コロンビア内政・外交等定期報告(12月)
T.概要
<内政>
●収監施設に収容されていた59人の元「パラ」リーダーは、大統領の命令によりイタグイ最高警備刑務所に移送された。
●アラウホ外相の兄のアルバロ・アラウホ上院議員が、「パラ」との癒着問題に関し最高裁判所に召喚された。
●元「パラ」に対する「公正・和平」法の適用が開始された。元幹部に対する取り調べも開始された。同法の適用予定者は2695人となっている。
●メタ県ラ・フリア地区近郊で国軍とFARCの交戦があり、国軍兵士14人が死亡した。
<外交>
●エクアドルとの間で国境地帯における除草剤の空中散布を発端とする軋轢が生じた。また、エクアドル領内におけるFARCのコカ栽培地を巡って当局者の間で混乱が生じた。
●国境地帯での除草剤散布問題で両国間に軋轢が生じる中、コレア次期(当時)エクアドル大統領のコロンビア訪問が中止された。
U.内政
1.パラミリタリー
(1)元「パラ」幹部の移送
1日、アンティオキア県ラ・セハ市の収容施設に収監されていた59人の元「パラ」リーダーが、大統領の命令によりイタグイ最高警備刑務所に移送された。この背景には、収監中の元「パラ」リーダーに関係すると思われる武装放棄者暗殺・行方不明事件の頻発、収容施設内の緊張関係、脱走計画の発覚等があるとされる。移送は約300人の治安部隊、攻撃ヘリコプターの支援により完了したが、元「パラ」リーダーは政府に対する不信感を露わにした。
6日、元「パラ」幹部の求めに応じ、レストレポ和平高等弁務官がイタグイ刑務所において元「パラ」幹部と意見交換を行った。元「パラ」幹部は突然の刑務所移送に不快感を示し、(政治家との癒着等)全ての真実を話すことや和平プロセスの決裂を仄めかした。
また、元「パラ」幹部は、8日、「パラ」と政治家の癒着問題を厳しく追及する左派PDA党のグスタボ・ペトロ上院議員に対し、真相の全てを明らかにする用意があり、そのために家族の身の安全を確保することを要請する内容の書簡を送付した。これは政府に対する圧力であると見られている。
(2)「パラ」と政治家の癒着問題
(a)アルバロ・アラウホ上院議員
5日、アルバロ・アラウホ上院議員が最高裁判所に喚問された。情報筋によれば、同議員の政治経歴に関し質問が集中したとのことである。10日にはアラウホ外相のインタビューが新聞に掲載され、改めて外相としての職務を全うする決意を示した。
(b)マグダレナ県知事
11日、イグアラン検察庁長官は、「パラ」との癒着及び不適切な契約問題等に関し、ルナ・マグダレナ県知事から事情聴取をしたことを明らかにした。ルナ県知事もいわゆる「「ホルヘ40」のコンピュータ」に名前が現れていることが知られていた。
(c)ディエブ・マルーフ上院議員
5日にアルバロ・アラウホ上院議員とともに最高裁判所に出頭したマルーフ上院議員は、23日、家族とともに休暇で米国を訪問したが、コロンビアの最高裁判所が同人の捜査中との理由でマイアミ国際空港において入国を拒否され、コロンビアに帰国した。大統領府治安局(DAS)によれば、同議員は休暇でマイアミを訪問する許可を事前に申請しており、また、現時点ではコロンビア政府により国内外における移動の自由を制限されていないとのことである。
(3)「公正・和平」法の適用
7日、政府は、「公正・和平」法適用申請者2695人に対する同法の適用を開始するための政令4471号を出した。申請者は同法の適用を受け入れるか否かにつき、その意志を表明する必要がある。
14日、検察庁の公正・和平チームはバランキージャにおいて「公正・和平」法の適用を開始した。まず、「ホルヘ40」の部下「エル・ロロ」の任意の自白が始まった。
19日には元「パラ」幹部のサルバトレ・マンクーソの取り調べ(任意の自白)が開始された。これまでのところ、具体的な犯罪については多くを語らず、AUCの会計上の書類は武装放棄前に全て焼却し、また、AUCの責任者は既に死亡していると述べた。
(4)元「パラ」幹部の暗殺
12月8日、コルドバ県モンテリア市における記者会見で、コルドバ県の政治家を含む各セクターと「パラ」との繋がりを暴露すると表明した、元空軍士官でその後「パラ」幹部となったハイロ・・アンドレス・アンガリータが27日にメデジン市で暗殺された。アンガリータはマンクーソが率いていたシヌー・ブロックおよびサンホルヘ・ブロックの実質的なリーダーであったとされる。
2.FARCの攻撃
23日〜24日、メタ県ラ・フリア地区近郊で国軍とFARCが交戦し、国軍兵士14人が死亡した。FARCがラ・フリア地区を占拠するとの情報があり、国軍はこれを阻止するために約250人のゲリラと戦闘を行ったとのことである。なお、少なくとも40人のFARCゲリラが死亡したの情報がある。
3.ELN
(1)政府の不信感
3日、レストレポ和平高等弁務官は新聞インタビューの中で、8月に政府がELNに対して2007年地方選挙への参加を提案したにも拘わらず、これに回答していないことを明らかにした。また、ナリーニョ県サマニエゴ市周辺の対人地雷除去についても政府に対して事前の相談無く提案したことに不信感を表明するとともに、今でも5日に1人のペースで誘拐を継続していることを非難した。
(2)市民保証人グループの提案
11日、政府とELNの直接対話の仲介をしている市民保証人グループは、「和平と和解のための国民のコンセンサスに向けて」と題した今後のプロセスのスケジュールを政府及びELNに対して提案した。同提案では、政府及びELNに対して2007年5月1日から同年10月31日までの間(延長あり)、停戦及び敵対行為の停止を提案している。
(3)人質の解放
27日、ナリーニョ県において、11月に誘拐された警察官2人が解放された。
V.治安等
1.統計(<>内はボゴタ市。国家警察統計。)
(1)殺人:1537件<137件>
(2)集団殺人:1件4人<0件0人>
(3)脅迫:69件<5件>
(4)窃盗・強盗:7376件<2082件>
(5)自動車盗難:1359件<328件>
(6)誘拐:30件<3件>
(7)テロ:32件<1件>
2.主な事件・事故
大規模停電
4日、主要都市のボゴタ、カリ、メデジンの他、コーヒー地帯、メタ県、ボヤカ県など広大な地域が3時間程度の停電となった。送電網の主要箇所における工事や送電停止が偶然重なり、また、クリスマスの電飾による電力需要が急増したためと見られている。
W.外交
1.対エクアドル関係
(1)国境地帯における除草剤散布再開
2005年12月、エクアドルより両国国境から10キロの地域における除草剤の空中散布を停止するよう要請があり、コロンビアは同地域における空中散布を一時的に停止していた。ところが、2006年12月3日、ウリベ大統領は国境地帯上空を飛行し、除草剤を散布していない地域でFARCがコカ栽培を行っていることを批判。11日に除草剤の空中散布を再開した。12日には当国外務省がこれを説明するコミュニケを発出したが、14日、パラシオ・エクアドル大統領(当時)及びカリオン・エクアドル外相はそれぞれ、コロンビアがエクアドルとの国境地帯における除草剤散布を再開したことを批判した。
(2)コレア次期(当時)大統領のコロンビア訪問中止
21日、コレア次期(当時)大統領は滞在先のベネズエラにおいて、コロンビアが除草剤の散布を停止しないため、同日に予定されていたコロンビア訪問を取り止めることを発表。
22日にオルギン・サルディ当国内務・法務大臣がコレア次期大統領のコロンビア訪問中止の背景にチャベス・ベネズエラ大統領の影響があることを仄めかす発言をしたため、26日、マドゥーロ・ベネズエラ外相がこれを批判し、同日、コロンビア外務省はコミュニケを通じて本件に関しベネズエラの関与がなかったことを明確にした。
(3)エクアドル領内のコカ
25日、コロンビア国家警察のカストロ長官は、FARCがエクアドル領内でコカを栽培していると発言し、詳細なデータをエクアドルに送付すると述べた。27日、エクアドル国防相の調査チームはコロンビア側から提供された情報に基づき上空から調査した結果、コカは見つからなかったと発表した(注:これに対しコロンビア国家警察は、コカ栽培地点は多数あるとし、2007年1月4日、エクアドル当局に対して70カ所のコカ栽培地点を通報した)。
また、29日、オルギン駐エクアドル・コロンビア大使がエクアドルのテレビ局に対し、エクアドル領内のコカ栽培地を巡るカストロ長官の発言が誤りであった可能性を指摘し、物議を醸した。
2.対米関係
14日、米国議会の64人の議員はライス米国務長官に対し、コロンビアの現状に懸念している内容の書簡を送付した。特に、人権擁護官、労組幹部に対する暴力の増加、「パラ」の武装放棄者の再武装化等への懸念が示されている。