コロンビア内政・外交定期報告(4月)
Ⅰ.概要
〈内政〉
●ウリベ大統領の従兄であるマリオ・ウリベ元上院議員が非合法武装勢力パラミリタリーとの癒着疑惑により逮捕された(22日)。同氏は在ボゴタ・コスタリカ大使館に対して政治亡命を要請したが、コスタリカ政府は、不当として受け入れを拒否した。
●2005年の大統領再選憲法改正案可決時に下院議員を務めていたイディス・メディナ元下院議員が、右可決に関わる買収容疑で逮捕された(27日)。
●元パラミリタリー幹部及び再武装勢力「ロス・ネバドス」の幹部であるビクトール・マヌエル・メヒア・ムネラ(通称「セバスティアン」または「エル・メジソ」)が国家警察との戦闘により死亡した(30日)。
〈外交〉
●ウリベ大統領はメキシコを訪問し、FARC問題等に関して協議を行った(16日)。カルデロン・メキシコ大統領は、テロとの戦いに関しコロンビアと連携する旨表明した。
●フランス政府は、FARCに拘束されているイングリッド・ベタンクール元大統領候補解放に向けて特別医療団をコロンビアに派遣した(1日)。しかし、ベタンクール氏の解放は実現せず、一週間後、サルコジ仏大統領は特別医療団の帰国を命じた(8日)。また、クシュネール仏外相はエクアドル・ベネズエラ・コロンビアの3カ国を訪問し、FARC人質解放に向けて協力を要請した(27日~30日)。
●コレア・エクアドル大統領は、「(一定の条件を満たした場合)FARCがコロンビア政府と交戦状態であることを認める意向がある」と発言し(23日)、ウリベ大統領は同発言を批判すると共に、コレア大統領に対して抗議文書を発出した(24日)。
●ウリベ大統領は、FARCがエクアドル領域から当国プトゥマジョ県のコロンビア国軍に対して攻撃を行ったとして、エクアドル政府を批判した(25日)。エクアドル政府は、右攻撃はコロンビア領域からであったとして、同批判を否定した。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)ウリベ大統領の従兄マリオ・ウリベ元上院議員の逮捕
(イ)22日、ウリベ大統領の従兄であるマリオ・ウリベ元上院議員が非合法武装勢力パラミリタリーとの癒着疑惑により逮捕された。同氏は在ボゴタ・コスタリカ大使館に対して政治亡命を要請し、コスタリカ大使館前ではパラミリタリー被害者団体が抗議活動を行った。同日午後6時、コスタリカ政府は亡命要求は不当であり、非合法武装勢力に加担すべきではないとして受け入れを拒否し、ウリベ元上院議員は検察庁に送還された。
(ロ)ウリベ元上院議員は、1998年2度にわたり不動産購入に関してパラミリタリー構成員と会談を行った旨同構成員が証言しており、また2002年にもパラミリタリー幹部サルバト-レ・マンクーソとも会談した疑惑がある。
(2)イディス・メディナ元下院議員の逮捕
27日、イディス・メディナ・パディージャ元下院議員が買収容疑で逮捕された。メディナ元下院議員は、2005年の大統領再選憲法改正案可決時に下院議長を務めており、可決に向けた投票と引き換えに金銭授受及び政治的地位を約束していたとみられている。
(3)元パラミリタリー幹部の死亡
(イ)29日、元パラミリタリー幹部であり、麻薬組織「ロス・メジソス」幹部であるビクトール・マヌエル・メヒア・ムネラ(通称「セバスティアン」または「エル・メジソ」)が国家警察との戦闘により、アンティオキア県タラサ市で死亡した。「セバスティアン」は、2005年に「ロス・メジソス」が武装放棄を行った後、コロンビア最大となる再武装勢力「ロス・ネバドス」を結成し、最高幹部の一人となっていた。
(ロ)「セバスティアン」は米国で重要指名手配中であり、500万米ドルの報奨金がかけられていた。サントス国防相は、報奨金は「セバスティアン」の潜伏地域に関する情報を提供した情報提供者に対して支払われる旨表明した。
(4)ELNスポークスマン「フランシスコ・ガラン」と政府要人の会談
(イ)非合法武装勢力ELNのスポークスマンであるヘラド・ベルムデス(通称「フランシスコ・ガラン」、1992年に逮捕、2005年に出所)は、ウリベ大統領と面会し、(ELNには所属し続けるものの)ゲリラ活動は停止する旨表明した(3日)。また、ペレス人権擁護官等と面会し和平交渉再開にむけた協議を行った(4日)。
(ロ)6日、ELN幹部は、「フランシスコ・ガラン」がコロンビア政府関係者と面会を行ったことに関して、スポークスマン及びELN幹部の地位を剥奪する旨発表した。
(5)FARC人質解放を求めるデモ及び集会の開催
(イ)4日、FARC人質解放を求めるデモ及び集会がコロンビア各地で開催された。ボゴタ首都特別区では、ヘーチェン元上院議員(2月27日に解放)やクララ・ロハス氏(1月10日に解放)等FARC誘拐被害者家族等約200名が参加し、FARC人質の解放を求めた。「反FARC」デモ(2月4日開催)及び「被害者救済」デモ(3月6日開催)と比較すると小規模なものとなった。
(ロ)7日、フランス・パリ市ではキルチネル亜大統領、クシュネール仏外相、カルラ・ブルーニ仏大統領夫人等が参加して、イングリッド・ベタンクール元大統領候補の解放を求めるデモを行った。
(6)ネバド・デル・ウイラ火山の活動
14日、ネバド・デル・ウイラ火山の活動が活発化し、カウカ県べラルカサール市近隣住民が緊急避難を行った。同火山は1994年及び2007年に噴火し、数千人の死者をだしている。火山の活動が活発化した場合、バジェ県、カウカ県、ウイラ県等広域被害が予想されていたが、活動は翌15日に沈静化し警戒レベルを引き下げた。
(7)FARC構成員受刑者の刑期を軽減する政令発表
9日、コロンビア政府は拘留されているFARC構成員受刑者750名について、一定の条件を満たした場合は「公正・和平法」を適用し、受刑者の刑期を軽減する旨定めた政令を発表した。右政令は、FARC人質との人道的交換を目的として発令された。
(8)国軍兵士とパラミリタリーの癒着
(イ)2005年2月、アンティオキア県サン・ホセ・デ・アパルタド市(1997年に「平和の共同体」を宣言して紛争に関して中立を主張)において子供3名を含む8名の農民を殺害した疑惑がもたれている15名の国軍兵士のうち、6名を逮捕した。殺害にはパラミリタリーが関与しているとみられている。
(ロ)26日、検察庁は、セサール県フィロ・マチェテ地域で2名の農民を殺害した疑惑(2005年5月)がもたれている国軍兵士29名のうち、15名を逮捕した。同兵士は、当初FARCの犯行と供述していたが、パラミリタリー幹部「ホルヘ40(通称)」との癒着及び殺害に関与した疑いがもたれている。その他14名の兵士については指名手配されている。
(9)FARC「シモン・トリニダッド」、麻薬取引における判決は無罪
米国に移送されているFARC幹部リカルド・パルメラ(通称「シモン・トリニダッド」)に対し、米国裁判所は21日、麻薬取引への直接関与を証明する証拠が不十分であるとして、麻薬取引に関して無罪を言い渡した。なお、誘拐については60年が求刑されている。
2.非合法武装勢力関連
(1)カウカ県におけるFARCの攻撃
13日、カウカ県においてFARCが国家警察に対して襲撃を行い、警官が1名死亡、4名以上が負傷した。
(2)アンティオキア県における負傷国軍兵士の殺害
15日、アンティオキア県ジャルマル市で国際赤十字社の救急車が襲われ、搬送されていた国軍兵士2名が殺害された。FARC第36戦線の犯行とみられている。
Ⅲ.治安等
国家警察統計(〈
〉内はボゴタ市。右[
]内は昨年同時期(2007年4月)の数値)
(1)殺人:1,200件〈108件〉←[1,248件〈116件〉]
(2)集団殺人:3件12人〈0件0人〉←[0件0人〈0件0人〉]
(3)脅迫:43件〈11件〉←[46件〈12件〉]
(4)窃盗・強盗:3,711件〈1,024件〉←[4,636件〈1,393件〉]
(5)自動車盗難:1,235件〈193件〉←[1,090件〈271件〉]
(6)誘拐:29件〈4件〉←[19件〈1件〉]
(7)テロ:25件〈2件〉←[13件〈0件〉]
Ⅳ.外交
1.フランス政府、ベタンクール元大統領候補解放にむけて協力要請
(イ)1日、フランス政府は、FARCに拘束されており体調悪化が懸念されているイングリッド・ベタンクール元大統領候補解放に向けて特別医療団をコロンビアに派遣した。FARCスポークスマンである「ロドリゴ・グランダ(通称)」は、「人質交換に合意した場合のみ、人質の解放を行う」旨書面で回答し、解放を拒否した。8日、フランス政府は、ベタンクール氏の体調は一刻を争うほどの悪化していないとして、ベタンクール氏の解放が実現しないまま医療団の帰国を命じた。
(ロ)28日、クシュネール仏外相はコロンビアを訪問し、ベタンクール氏の義兄であるパルフェ仏外務・欧州問題省米州・カリブ局長と共に、ウリベ大統領、アラウッホ外相、レストレポ和平高等弁務官と会談を行い、FARC人質問題の早急な解決を要請した。クシュネール外相は、29日にエクアドル、30日にベネズエラを訪問し、両国大統領と会談を行い、FARC人質解放に向けた協力を要請した。
2.ウリベ大統領のメキシコ訪問
15日、ウリベ大統領はメキシコを訪問し、カルデロン墨大統領と首脳会談を行い、FARC問題等に関して協議を行った。ウリベ大統領は、3月1日にコロンビア国軍との戦闘で死亡したFARC幹部「ラウル・レジェス(通称)」のキャンプ地においてメキシコ人が発見された旨説明し、カルデロン墨大統領はテロに対する戦いにおいてコロンビアと連携する旨表明した。
3.コロンビアとエクアドルの緊張関係
(1)9日、コレア「エ」大統領は、コロンビア国軍のヘリコプターが領域を侵犯した旨発表し、コロンビア政府を強く批判した。アラウッホ「コ」外相は、10日、領域侵犯の事実を否定した。
(2)23日、コレア大統領は、ベネズエラのテレビ局のインタビューに応じ、誘拐を中止し、国際法で定められている交戦対象としての条件を満たすならば、エクアドル政府はFARCがコロンビア政府と交戦状態にあることを認める旨発言した。24日、ウリベ大統領はFARCを交戦対象として認めることは民主主義を侵害することになり、テロ組織と戦っている一国としては、他国がコロンビアのテロ組織に対して正義を与えるが如き対応を許すことはできないとして、発言を強く批判した。
(3)25日、ウリベ大統領は、FARCがエクアドル領域から当国プトゥマジョ県のコロンビア国軍に対して攻撃を行ったとして、エクアドル政府を批判し米州機構(OAS)で協議を行う旨発表した。エクアドル政府は、FARCの攻撃はコロンビア領域から行われていたとして、同批判を否定した。