コロンビア月例報告(5月分)

 

内政・外交状況

 

2010年 6月9日

在コロンビア日本大使館

 

Ⅰ.概要

【内政】

●5日,行政監察庁は,アバディア・バジェ・デル・カウカ県知事を罷免するとともに,今後10年間公職に就くことを禁止する決定を行った。

●25日付当地各紙によれば,パディージャ国軍司令官は,ウリベ大統領に辞表を提出し,同辞表は受理されたが,新大統領が就任する8月7日まで同職に留まる見込み。

●30日に行われた大統領選挙(開票率99.71%時点)では,サントス候補が,6,758,539票(得票率46.56%)を獲得し,第1位となったが,当選を確定するために必要な有効投票の過半数には達しなかったため,サントス候補と第2位となったモックス候補による決選投票に持ち込まれることになった。

 

【外交】

●コロンビア要人の主な外国訪問としては,3~4日のベルムデス外相の南米諸国連合臨時首脳会合出席,8日のウリベ大統領のチンチージャ・コスタリカ大統領就任式出席,14日のベルムデス外相のポルトガル訪問等があった(なお,18~19日のウリベ大統領のEU・ラ米首脳会合出席は,経済定期報告参照)。

●外国要人のコロンビア訪問としては,赤松農林水産大臣の訪問,Sikorskiポーランド外相の訪問,ロボ・ホンジュラス大統領の訪問等があった。

●7日,シルバ国防相は,宮中で行われた勲章伝達式に出席し,鳩山総理大臣より旭日重光章を授与されるとともに,勲章を着用した上で,天皇陛下に謁見した。

●20日,コロンビア外務省は,韓国哨戒艦沈没事件に関する調査結果が発表されたことを受けて,コミュニケを発表した。

●25日,憲法裁判所は,昨年7月に国会で可決・成立したコロンビアのIWC加盟に関する法律を合憲とする判決を下した。

 

Ⅱ.内政

(1)アバディア・バジェ・デル・カウカ県知事の罷免

 5日,行政監察庁は,2月20日にアバディア・バジェ・デル・カウカ県知事が,同県ロソ市において,当時保守党大統領候補の一人であったアリアス前農業相と同県の21人の市長との会合をアレンジしたが,同会合は,憲法で禁止されている公務員の選挙等の政治介入に相当するとして,アバディア県知事を罷免するとともに,今後10年間公職に就くことを禁止する決定を行った。

 これに対し,アバディア県知事は,行政監察庁に異議申し立てを行ったが,25日,行政監察庁は,同申し立てを退け,アバディア県知事の罷免及び今後10年間公職に就くことを禁止する決定を改めて言い渡した。これを受けて,政府は,近く同県知事の補欠選挙を実施することになるが,新たな県知事が選出されるまでの間,政府が任命する県知事代理が県知事の職務を代行する。

 

(2)パディージャ国軍司令官の辞意表明

 25日付当地各紙によれば,パディージャ国軍司令官は,1週間前にウリベ大統領に辞表を提出し,同辞表は受理されたが,新大統領が就任する8月7日まで同職に留まると見られている。

 パディージャ司令官の辞意表明は,同司令官とシルバ国防相の軋轢が原因であるとの見方もあるが,パディージャ司令官は,右を否定し,若い世代に活躍の場を提供するためである旨述べた。

 

(3)大統領選挙直前に起きた主なテロ事件等

(ア)9日,バルガス・ジェラス候補(急進改革党党首)の選挙キャンペーン・コーディネーターが,アラウカ県サラベナ市で殺害される事件が起きた。急進改革党は,FARCの犯行であるとしている。

(ロ)12日,PDA党の党員が,アトランティコ県バランキージャ市で何者かによって殺害される事件が起きた。

(ハ)17日,パルド候補(自由党党首)の支持者が乗ったバスが,カウカ県のカロト市とコリント市の間を移動中にFARCにハイジャックされたが,バスのみが持ち去れ,バスに乗っていた支持者及び運転手には被害はなかった。

(ニ)25日,ナリーニョ県パスト市にあるサントス候補の選挙対策事務所前で,爆弾が爆発し,6名が負傷する事件が起きた。

 

(4)大統領選挙

 30日,9名の候補者が立候補する大統領選挙が行われた。同選挙は,一部地域においてFARCによる妨害行為等は見られたものの,概ね平穏裡に行われ,過去40年において,最も平穏に行われた大統領選挙であった。今次選挙で発生した暴力行為は,2002年の大統領選挙時に比べ,78%減少し,また,2006年の大統領選挙と比べ,30%減少した。

 同日,国家選挙委員会身上登録庁によって公表された開票結果(開票率99.71%時点)は以下のとおり。なお,今次選挙の投票率は49%(有権者数は29,983,279人)で,2006年の大統領選挙(45%)に比べ,5ポイント高かった。

(ア)開票結果

①フアン・サントス国民統一党党首:6,758,539票(得票率46.56%)

②アンタナス・モックス緑の党共同党首:3,120,716票(得票率21.49%)

③ヘルマン・バルガス急進改革党党首:1,471,377票(得票率10.13%)

④グスタボ・ペトロ上院議員(PDA党):1,329,512票(得票率9.15)

⑤ノエミ・サニン前駐英大使(保守党):892,323票(得票率6.14)

⑥ラファエル・パルド自由党党首:636,624票(得票率4.38%)

⑦ハイロ・カルデロン自由解放運動代表:33,924票(得票率0.23%)

⑧ロビンソン・デビア良心の声運動代表:32,080票(得票率0.22%)

⑨ハイメ・アラウホASA運動代表:15,701票(得票率0.10%)

(イ)選挙結果

 今次選挙(開票率99.71%時点)において,サントス候補(国民統一党党首)は,6,758,539票(得票率46.56%)を獲得し,3,120,716票(得票率21.49%)に終わったモックス候補(緑の党共同党首)に大差を付けて,第1位となったが,当選を確定するために必要な有効投票の過半数には達しなかったため,両候補による決選投票に持ち込まれることになった。今次選挙で,サントス候補がモックス候補に3,637,823票の大差を付けて第1位となったことで,決選投票はサントス候補にとって有利な展開になると見られている。 

 各候補の地域別の得票数について見ると,サントス候補が,プトゥマジョ県を除き,全ての県及びボゴタ首都区で勝利し,特に,FARCに対する武力攻勢が顕著に見られる地域(クンディナマルカ県,カケタ県,メタ県,ウイラ県,トリマ県,アラウカ県,ノルテ・デ・サンタンデール県,ビチャダ県及びカサナレ県)では,モックス候補の3倍近い票を獲得している。また,ボゴタ市長を経験しているモックス候補は,ボゴタ首都区で大きく票を伸ばすのではないかとの見方があったが,ボゴタ首都区でも,サントス候補は,モックス候補を破り,メデジン市,カリ市,バランキージャ市,ブカラマンガ市等の大都市でも勝利を収めている。

(ウ)サントス候補及びモックス候補の発言

 サントス候補は,選挙後に行われた支持者を前にした集会において,全ての国民,政党等に対し,国民的合意に参加するよう求め,同合意とは,より多くの雇用があり,平等を伴った形で経済が成長し,貧困を撲滅し,全ての国民に機会を創出し,不処罰及び汚職を撲滅し,良い政府を保証し,民主的治安対策を強化し,そして民主的繁栄を強化する合意である旨述べた。

 一方,モックス候補は,「本日,我々は,数ヶ月前には不可能と思われていた決選投票進出という目標を達成した」,「決選投票において,我々は,コロンビアを暴力,麻薬取引及びクリエンテリズムから解放する変革に向かって前進する機会を有している」と述べるとともに,サントス候補以外の候補者に対し,民主的遵法主義のために公で,透明性のある連立を呼びかけた。なお,モックス候補は,目的が手段を正当化しているとして,サントス候補の選挙手法を批判する発言を行った。

 

Ⅲ.外交

(1)ベルムデス外相の南米諸国連合臨時首脳会合出席

 3~4日,ベルムデス外相は,ウリベ大統領の代理として,南米諸国連合臨時首脳会合に出席するためアルゼンチンを訪問した。同会合において,アルゼンチンのキルチネル前大統領が,コンセンサスをもって,南米諸国連合の事務局長に選出された。

 同会合におけるベルムデス外相のステートメント概要は以下のとおり。

(ア)今年南米諸国連合の議長国としてリーダーシップを発揮されたエクアドルに謝意を表明したい。

(イ)南米諸国連合の事務局長をコンセンサスをもって選出することは,(南米諸国連合が)政治的決断を行うことの明確な意思表示であり,コロンビアは,(アルゼンチンの)キルチネル前大統領,アルゼンチン及び南米諸国連合に祝意を表したい。自分は,南米諸国連合及び地域全体のリーダーシップ,並びに南米諸国連合が世界において果たすべき役割を強化する必要があると考える。

(ウ)南米諸国連合は,困難な問題に迅速に対応するとの非常に明確な意思表示を行っており,我々は,それを維持すべきである。端的な例は,ボリビアのケースであり,ボリビアが困難に直面していた時期に,地域全体が,同国の大統領及び民主主義を支持し,違法な行為を明確に拒絶した。また,ハイチ及びチリの自然災害に対しても,我々は,緊急援助及び中長期的な観点からの援助を行うために非常に効率的な対応を取らなければならない。

(エ)域内に人の移動,輸出制限,国境問題等の困難な問題があることを認識することは非常に重要であり,今後の南米諸国連合の重要なアジェンダになると考える。統合は,その目的に基礎を置くものでなければならず,我々は,イデオロギーとは切り離し,民主主義の原則を尊重した統合の道を歩むべきである。こうした前提の下に,我々は,キルチネル前大統領の成功を祈念するとともに,コロンビアが,同目的を支持することをお伝えしたい。

(オ)世界各国を訪問すれば,ラ米が重要な地域になっているということに気づくはずである。我々は,(世界の)他の地域とは違い,この(国際金融)危機を乗り切った。アジア,欧州,アフリカの目は,経済的ポテンシャリティー,政治的安定及び民主主義の深化を有するラ米,そして勿論北米に注がれている。しかし,我々は,恒久的で,実効性のある平和の地域,見解の相違にもかかわらず,団結する地域,そして社会的包摂の成功例になるために,こうした現実を強化しなければならない。

 

(2)赤松農林水産大臣のコロンビア訪問

 4~6日,赤松農林水産大臣がコロンビアを訪問し,ウリベ大統領,フェルナンデス農業大臣,プラタ商工観光大臣等とそれぞれ会談を行った。これらの会談では,主に両国の経済関係強化に向けた方策につき意見交換が行われた。

 

(3)米国政府による新駐コロンビア大使任命

 6日,オバマ米国大統領は,今夏に在任期間3年を迎えるブラウンフィールド駐コロンビア米国大使の後任として,ピーター・マッキンリー現駐ペルー大使を任命する意向を明らかにした。

 マッキンリー大使は,ベネズエラの植民地化の歴史に関する書籍を執筆する等,ベネズエラの専門家でもあるが,2009年7月以降ベネズエラとコロンビアの関係が凍結されており,また,ベネズエラと米国の険悪な関係が続いている中で,マッキンリー大使は,駐コロンビア大使として,これらの緊張した関係をハンドリングするために重要な役割を果たし得ると見られている。

 

(4)ポーランド外相のコロンビア訪問

 6日,ポーランドのSikorski外相は,コロンビアを訪問し,ベルムデス外相と会談した。両外相は,会談において,二国間関係,地域及びマルチのテーマ等について意見交換を行った。

 なお,同会談において,ベルムデス外相は,Sikorski外相に対し,4月10日に飛行機事故で大統領等のポーランドの要人が死亡したことに哀悼の意を表した。

 両外相は,会談において,以下の点について共通の認識を確認した。

(ア)創設後10年を迎える民主主義共同体を強化するとともに,7月2~4日にポーランドのクラコビアで行われる民主主義共同体会合において,同共同体の行動を強化すること。

(イ)2007年の行われた次官レベルの政策協議の機会に提案された行動計画を引き続き実施すること。

(ウ)両国は,経済関係,特に貿易関係を拡大するためのポテンシャリティを有していること。この意味で,両外相は,近くコロンビアとEUがFTAに署名することに満足の意を表明した。

(エ)第6回ラ米・EU首脳会合が,両地域の戦略的パートナーシップを深化させる上で重要性を有していること。

 

(5)シルバ国防相に対する叙勲

 4月29日,日本政府が,日本とコロンビアの経済関係強化及び経済交流の発展に寄与したシルバ国防相(前全国コーヒー生産者連盟総裁,前日本・コロンビア経済合同委員会コロンビア側委員長,元日本・コロンビア賢人会コロンビア側座長)の目覚ましい業績を評価し,同氏に旭日重光章の授与を決定したことを受けて,訪日したシルバ国防相は,7日に宮中で行われた勲章伝達式に出席し,鳩山総理大臣より叙勲を授与されるとともに,勲章を着用した上で,天皇陛下に謁見した。

 

(6)ウリベ大統領のチンチージャ・コスタリカ大統領就任式出席

 8日,ウリベ大統領は,チンチージャ大統領の就任式に出席するため,ベルムデス外相及びベレス教育相等とともにコスタリカを訪問した。

 就任式出席後,ウリベ大統領は,「コロンビアとコスタリカは,歴史的に兄弟関係にあり,その関係は日々深化している」とした上で,コスタリカの民主主義の新たな段階における成功を祈念する旨述べた。

 

(7)ベルムデス外相のポルトガル訪問

 14日,ポルトガルを訪問したベルムデス外相は,アマド外相と会談を行い,政策対話に関する覚書に署名した。会談後,ベルムデス外相は,「コロンビアは,EUと自由貿易協定に署名するが,同協定は,コロンビアとEU,そしてポルトガルの関係の更なる緊密化を可能にするもので,非常に重要な一歩である」,「(政策対話に関する)覚書への署名は,両国間の対話を継続的に行うための明確な意思表示である」と述べた。

 また,同日,ベルムデス外相は,ポルトガルの企業家と会談を行い,会談後,「コロンビアは,今日ラ米における外国投資の中心となっている。我々は,ポルトガルの企業が,コロンビアに更に進出し,投資を行うことを期待している」と述べるとともに,「ポルトガルの金融,土木及びエネルギー関連の企業が,近くコロンビアを訪問する関心を表明した」と述べた。

 

(8)韓国哨戒艦沈没事件調査報告書に関するコロンビア政府のコミュニケ

 20日,コロンビア外務省は,韓国哨戒艦沈没事件に関する調査結果が発表されたことを受けて,概要以下のコミュニケを発表した。

(ア)本日,コロンビア政府は,2010年3月26日に発生し,46名の乗組員が死亡した韓国哨戒艦「天安」の沈没事件に関する米国,オーストラリア,韓国,英国及びスウェーデンの軍民合同調査団による報告書に接した。

(イ)同報告書は,同事件が北朝鮮で製造された魚雷の爆発によって引き起こされたと指摘している。

(ウ)コロンビアは,1950年に安保理によって創設された国連軍に参加した国及び朝鮮戦争停戦監視軍事委員会のメンバーとして,同報告書の有効性を認識するとともに,同報告書で結論付けられている事実関係に懸念を表明する。また,コロンビアは,本件について取られる措置及び制裁の検討に当たっては,韓国及び国際社会とともにいることを表明する。

 

(9)ロボ・ホンジュラス大統領のコロンビア訪問

(ア)24日,コロンビアを公式訪問したロボ・ホンジュラス大統領は,大統領府においてウリベ大統領と会談し,会談後,両大統領は共同宣言に署名した。また,ロボ大統領は,国会幹部及び最高裁裁判官とそれぞれ会談した他,モレーノ・ボゴタ市長より市の鍵を授与された。

 首脳会談後,ウリベ大統領は,「ホンジュラスは,いかなる大統領の影響力も必要としていない。ホンジュラスは,民主的な信任を得ており,その信任は,ホンジュラスの歴史及びロボ大統領を選出した透明性があり,多くの国民が参加した選挙に由来するもののである。国際社会が,客観的にその選挙プロセスを見るならば,ホンジュラスを排除するいかなる理由もないはずである」と述べた。

(イ)共同宣言のポイント

①両首脳は,民主主義の強化,民主的制度の維持及び強化,人権の尊重及び促進,並びに両国の経済・社会開発を通じた貧困及び社会的阻害を削減するための解決策の模索への確固たるコミットメントを改めて確認した。

②ウリベ大統領は,ロボ大統領に対し,国民和解及び民主主義の強化のためのテグシガルパ・サンホセ合意の結果として,ホンジュラスにおいて強化されつつある制度の正常化プロセスへのコロンビア国民及び政府の支持を改めて表明した。 

③ウリベ大統領は,2009年6月28日以降に起きた出来事について調査する目的を有する真相究明委員会が設置されたことの重要性を強調した。同委員会の設置は,ロボ政権が,ホンジュラスのあらゆるセクター間の和解及び理解を模索することへのコミットメントを維持する明確な意思表示である。

④両首脳は,両国の担当部局に対し,テロ及びその資金源,国際組織犯罪,世界的な麻薬問題,違法武器取引,人身取引,サイバネティックス犯罪,資金洗浄,誘拐等を撲滅するために,既存のマルチのメカニズムに継続性を与えることを要請した。

⑤両首脳は,2010年3月27日にホンジュラス,グアテマラ及びエル・サルバドル3ヵ国との自由貿易協定が発効したことに満足の意を表した。

⑥両首脳は,国連憲章の目的及び原則への尊重を改めて確認するとともに,より効率的,かつ民主的な組織を促進するための包括的な改革へのコミットメントを改めて表明した。

⑦ウリベ大統領は,ロボ大統領に対し,2010年9月に第65回国連総会で行われる安保理非常任理事国選挙へのコロンビアの立候補に対する支持に謝意を表明した。

⑧両首脳は,メソアメリカ統合・開発プロジェクトが強化されていることに祝意を表し,また,ウリベ大統領は,2010年6月15日にカルタヘナで開催される第12回トゥクストゥラ対話及び協議メカニズム・サミットにホンジュラス政府を招待した。

⑨ロボ大統領は,コロンビアにおける民主主義を強化し,民主的治安対策を実施したウリベ大統領のリーダーシップを強調した。

 

(10)捕鯨問題

(ア)25日,憲法裁判所は,昨年7月に国会で可決・成立したコロンビアのIWC加盟に関する法律を合憲とする判決を下した。

(イ)コロンビアのIWC加盟がIWCの立場を大きく変えるものではないが,コロンビアは,南米において,反捕鯨派のアルゼンチン,ブラジル及びチリとブロックを形成すると見られている。

(了)