コロンビア内政・外交等定期報告(9月)

 

 

Ⅰ.概要

内政

●大統領就任式(87日)前後にボゴタ市で発生したテロ及びテロ未遂事件が、国軍兵士と元FARCによる「やらせ」であると報道された。ウリベ大統領は未だ証拠はないと述べている。

●対人地雷被害者数がアフガニスタン、カンボジアを抜き世界一となった。

FARCとの人道的人質交換交渉につき、政府とFARCのやりとりが頻繁となり、会合地域の設定が焦点となっている。

●在コロンビア米国大使館が米国民に対してボゴタ市北部でテロの可能性があることを警告し、事前に報告を受けていなかったとする政府及びボゴタ市当局との間に軋轢が生じた。

<外交>

●ウリベ大統領が米国を訪問し、国連総会で演説を行った他、ライス国務長官、クリントン前米国大統領他と会談した。

●サントス国防相がベネズエラを訪問した。

 

 

Ⅱ.内政

1.内政一般

(1)国軍のスキャンダル

 7日、731日に死者1人、負傷者21人を出した自動車爆弾テロを始めとする大統領就任式(87日)前後にボゴタ市で発生したテロ及びテロ未遂事件が、国軍兵士4人と元FARCメンバーの「ジェシカ」による「やらせ」であったとの報道が為された。報道によると、兵士は国軍の作戦の有効性を示し、また、(テロの情報提供による)報奨金を得る目的で「ジェシカ」に爆弾設置を依頼していたとの由。10日、ウリベ大統領は本件に関し、検察庁からの情報では未だ国軍兵士関与の証拠はないと述べた。その後、国軍はトリマ県のFARC幹部「ヘロニモ」を拘束するために「ジェシカ」が国軍情報機関に協力していたこと等を明らかにした。検察庁は証拠不十分としたため、現在、行政監察庁が調査を行っている。

(2)対人地雷

(a)被害者数世界一

 13日、ジュネーブにおいて、地雷禁止国際キャンペーン(ICBL)が世界の対人地雷被害状況に関する報告を行った。同報告によると、2005年のコロンビアにおける対人地雷被害者数(死亡及び負傷者数、1100人)は、アフガニスタン(848人)、カンボジア(875人)を上回り、世界で最も多い国となっている(2004年は、世界で3番目に多い868人の被害者を出していた)。コロンビアにある対人地雷のほとんどはFARCによって設置されたもので、その数は増加傾向にある。

(b)地雷除去の地図提出

 28日、収監中の「パラ」、ELN及びFARCの各メンバーが当局に対してアンティオキア県における対人地雷除去のための地図を渡した。地図には32カ所の地雷埋設ポイントが示されている。歴史的な出来事との評価の一方で、情報の正確さ、指示されている地雷数の少なさの点で不十分との評価もある。

(3)世論調査結果

 14日、826日から99日にボゴタ市、メデジン市、カリ市、バランキージャ市の1000人を対象とした世論調査結果が公表された。興味深い結果は次の通り。なお、( )内は前回20066月の調査結果。

(イ)ウリベ大統領の評価

評価する:75%(79%)、評価しない:20%(17%)

(ロ)ガルソン・ボゴタ市長の評価

評価する:50%(50%)、評価しない:44%(43%)

(ハ)ファハルド・メデジン市長の評価

評価する:90%(87%)、評価しない:7%(10%)

(4)プラン・コロンビアの支出

 15日、国家企画庁(DNP)は、現在までにプラン・コロンビアのために1065000万ドルが費やされ、そのうちコロンビアは695000万ドル、米国は37億ドルを拠出していることを明らかにした。この支出の大部分(57.45%)は麻薬及び組織犯罪対策に用いられているとのことである。

 

2.非合法武装勢力

(1)パラミリタリー

(イ)「公正・和平」法

 29日、政府は「公正・和平」法の詳細を規定する政令を公布した。8月に大統領府ホームページに掲載された政令案とは異なり、「公正・和平」法に関する憲法裁判所の判決に沿ったものとなった。主要ポイントとしては、「パラ」の政治犯罪に関する言及がないこと、自白を厳格に義務づけていること、被害者補償に「パラ」が合法的に所有している財産も必要に応じて提出する義務があること等が挙げられる。

(ロ)「パラ」犠牲者の埋葬

 7日、元「パラ」リーダーの「カデナ」及び「エル・オソ」によって殺害され、スクレ県のサン・オノフレ市及びトルー市の農場に埋められていた13人の遺体に関し、DNA検査により身元が判明した後、検察庁によって「パラ」の犠牲者としては最初となる埋葬式典が行われた。現在、全国で2500の遺体の身元特定作業が行われている。

(ハ)元「パラ」に対する報復

 8日、メタ県において4人の元「パラ」メンバーが殺害された。当局は本件に関し、8月に明らかになった20044月のカルロス・カスターニョ元AUC最高司令官殺害に関与した元「パラ」に対する報復によるものと発表した。

(2)FARC

(イ)人道的人質交換交渉

(a)4日、FARCスポークスマンの「イバン・マルケス」が、バジェ県プラデラ及びフロリダ両村から治安機関を撤退させることにより人道的人質交換は進展すると主張していることが報じられた。その一方で、ウリベ政権とは本件につき接触をしていないとした。

(b)ウリベ大統領は、17日付週刊誌「カンビオ」のインタビューにおいて、人道的人質交換交渉において譲歩する用意はあるが、それを公にすればFARCによって自動的に提案が拒否されるとして、本件を交渉促進者の手に委ねたいと述べた。

(c)24日、集団誘拐された12人のバジェ県議会議員の家族に対し、8ヶ月ぶりに生存証明となるビデオテープが届けられた。この中で、人質の元県議会議員は、政府とFARCに対して人質交換のための交渉の前進と、バジェ県のプラデラ及びフロリダ両村に会合地域(zona de encuentro)の設置を求めた。更に、アルバロ・レイバ元大統領候補、カルロス・ガビリア左派PDA党党首、カトリック教会のカストロ司教に対して本件に関する仲介を求めた。

(d)24日、政府は大統領府コミュニケを発出し、FARCに対して人道的合意及び和平合意への意欲があることを繰り返しつつ、プラデラ及びフロリダ両村周辺におけるFARCのプレゼンスが増大していることに懸念を表明した。また、政府がFARCとの接触を特定の人物、機関等に対して承認した旨明らかにした。

(e)26日、FARCは人道的人質交換交渉の仲介をしている交渉促進者に対して電子メールを送り、この中で、政府がFARCと交渉する意図があるかのように見せかけるために交渉促進者を利用しているとして、同交渉促進者との接触を凍結する旨表明があった。交渉促進者の一人で共産党機関誌Voz編集長のカルロス・ロサノは、政府が会合地域から治安機関を撤退させる前に(交渉)条件等につきFARCと交渉したいと考えているのに対して、FARCはまず45日間の治安機関の撤退を求め、その後に交渉条件等につき話をしたいと考えていることが問題を困難にしていると述べた。

(f)27日、政府は大統領府コミュニケを発出し、(人質交換のための)人道合意及び和平を有効とする条件の下で、FARCとの会合地域(の設置)を受け入れる用意があると表明しつつ、同地域が犯罪の隠れ蓑にもテロのための軍事力補強の場にもなってはならないと警告した。なお、会合地域について具体的な地名を出すことも、治安機関の撤退についても言及することを避けている。

(ロ)麻薬生産及び密輸への関与の否定

 9日、FARC書記局はコミュニケを通じて、メタ県マカレナ国立自然公園で根絶が進められている4600haのコカ栽培地が同組織に帰属するものとの政府の見方を否定した。また、コミュニケの中で、麻薬生産及びその密輸への同組織の関与を否定しつつ、問題解決のために麻薬の合法化を提案した。

(ハ)武装放棄

 12日、トリマ県において831日にFARCの「マルケタリアの英雄」戦線を離脱することを決めた25人の民兵のうち、僅か10人のみが無事に治安当局に保護されたことが報じられた。FARCの集団投降は2006年に入って3番目のものであり、収監中の元FARCリーダーの手引きによるものであった。

 

 

Ⅲ.治安等

1.統計(<>内はボゴタ市。斜線右側は先月統計。)

(1)殺人:1312件<103件>/1412件<113件>

(2)集団殺人:2件8人<0件0人>/3件15人<0件0人>

(3)脅迫:30件<1件>/39件<3件>

(4)窃盗・強盗:6032件<1761件>/5737件<1779件>

(5)自動車盗難:1283<393>/1364<353

(6)誘拐:21<5>/35<6

(7)テロ:25件<0件>/72件<1件>

 

2.主な事件・事故

(1)在コロンビア米国大使館によるテロ警告

 21日、在コロンビア米国大使館は米国民に対し、コロンビア政府当局の情報によりボゴタ市の北部地域にあるショッピングモール等においてFARCによる爆弾テロの可能性がある旨警告を出し、これによりボゴタ市民の間に不安が広がった。コロンビア政府及びボゴタ市当局は、米国大使館に対し事前の協力体制等につき問題があると批判し、同大使館はこれを認めた。27日にはガルソン・ボゴタ市長と会談したウッド駐「コ」米国大使が、事前に通報しなかったことについては謝罪したものの、テロ情報は信頼できるものとして本件警告を101日まで有効とした。なお、テロ情報の情報源を明かすことは拒否した。

(2)アフガニスタンにおけるコロンビア人の誘拐

 フランス系NGOのアフガニスタン地域経済開発支援ミッション(Madera)に参加していたコロンビア人のディエゴ・ロハス・コロネルが99日にカブール西部でアフガニスタン人通訳及び運転手と共に誘拐されていたことが同NGOのコミュニケにより判明した。ロハスはプロジェクト評価部門の責任者であった。これまでのところ、犯行グループは特定されていないが、タリバンによるものと見られている。

 18日、カラコルTV局によって、ウリベ大統領が本件を担当している駐インド大使に対して身代金を支払ってでもロハスを救出するよう電話で指示を出している模様が放送され、国内において身代金支払いを禁止している点及びテロに対する譲歩の問題の点から批判を集めた。批判を受け、政府は本件に関し身代金の支払いをしない旨のコミュニケを発した。

(3)前駐日コロンビア大使長男関連事件

 25日、警視庁は412日に東京の公園内で発生した米国人ロベルト・マックニール殺害事件に関し、前駐日コロンビア大使長男リカルド・アンドレス・グティエレスの逮捕状を取り指名手配した。

 

 

Ⅳ.外交

(1)ウリベ大統領の米国訪問

 第61回国連総会出席のために20日~21日の日程で米国を訪問したウリベ大統領は、ライス国務長官、アナン国連事務総長、クリントン前米国大統領、ビル・ゲイツ氏、米国企業関係者等との会談を行った。

(イ)国連総会における演説では、国際社会に対して非合法武装組織が和平交渉に応じるよう協力を求めた。また、「民主的治安政策(Seguridad Democratica)」の継続にあたり、国際社会に対して同政策に更なる支援を求めた。

(ロ)ウリベ大統領はクリントン前大統領との会談において、FTA発効に向けた民主党への働きかけを要請した。

(ハ)ビル・ゲイツ氏との会合(20)

 ウリベ大統領はビル・ゲイツ氏に対し、非合法武装勢力の社会復帰プロセスに対する支援を要請した。ビル・ゲイツ氏はウリベ大統領に対し、明年3月のコロンビア訪問予定を表明した。

(ニ)米国の投資家及び企業家との会合では、米国議会におけるFTA承認を促進するよう求めた。

(ホ)バチェレ・チリ大統領との会合においては、1127日までに両国間のFTA署名を行うことで合意した。

(ヘ)アナン国連事務総長との会談では、コロンビア政府による人権状況改善努力を報告した。

(2)サントス国防相のベネズエラ訪問

 1日、サントス国防相はベネズエラを訪問し、チャコン・ベネズエラ内務司法相、ラウル・イサイアス・バドゥエル同国防相と国境地帯における協力関係等につき会談した。

(3)ベネズエラとの軋轢

 89日、カミーロ・オスピナOAS大使(前国防相)が学術会議において「ベ」が国内2カ所でウランを採掘していると発言したことに対して、911日、チャコン・ベネズエラ内務司法相はこれを否定し、15日にはチャベス・ベネズエラ大統領がオスピナ大使は気が狂っているに違いないと批判した。コロンビア政府はベネズエラ政府に謝罪を申し入れ、ベネズエラ政府もこれを受け入れて事態は沈静化した。

(4)米国のカケタ県に対する支援停止

 6日、米国がカケタ県における社会開発プロジェクトのための更なる資金援助を行わないことでウリベ大統領と合意した旨報じられた。米国国際開発庁(USAID)は2001年より同県に対して560万ドルの支援を行ってきたが、2006年、2007年及び2008年の予算を他県におけるプロジェクトに回すことを決定した。また、USAIDは同県支援の必要性を認めつつ、FARCの影響が強く、激しい紛争状態にあるために多くのプロジェクトが機能していないと説明している。