コロンビア内政・外交定期報告(3月)

 

 

Ⅰ.概要

 

〈内政〉

●FARCスポークスマンでナンバー2の「ラウル・レジェス」が、エクアドル国境付近で死亡し(1日)、コロンビア国軍により遺体がコロンビア国内に搬送された。

●コロンビア政府は、FARCに依然として拘束されている人質の解放を実現するために、人質との交換でFARC構成員受刑者を釈放する政令を発令した(27日)。

●コロンビア国内20都市及び世界主要都市で、紛争反対を訴える集会及びデモ行進が行われ、コロンビア国内では数万人が参加した(6日)。

●ギャロップ社による世論調査の結果が発表され、ウリベ大統領は就任以来(2002年一期目以降)最高水準となる84%の支持率を記録した(24日)。

 

〈外交〉

●エクアドル政府は、「ラウル・レジェス」死亡の際にコロンビア軍が事前通報なく領域を侵犯し攻撃をしかけたとして、コロンビア政府を非難し両国関係の緊張が高まった。ベネズエラ及びニカラグア両国もエクアドル政府を支援し、コロンビア国軍のエクアドル領域侵犯を強く批判し、情勢は更に緊張を強めた。

●コロンビアのエクアドル領域侵犯問題については、OAS常設理事会会合(4日)及びリオ・グループ首脳会合(7日)で扱われた結果、コロンビアとエクアドル及び関係諸国の間で合意に達し、OAS外相協議会(17日)をもって緊張状態は収束した。

●FARCに拘束されているイングリッド・ベタンクール元大統領候補の体調悪化を懸念するフランス政府は、コロンビア政府が27日に発令した人質解放のための政令に対する支持を表明すると共に、緊急医療団をコロンビアに派遣することを発表した(30日)。

 

. 内政

 

1.内政一般

(1)FARCスポークスマン「ラウル・レジェス」の死亡

 サントス国防相は、1日未明にFARCのスポークスマンであり、事実上ナンバー2である「ラウル・レジェス(通称)」(FARC最高幹部「マヌエル・マランダ」の娘婿)及びFARC構成員16名が、プトマジョ県のエクアドル国境付近で「コ」空軍の空爆により死亡した旨発表した。同国防相は、空爆は「コ」空軍及び警察の合同部隊がFARCの所在に関する情報を得て出動したところ、エクアドル領域内から攻撃を受け応戦をした結果である旨発表した。なお、「ラウル・レジェス」及び構成員の遺体は、国境から1800メートルのエクアドル・グラナダ市で発見された。

 

(2)FARC幹部「イバン・リオス」の死亡

(イ)7日、FARC構成員3名が、カルダス県マニサレス市の「コ」国軍アヤクーチョ部隊に出頭し、FARC幹部「イバン・リオス」を殺害したとして、「コ」政府が「イバン・リオス」逮捕のために提示していた500万ドルの報奨金を要請した。3名は「イバン・リオス」の護衛をしていたと供述し、「イバン・リオス」殺害の証拠として遺体から切断した片腕を持参した。

(ロ)14日、サントス国防大臣は「イバン・リオス」を殺害した3名に対して、情報提供の報償として5億ペソ以下を支払う旨発表した。

 

(3)FARC人質解放にむけた政令

 27日、レストレポ和平高等弁務官は、依然としてFARCに身柄を拘束されている人質の解放交渉にむけた政令(2008年880号)を発表した。ウリベ大統領は、FARCが人質を解放するならば、釈放するFARC構成員受刑者の人数は制限しない旨発言した。

 

(4)「紛争被害者」デモ、全国各地で開催

(イ)6日、紛争反対を訴えるデモ及び集会(NGO「犯罪被害者運動」が主催)が国内約20都市にて開催され、ボゴタ市では約6万人、メデジン市では約2万5千人、カリ市では約1万5千人が参加した。2月4日の反FARCデモと比べると小規模であった他、2月のデモに参加した「コ」政府は今回のデモには参加しなかった。一方、モレノ・ボゴタ市長(PDA党)をはじめとする野党PDA党及び自由党が参加した。

(ロ)デモ活動は世界100都市でも実施された。パリでは午後6時に人権広場に約400名が集合した。また、ブエノスアイレスでは約5000人の左派党員と社会運動家が在アルゼンチン「コ」大使館前を行進し、「コ」軍のエクアドル領域侵犯を非難した。その他、北米各都市でも集会が開催された。

 

(5)ウリベ大統領の支持率、更に上昇

(イ)13日、ギャロップ社は3月の世論調査結果を発表した。今回の調査は、エクアドル領域侵犯を巡り当国とエクアドル及びベネズエラの緊張関係が高まった4日から6日にかけて行われたが、ウリベ大統領に対する支持率は前回調査(1月)より3ポイント上昇し84%に達し、2002年の大統領就任(一期目)以来、最高水準を記録した。

(ロ)国内情勢に関しては、「悪化している」と考えている人が1月の調査時から12%増加し46%となった。ギャロップ社によれば、当国とエクアドルの緊張関係が背景にあると見られる。

 

(6)ラテン系アーティストによる平和を祈るコンサート開催

 16日、ノルテ・デ・サンタンデール県及びベネズエラ・タチラ州の国境地帯において、「コ」人ロック歌手フアネスがエクアドル及びベネズエラを含む有名アーティストに呼びかけ、平和を訴える無料コンサートを開催した。コンサートは、1日の「コ」国軍によるエクアドル領域侵犯に端を発する「コ」とベネズエラ・エクアドル両国の緊張状態を懸念したフアネスが、平和を訴えるため国内外アーティストに参加を呼びかけて開催した。

 

2.非合法武装勢力関連

(1)パラミリタリー再武装グループ「アギラス・ネグラス」と称する団体の活動

(イ)「コ」政府との和平交渉に参加しなかったパラミリタリーの少数勢力及び、武装放棄したものの社会復帰できなかったパラミリタリー構成員で結成された「アギラス・ネグラス」と称する団体が、人権NGO及び労働組合等に対して脅迫状を発出している。

(ロ)同団体は、3月6日に行われた紛争反対デモ関係者及び参加者に対しても左派ゲリラ勢力を支援しているとして、脅迫を行っている。

(2)カウカ県でFARCが国軍に対して攻撃

 18日、カウカ県トリビオ市郊外において、FARCが国軍に対して攻撃を行い、1000名以上の住民がトリビオ市に避難した。

 

Ⅲ. 治安等

 国家警察統計(<>内はボゴタ市。右[ ]内は昨年同時期(2007年3月)の数値)

(1)殺人:1,298件<105件> ←[ 1,382件<118件>]

(2)集団殺人:313人<00人> ←[14人<00人>]

(3)脅迫:23件<9件> ←[25件<2件>]

(4)窃盗・強盗:3,926件<944件> ←[5,497件<1,556件>]

(5)自動車盗難:1,270件<283件> ←[1,221件<302件>]

(6)誘拐:17件<1件> ←[27件<8件>]

(7)テロ:31件<3件> ←[38件<0件>]

 

Ⅳ. 外交

1.コロンビア国軍のエクアドル領域侵犯問題

(1)関係国等の反応

(イ)1日、コレア「エ」大統領は記者会見にて、「コ」空軍が「エ」政府の事前許可なく「エ」領域内のFARCを攻撃し、FARC構成員の遺体捜索のため「エ」領域に侵入したとして、「コ」政府を強く非難した。更に、3日、在ボゴタ「エ」外交団を召喚し、在キト「コ」大使をエクアドルから退去され、外交断絶の方針を発表した。

(ロ)1日、チャベス・ベネズエラ大統領は、「コ」政府による「エ」領内のFARC攻撃を非難するとともに、「エ」国境侵犯についても「国際法に反しており、重大な問題」とし、「(「コ」政府の行動は)軽率で無責任だった」と批判した。4日、チャベス大統領は、「コ」との国境に位置する3道路の封鎖を命じ、5日には「コ」との国境地域に国軍10大隊を増強(1隊500兵士)するよう命じた。また、在ベネズエラ「コ」企業の国有化及び在ボゴタ・「べ」外交団を帰任させる方針を発表した。

(ハ)6日、オルテガ・ニカラグア大統領は、「コ」国軍のエクアドル国境侵犯を批判し、エクアドルとの連帯及びニカラグア・「コ」間の領海問題を理由に、「コ」との外交関係を断絶する旨発表した。

(2)米州機構(OAS)及びリオ・グループによる本件対応

(イ)4日、OASは常設理事会会合を開催し、「コ」国軍による「エ」領内のFARC拠点への攻撃について協議を行った。5日、OAS常設理事会はエクアドルとコロンビアの和解を目指すとする決議を採択し、同決議で設けられた調査委員会は9日から10日にかけて両国を訪問して調査を行った。

(ロ)7日、ドミニカ共和国でリオ・グループ首脳会合が開催され、関係各国大統領間で本件に関する自国の姿勢を表明する激しい議論が交わされたものの、「リオ・グループ宣言」が採択され本件は収束に向かった。ウリベ大統領はコレア大統領に対し、領域侵犯について謝罪を行った上で再発防止を約束し、コレア大統領はそれを受け入れた。またベネズエラ・ニカラグア両国が、コロンビアとの外交正常化を表明したものの、エクアドルは早期の外交関係正常化に慎重な姿勢を示した。

(ハ)ウリベ大統領はリオ・グループ首脳会合後、FARCの大量虐殺に対する支援及び資金供与の疑いでチャベス大統領を国際刑事裁判所(ICC)に提訴する意向を表明していた点(4日)について、提訴を見送る方針を発表した。

(二)17日、OAS外相協議会が開催され、18日にはエクアドル・コロンビア国境問題に関する決議が採択された。同決議では、7日の「リオ・グループ首脳宣言」を歓迎すると共に、「コ」国軍国境侵犯に関する謝罪を求めるものとなった。更に、OAS事務総長事務局が今後、決議の遵守を監督する旨を定めると同時に、非合法武装勢力との戦いに対する各国の協力を要請した。

 

2.FARC及び「ラウル・レジェス」と各国のつながり問題

(1)エクアドル関係

(イ)2日、ナランホ国家警察長官は緊急記者会見を行い、「コ」国軍が回収した「ラウル・レジェス」のコンピューターに「エ」政府とFARCの関係を示唆する履歴があった旨発表した。

(ロ)10日、「エ」治安情報当局は、「ラウル・レジェス」の娘及び息子が「エ」政府発行の証明書を携帯し、キューバ、パナマ、ベネズエラを行き来していた等の情報を公開した。

(ハ)26日、ウリベ大統領は、「ラウル・レジェス」死亡の際に同地で一緒に見つかった遺体が「エ」人FARC構成員であったことを発表した。

(2)メキシコ関係

(イ)ウリベ大統領は、リオ・グループ首脳会合(7日)の際にカルデロン墨大統領との会談を行い、少なくとも5名のメキシコ人FARC構成員が「ラウル・レジェス」の野営地で発見されたと述べた。

(ロ)1日の「コ」国軍による攻撃で負傷したメキシコ人(女性)が、学術調査のためその場に居合わせたと主張する一方、「コ」及び墨情報局は、同人がメキシコ国立自治大学(UNAM)の反体制勢力の幹部を務めており、オルガ・マルティン(「ラウル・レジェス」の妻で、FARC最高幹部「マヌエル・マランダ」の娘)等と交流がある点から、FARCとのつながりがあるとの見方を示した。

(3)ベネズエラ関係

 4日、ナランホ国家警察長官は、「コ」国軍が回収した「ラウル・レジェス」のコンピューターから、チャベス大統領とFARCの間での人質解放にむけた会談等が記された通信履歴が残されていた旨発表した。

 

3.FARC人質問題に対するフランス政府の支援表明他

 ペレス元上院議員(2月27日にFARCから解放)及び複数の病院における搬送目撃情報等から、B型肝炎及びリーシュマニア症を患っているとみられるイングリッド・ベタンクール元大統領候補の体調悪化を懸念し、仏政府がFARC人質解放にむけ圧力を強めた。

(1)30日、フィヨン仏首相は、「コ」政府が発表したFARC人質解放のための政令(27日に発表)に対する支持を表明し、政令施行に際しては釈放されるFARC構成員受刑者の一部を仏政府が受け入れることが可能と発表した。

(2)また、サルコジ大統領は同日、ベタンクール氏の解放にむけて緊急医療団をコロンビアに派遣することを決定した旨発表した。