア県リオ・ネグロ市の警察署に元「パラ」リーダーとして姿を現した。2005年3月10日にはウリベ大統領が同人を麻薬マフィアとして、「パラ」の和平交渉に参加することを拒んだ経緯があったため、論議を呼んだ。結局、18日に政府はコミュニケを発出し、同人が武装放棄を既に行い、政府の課す条件を受け入れたとして元「パラ」リーダーとして扱っている旨発表した。
また、昨年10月に逮捕された麻薬マフィアのジョン・エイデルベル・カノ(「ジョニー・カノ」)は、2003年9月に米国が麻薬取引、資金洗浄等の容疑により引渡要請を行っていたが、元「パラ」リーダーは引渡を阻止しようと「パラ」リーダーのリストに名前を入れていた。しかしながら、9月8日、政府は同人の対米引渡を承認した。
(ニ)元「パラ」リーダーのコスタリカ訪問
4日、「マカコ」を始めとする元「パラ」リーダー4人は、オスカル・アリアス・コスタリカ大統領の招きにより同国を訪問し、和平プロセスに関して意見交換を行った。
(ホ)15日、チョコ県において、AUCに帰属せずに和平プロセスに参加していた「パラ」の「エルメル・カルデナス」ブロックの構成員のうち、これまで武装放棄していなかった745人が、同ブロックのリーダーである「エル・アレマン」と共に武装放棄した。これにより、同ブロック構成員1538人全員が武装放棄したこととなった。
(ヘ)「公正・和平」法
29日、政府は「公正・和平」法の詳細を規定する政令の策定に関し、広く国民の意見を求めるために政令案を大統領府ホームページにおいて公表した。この政令案では、5月の憲法裁判所の判断によって削除された「パラ」に宥和的な条項(例えば、「パラ」の犯罪を政治犯罪とすること、指定地域で和平交渉を行っていた期間を刑期から差し引く等)が復活していた。
また、同日、「公正・和平」法による元「パラ」メンバーに対する司法手続きを開始するための政令を公布した。これを受け、31日、政府は元「パラ」の司法捜査を行う検察庁の「公正・和平」チームに対し、「公正・和平」法の適用申請者(2695人)リストを提出した。
(2)FARC
(イ)EUに対するテロ組織リストからの除外要請
7月20日、FARC書記局は、EU議長国であるフィンランドのマッティ・ヴァンハネン首相に宛てた書簡の中でFARCをEUのテロ組織リストから除外するよう求めていた。これに対し、8月7日、ジョセップ・ボレル欧州議会議長はFARCを同リストから除外する用意はないと述べ、(人道的合意等につき)言葉でなく行動で示すよう求めた。
(ロ)FARCの攻撃
(a)3日未明、FARCは米国政府の援助によって建設された警察の麻薬対策作戦センター(バジェ県トゥルア市)を襲撃。同時刻、ブガ−トゥルア間及びチャパラル−リオブランコ間の道路でFARCと思われる攻撃があり、トレーラー2台が焼かれ、合計6人の負傷者を出した。
(b)4日、バジェ県カリ市東部の警察署に対するFARCの攻撃により、警察官5人と市民1人が死亡した他、15人が負傷した。この攻撃によりバジェ県では1週間にFARCによるテロが4件発生し、コロンビアにおいて最もFARCにより被害を受けている県と報じられた。
(c)国際先住民デーの9日、ナリーニョ県の先住民アワの5人がFARCと思しき集団に殺害された。FARCは村外に避難していた同先住民600人の村への帰還を阻止している。
(d)14日未明、ラ・グアヒラ県マイカオ市郊外の先住民ワユーが経営する石油貯蔵施設において、FARCは88台のトレーラーを焼き払った。これに対し、15日、チャベス・ベネズエラ大統領はベネズエラを訪問中のアラウホ外相に焼失した88台のトレーラーのうち85台を補填すると伝えた他、ラミレス・ベネズエラ・エネルギー石油相は(コロンビア、ベネズエラ両国国境地帯に居住する)先住民ワユー支援政策の一環として、今後も石油の供給を継続すると述べた。他方、FARCのカリブ・ブロックは15日にコミュニケを発出し、この攻撃が「パラ」の資金源となっていた先住民ワユーの石油取引に対するものであったとした。
(ハ)メデジン公社へのFARCメンバーの浸透
4日、国軍がカルダス県アグアダス市で逮捕したFARCのフレディ・エスコバル・モンカダ(「マテオ」)が、メデジン公社(EPM)の理事であったことが判明した。「マテオ」はFARCメンバーとして6年間活動した後、4ヶ月前からEPMの理事に任命されていた。公共サービスを請け負っているEPMにおいて、「マテオ」はあらゆる情報を入手できる立場であったことから、どのような情報がFARCに流出していたのかが懸念されている。
(ニ)FARCの武器工場
11日、メタ県ビスタエルモサ市郊外において、国軍の対ゲリラ部隊がこれまでで最大規模となる武器の製造及び修理工場を発見した。同工場は1週間に迫撃砲弾500発製造の能力があった。
V.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)
(1)殺人:1412件<113件>/1436件<126件>
(2)集団殺人:3件15人<0件0人>/3件22人<0件0人>
(3)脅迫:39件<3件>/35件<1件>
(4)窃盗・強盗:5737件<1779件>/5371件<1558件>
(5)自動車盗難:1364件<353件>/1504件<399件>
(6)誘拐:35件<6件>/19件<1件>
(7)テロ:72件<1件>/43件<1件>
2.主な事件・事故
(1)コカ伐採者に対するテロ
2日、メタ県マカレナ国立自然公園内でコカの手作業による伐採を行っていた8人の伐採者が、地中に埋められた爆弾により殺害された。5メートルの深さに埋められた55キロの爆薬は、コカを引き抜くと爆発する仕掛けになっていたが、5メートルという深さのために爆弾探知犬、金属探知機等による事前調査でも爆弾を発見することができなかった。1月から実施されている同国立自然公園におけるコカの駆除作業では、この他に14人の警察官がFARCによって殺害された。
これまでに約3000ヘクタールのコカが駆除されたが、2日のテロを受けて政府は残りの約2000ヘクタールについては除草剤グリフォサートを空中散布することを決定し、4日、除草剤の散布を開始した。
(2)1985年の事件の再捜査
22日、検察庁は、1985年に発生したゲリラ組織M-19による最高裁判所占拠事件において行方不明とされていた同裁判所内の喫茶店店長が生きて裁判所を脱出したことを、同店長の父が証拠として示してきたビデオ映像によって認め、捜査を開始した。
(3)治安機関のスキャンダル
14日、アトランティコ県で2人が誘拐され、国軍の誘拐対策部隊が救出作戦を行い、その最中に犯人と思しき6人が死亡したとされた事件に関し、国軍司令部は同救出作戦に不自然な点があったことを明らかにした。その後、証拠のビデオ等により、検察庁は士官3人、兵士4人、DAS(大統領府治安局)捜査員1人の逮捕命令を出した。
W.外交
(1)アラウホ外相の外遊
(イ)15日、アラウホ外相はベネズエラを訪問し、エネルギー、貿易等につきチャベス・ベネズエラ大統領、マドゥーロ・ベネズエラ外相他と会談した。
(ロ)16日、エクアドルを訪問し、カリオン・エクアドル外相と国境地域の違法作物根絶のための除草剤空中散布問題等につき協議し、除草剤の散布については一時停止を維持することが確認された。
(ハ)21日にはパナマを訪問し、トリホス大統領及びルイス・ナバロ第一副大統領兼外務大臣と経済関係等につき会談した。
(ニ)28日、ペルーを訪問し、アラン・ガルシア・ペルー大統領及びホセ・アントニオ・ガルシア・ベラウンデ外相と麻薬対策、二国間協力等につき会談した。
(ホ)29日にはチリを訪問し、バチェレ大統領表敬、フォックスレイ外相とFTA等につき協議した。
(2)エクアドルとの軋轢
23日、コロンビア領から発射された爆発物等により、エクアドルのスクンビオス県で3人が負傷、少なくとも10軒の家屋が破壊された。本事件はコロンビア領における国軍とゲリラの戦闘によるものと見られている。