コロンビア月例報告(9月分)
内政・外交状況
2008年10月29日
在コロンビア日本大使館
Ⅰ.概要
〈内政〉
●ギャラップ社によれば、ベタンクール元大統領候補等を救出した「王手」作戦(7月)後、過去最高の86%に達したウリベ大統領の支持率は82%に低下し、国内情勢(治安や景気一般を含む)に関しても、「改善している」と回答した人は前回より29%低下して54%にとどまった(3日)。
●元パラミリタリー幹部「ドン・ベルナ(通称)」の弁護士との会談等パラポリティカ疑惑を持たれているフアン・ホセ・チャクス駐ドミニカ共和国大使は、辞任の意向を表明した(15日)
●1986年から1994年にかけ、バジェ県トルヒージョ市で200名以上の市民が殺害された事件に関し、検察庁は元「コ」国軍関係者やパラミリタリー構成員等計20名に対し逮捕命令を発出した(24日)。
〈外交〉
●第63回国連総会出席のため渡米したウリベ大統領は、ブッシュ米大統領と南北アメリカ地域の展望や関税、FTA成立等に関する協議を行った(20日)。ブッシュ大統領は、「コ」政府の麻薬及びテロ対策への努力を評価し、現米国議会に対して米・「コ」FTA条約批准を要請すると共に、次期米大統領及び米議会に対してウリベ大統領への支持を要請した。
● ルゴ・パラグアイ大統領は当国を訪問し、ウリベ大統領等と共に二国間関係強化等に関する共同声明を発表するとともに、「コ」政府のテロへの闘いに対する支持及び中南米において中立的な立場をとる意向を表明した(29日)。
Ⅱ.内政
1.内政一般
(1)ウリベ大統領の支持率
(イ)ギャラップ社は、8月26日から28日に実施された世論調査の結果を発表した(3日)。7月のベタンクール元大統領候補等を救出した「王手」作戦直後に過去最高86%に達したウリベ大統領の支持率は4%低下したものの、引き続き82%の高支持率を記録した。
(ロ)国内情勢に関し、「王手」作戦後は73%が「改善している」と回答したが、今回の調査では「改善している」との回答者は54%にとどまった。
(2)2010年再選問題に関するウリベ大統領の発言
(イ)ウリベ大統領は、大統領官邸で開催された欧州との貿易関係をテーマとした財界関係者との会合で、ノエミ・サニン駐英大使(元外相)に関し、「好感度や経験から次回大統領選挙で勝てる力があるのみならず、国を統治する能力も備えている人物である」と述べた(3日)。
(ロ)ウリベ大統領は、「国会には重要法案が山積しており、大統領連続三選を可能とする憲法改正を行うための国民投票実施法案が優先されるべきではない」、「大統領三選のための憲法改正については、必ずしも三期連続再選ではなく、任期を置いてからの(非連続の)大統領三選を可能とする方法もあり得る」等の発言を行い、必ずしも連続三期再選にはこだわらない姿勢をみせた(10日)。
(3)パラミリタリーとの癒着問題(パラポリティカ)
(イ)チャクス駐ドミニカ共和国大使
元パラミリタリー幹部「ドン・ベルナ(通称)」の弁護士アントニオ・ロペス(通称「ジョブ」)と大統領府関係者との会談等パラポリティカ疑惑を持たれているフアン・ホセ・チャクス駐ドミニカ共和国大使は、辞任の意向を表明した(15日)。検察庁は、同氏に対する予備審問を開始した(17日)。
(ロ)アラウッホ・ノゲラ元上院議員
2002年の政治家ビクトール・オチオア・ダサ元セサール県知事誘拐(80日後に解放)疑惑及びパラポリティカ疑惑で指名手配中のノゲラ元上院議員(元農業相、マリア・コンスエロ・アラウッホ元外相の父)がベネズエラで逮捕され(4日)、「コ」警察に引き渡された(9日)。
(ハ)バレンシア・コッシオ元メデジン市検事長
ギジェルモ・バレンシア・コッシオ元メデジン市検事長(バレンシア・コッシオ現内務・法務大臣の弟)が元パラミリタリー幹部との癒着疑惑により検察庁特別捜査局(CTI)に逮捕された(25日)。
(4)労働組合のデモ
(イ)給与水準等を不満として、司法労働者組合(ASONAL)がストライキを開始した(4日)。
(ロ)バジェ・デル・カウカ県のサトウキビ収穫者労働組合(ASOCANA)が、雇用体系及び給与改善を求めてストライキを開始した(15日)。
(5)トルヒージョの大量虐殺事件関係者に対する逮捕命令
1986年から1994年にかけて、バジェ県トルヒージョ市で200名以上の市民が殺害された事件に関し、検察庁は12名の元警官及び元「コ」国軍関係者、2名の元公務員、6名のパラミリタリー構成員計20名に対して、逮捕命令を発出した(24日)。
2.非合法武装勢力関連
(1)バジェ・デル・カウカ県カリ市裁判所ビル前の道路上において放置された自動車(爆発物積載)が爆発し、一般市民5名が死亡、26名が負傷した(1日)。警察当局は、FARCの犯行として捜査を行っている。
(2)ジーナ・パロディー上院議員は、ボゴタ首都特別区大学構内で覆面姿の数人がFARC幹部「ラウル・レジェス(通称)」及び「イバン・リオス(通称)」の死(共に本年3月)を悼む演説を行っている様子を収めた映像を公開した(9日)。同大学学長は、上記演説は平和的な手段で行われたものであり、学生が覆面姿で抗議活動を行うことは当国では普通のことである旨述べている。
(3)カウカ県アルへリア市において、「コ」国軍攻撃により非合法武装勢力「ロス・ラストロホス」構成員11名が死亡した(7日)。(当館注:「ロス・ラストロホス」は、1月に死亡したノルテ・デル・バジェ・カルテル幹部ウィルベル・バレラ(通称:「ハボン」)が率いる武装勢力グループ)
(4)ボゴタ首都特別区のバス会社「パンアメリカーナ」社のバス4台が、午後3時30分から50分の間に放火された(19日)。死亡者、負傷者は共になし。警察当局は、非合法武装勢力の脅迫によるものとして捜査をすすめている。
(5)アラウカ県アラウキータ市において、ELNと戦闘中の「コ」国軍兵士5名が、ELNが敷設した地雷により死亡した(23日)。
(6)ボゴタ首都特別区南部ソアチャ地区に居住する若者複数名(主に17歳~32歳)が、1月以降行方不明になり、ノルテ・デル・サンタンデール県で遺体となって見つかった事件で、サントス副大統領、サントス国防相、ペレス人権擁護官、イグアラン検察庁長官、ゴメス行政監察庁副長官は緊急会合を行い、検察庁特別チームが捜査にあたる旨発表した(29日)。
Ⅲ.治安等
1.国家警察統計(<>内はボゴタ市。右[ ]内は昨年同時期(2007年9月)の数値)
(1)殺人:1,305件<110件> ←[1,330件 <116件>]
(2)集団殺人:3件12人<0件0人> ←[1件4人<0件>]
(3)脅迫:28件<7件> ←[34件 <8件>]
(4)窃盗・強盗:5,060件<1,047件> ←[4,896件 <1,491件>]
(5)自動車盗難:1,146件<89件> ←[1,128件 <277件>]
(6)誘拐:28件<2件> ←[10件 <3件>]
(7)テロ:21件<2件> ←[24件 <0件>]
2.主な事件・事故
(1)ゴヤ作品の盗難(12日)
ボゴタ首都特別区ヒルベルト・アルサテ・アバンダーニョ基金で開催されているスペインの画家フランシスコ・ゴヤの作品展示会場から、スペイン国家遺産に指定されている「悲しみの予感」(1810年、版画)が窃盗された。
(2)ヘリウム風船の爆発事故(19日)
ボゴタ首都特別区エル・サリトレ地区コリセオ劇場において、誘拐反対を主張した障害者警察官によるデモを迎えるために準備していたヘリウム風船が爆発する事故があり、54名の若手警官が負傷した。
(3)乳児の誘拐
24日からボゴタ首都特別区近郊チア市で行方不明となっていた乳児が遺体となって発見された事件で、乳児の父親オルランド・ペラジョ容疑者が逮捕された(28日)。右事件を発端として、終身刑に関する議論が紛糾した。
Ⅳ.外交
1.ウリベ大統領の米国訪問(19日~25日)
(1)ブッシュ大統領との首脳会談(20日)
(イ)ウリベ大統領は、ブッシュ米大統領と南北アメリカ地域の展望や関税、FTA成立等に関する協議を行った。ブッシュ大統領は、「コ」政府の麻薬対策及びテロ対策への努力を評価し、次期米大統領及び米議会が引き続きウリベ大統領を支持することを望む旨表明した。
(ロ)対「コ」FTAに関してブッシュ大統領は、「FTAは経済的・政治的な事象にとどまらず、両国友好関係及び共通認識の証である」と述べ、米国議会に対しFTA条約批准を要請した。
(2)オバマ米大統領候補との電話会談(18日)
ウリベ大統領は、オバマ米民主党大統領候補と電話会談を行い、FTAを中心とした協議を行った。協議内容に関しウリベ大統領は、「建設的な協議となった」と評する一方で、オバマ大統領候補は「コ」国内で労働組合関係者の殺害が相次いでいることに対する懸念を理由に、FTA条約に引き続き否定的な見解を示した。
(3)潘基文国連事務総長との会談(22日)
ウリベ大統領は、潘基文国連事務総長と会談を行い、国内避難民やバイオ燃料に関する協議を行った。潘基文国連事務総長が、バイオ燃料生産が食糧生産に与える影響や国内避難民に関する懸念を表明したのに対し、ウリベ大統領は、これらの懸念払拭のための説明を行うと共に、「コ」政府の取り組みをアピールした。
(4)その他の要人との会談(22日)
ウリベ大統領は、その他クリントン元米国大統領、サルコジ仏大統領、インスルサOAS事務総長やピレー国連人権高等弁務官と会談を行った。
(5)第63回国連総会一般討論演説(24日)
ウリベ大統領は、第63回国連総会一般討論演説において、「民主的治安政策(Segridad Democratica)」や違法作物問題を含む環境問題等に関する演説を行った。
2.ルゴ・パラグアイ大統領の当国訪問(28日~29日)
ルゴ・パラグアイ大統領は当国を訪問し、ウリベ大統領等と会談を行い二国間関係強化等に関する共同声明を発表した(29日)。ルゴ大統領は、「コ」政府のテロへの闘いに対する支持及び中南米において中立的な立場をとる意向を表明した。
3.麻薬・民主主義に関するラテンアメリカ委員会第2会合開催(4日~5日)
(1)ガビリア当国元大統領、カルドーゾ元伯大統領、セディージョ元墨大統領等のイニシアティブの下、麻薬・民主主義に関するラテンアメリカ委員会第2回会合が当地で開催された。
(2)同会合では、麻薬対策に関して無関心な国際社会、特に欧州に警鐘を鳴らすとともに、麻薬政策を継続することの意義を再確認し、これまでの麻薬対策の見直しを行うことに合意した。
(3)本委員会委員は、会談の後ウリベ大統領と面会し、国内の麻薬使用罰則化問題について議論を行った。麻薬使用罰則化を主張するウリベ大統領に対し、カルドーゾ元伯大統領は、「麻薬対策で罰すべき対象は、麻薬使用者ではなく麻薬生産者である」と反論した(4日)。
4.ウリベ大統領のUNASUR参加(15日)
ウリベ大統領は、チリで開催された南米諸国連合(UNASUR)臨時首脳会合に参加した。参加国は、「国民投票でも幅広く支持されたモラレス大統領率いるボリビア政府の立場を全面的に支持する」旨の共同声明を発出した。