コロンビア月例報告(6月分)
内政・外交状況
2010年 7月21日
在コロンビア日本大使館
Ⅰ.概要
【内政】
●9日,1985年に左翼ゲリラ・M-19が最高裁を占拠した際,M-19に占拠されていた最高裁の奪還を指揮した陸軍のアルフォンソ・プラサス・ベガ大佐に30年の禁固刑が言い渡された。
●20日に行われた大統領選挙決選投票において,サントス候補が史上最多の票を獲得し,次期大統領として選出された。21~24日,サントス次期大統領によって,次期大蔵大臣,次期外務大臣及び次期運輸大臣がそれぞれ指名された。
●13日~14日,約12年にわたりFARCの人質として拘束されていた警察官3名及び軍人1名が,グアビアレ県において約300名で構成された国軍の特殊部隊により救出された。
【外交】
●8~9日,クリントン米国務長官は,コロンビアを訪問し,9日,大統領府においてウリベ大統領と会談した他,サントス候補及びモックス候補とそれぞれ会談した。
●サントス次期大統領に対し,菅総理,オバマ米大統領等の各国首脳の他,コロンビアとの関係がギクシャクしているベネズエラ及びエクアドル政府から祝意を表明するメッセージがあった。
●25日,G8サミットの拡大アウトリーチ会合に出席したウリベ大統領は,米国,カナダ及びEUに対し,引き続き非合法武装勢力をテロリストと認定するよう求めた他,オバマ米大統領と会談し,対米FTAの米議会での承認を推進するよう求めた。
Ⅱ.内政
(1)最高裁占拠事件の奪還オペレーションを指揮した軍関係者の処罰
9日,ボゴタ地裁のマリア・ステラ判事は,25年前の1985年11月6日に左翼ゲリラ・M-19が最高裁を占拠した際,M-19に占拠されていた最高裁の奪還を指揮した陸軍のアルフォンソ・プラサス・ベガ大佐(当時)に30年の禁固刑を言い渡した。罪状は,奪還の際に最高裁から無事に脱出してきた筈の11名(喫茶店職員10名及びゲリラ1名)の行方が未だに不明となっていることに対する責任である。特にその11名の内,ゲリラのイルマ・フランコと喫茶店のオーナーであったカルロス・ロドリゲスは,国軍の施設に連行され,当時のプラサス大佐の部下の証言で,二人は拷問にかけられ,殺されたとされていることが罪状の根拠となっている。
同判決に対して,10日,ウリベ大統領は,国防大臣及び国軍首脳部と大統領府で緊急の記者会見を行い,同判決を非難した上で,軍人を保護するために,兵士が犯した犯罪に対して,指揮官がどこまで責任を負うか等について明確な規則を定める必要がある旨公式発表を行った。
なお,同判決に対して,プラサス元大佐側は,ボゴタ高裁に控訴するとしている。
(2)FARC誘拐被害者の救出
(ア)13日から14日にかけて,約12年にわたりFARCの人質として拘束されていた国家警察のルイス・メンディエタ将軍,ルイス・ムリージョ大佐及びウィリアム・ドナト大佐,並びに国軍のアルベイ・デルガド軍曹の4名が,グアビアレ県において約300名で構成された国軍の特殊部隊により救出された。
13日,同特殊部隊を指揮したパディージャ国軍司令官は,3月12日に国軍のオメガ特殊部隊が逮捕したFARC第1戦線の「マルコス・パリージャ」より,これらの誘拐被害者の正確な移動場所に関する情報を入手し,同情報を元に今般の「カメレオン作戦」を具体化した旨述べた。
(イ)今般の救出作戦について,13日,シルバ国防相は,同作戦は,コロンビアのインテリジェンス及び計画によるものであり,外科手術のようなオペレーションであった旨述べた。
また,14日,ウリベ大統領は,今後とも誘拐被害者の救出に向け働き続けるとした上で,「ゲリラの構成員がゲリラを放棄し,人質を解放するならば,我々は彼らに報奨金を与えるであろう」と述べるとともに,FARCは,人質を解放した後,武装放棄し,社会復帰するか,或いは今般の作戦のような軍事作戦に直面するかのいずれかの選択肢があると述べた。
(3)大統領選挙決選投票
(ア)決選投票の結果
①20日に行われた大統領選挙決選投票において,サントス候補(国民統一党党首)は,史上最高の9,028,943票(得票率69.13%)を獲得し,3,587,975票(得票率27.47%)に終わったモックス候補(緑の党共同党首)に大差を付けて,次期大統領として選出された。
②地域別に見ると,第1回投票時と同様,サントス候補は,プトゥマジョ県を除く全ての県及びボゴタ首都区でモックス候補より多くの票を獲得し,特に,南部及び東部地域では,75%近い得票率を獲得した。
③今次決選投票は,概ね平穏裡に行われ,この点について,コレアOAS選挙監視団長は,非常に平穏裡に行われ,成功であったと評した。但し,一部地域では,FARC及びELNによる選挙妨害行為等が行われ,ノルテ・デ・サンタンデール県ティブ市では,ELNによる警察部隊襲撃により,7名の警察官が死亡する事件が起きた。
(イ)サントス候補の勝利宣言
①20日午後7時頃,サントス候補は,支持者を前にした集会において,勝利宣言を行ったが,その際の主なメッセージは以下のとおり。
・憎悪及び無用な分断のページを捲ろうではないか。コロンビアには国民統一の時が来た。自分は,雇用創出,貧困撲滅のために働く所存である。
・FARCが今後もテロの手段に訴えるのであれば,(和平の)対話を行う可能性はなく,確固たる姿勢で引き続きFARCへの攻撃を行うであろう。しかし,FARCが社会復帰する扉は開かれている。
・自分は,政府と最高裁の間の協調した関係を再構築するために,近いうちに最高裁判事と会合を持つつもりである。
・自分は,全ての分野における協力のアジェンダを実施するために近隣諸国とともに働く所存である。自分は,我々の国民のために,近隣諸国に対し,協力するための道を開くよう招待したい。
②一方,サントス候補の勝利宣言に先立って,同日午後5時35分頃,モックス候補は,支持者を前にした集会において,サントス候補の勝利を祝するとともに,次期政権における成功を祈念すると述べた上で,今後緑の党は,独立した政治勢力として強化されるであろうと述べた。
(4)サントス次期大統領と最高裁長官等との会談
10ヶ月以上にわたり,最高裁判所によって検事総長が選出されていない問題等を巡って,ウリベ大統領と最高裁の関係がギクシャクしている中,23日,サントス次期大統領は,最高裁判所,憲法裁判所,最高行政裁判所及び最高司法行政審議会の各長官を訪問し,司法権との関係改善に向けた意見交換を行った。同会談において,サントス次期大統領は,各長官に対し,今後司法権との対話を行う用意があるとした上で,今年中に内務・司法省を分離し,新たに司法省を創設すること,司法当局の予算を見直すこと,並びに司法権の改革に関するイニシアティブを推進するために対話及び合意を行うことにコミットした。
(5)FARCとELNの共闘の破棄
24日付当地エル・ティエンポ紙によれば,5月30日,ELNは,(ベネズエラ国境の)アラウカ県タメ市のアレノサ村民を集め,FARCが支配していた同地域を今後はELNが支配する旨伝えた。官憲によれば,この事実は,昨年11月に結ばれた両組織の共闘が破棄された証拠であると指摘している。同共闘は,ELNのアントニオ・ガルシアとFARCのロドリゴ・グランダとの間で合意されていた。
アラウカ県に本拠を置く第18師団司令官のラファエル・ネイラ将軍は,麻薬ビジネスのサイトとして両組織が同地域の支配権を巡って争っていると述べた。同将軍は,以前より幾つかの村落では,いずれかのテロ組織のメンバーが支配しており,その目的は麻薬の栽培であると述べた。
(6)サントス次期大統領による閣僚の指名
サントス次期大統領は,21日,エチェベリ元国家企画庁長官を次期大蔵大臣に,23日,カルドナ元カルダス県知事を次期運輸大臣に,また,24日,オルギン・アンデス開発公社アルゼンチン常駐代表を次期外務大臣にそれぞれ指名した。
Ⅲ.外交
(1)ベルムデス外相の第40回OAS総会出席
6~8日,ベルムデス外相は,第40回OAS総会に出席するためペルーを訪問し,8日,同総会において,以下の概要のステートメントを行った。
(ア)コロンビアは,第三国による内政干渉の犠牲になっており,いかなる形の内政干渉も受け入れることはできない。
(イ)コロンビアは,ホンジュラスの新政権を承認した。コロンビアは,OASが,ホンジュラスの正常化プロセスを支援することが非常に重要であると考える。
(ウ)コロンビアとペルーは,国境地域において協力プロジェクトを実施しており,平和,協力及び安全保障を模索する上で,模範的な関係を有している。
(2)クリントン国務長官のコロンビア訪問
(ア)8~9日,クリントン米国務長官は,夫のクリントン元大統領とともに,コロンビアを訪問し,9日,大統領府においてウリベ大統領と会談した他,20日の大統領選挙決選投票に進出するサントス候補(国民統一党党首)及びモックス候補(緑の党共同党首)とそれぞれ会談した。
(イ)クリントン国務長官とウリベ大統領の会談において,二国間関係全般等について意見交換が行われた他,米・コロンビアFTAの米議会での批准問題について,クリントン国務長官は,ウリベ大統領に対し,オバマ政権は,同FTAを米議会で批准するために必要な賛成票を獲得すべく働いている旨述べた。同会談後,ウリベ大統領同席の下,クリントン国務長官とベルムデス外相は,科学技術協力の強化に関する二国間協定に署名した。
(ウ)9日,クリントン国務長官に同行していた夫のクリントン元大統領は,クリントン財団等の支援による,コロンビアの中小企業支援のための2,000万ドル規模のアクセソ基金を創設する旨表明した。
(3)ベネズエラ及びエクアドル政府によるサントス次期大統領への祝辞
21日,コロンビア政府との関係が悪化しているベネズエラ政府は,サントス次期大統領に祝意を伝えるコミュニケを発出し,また,正常化に向けた動きは見られるものの,いまだにコロンビア政府とはギクシャクした関係にあるエクアドルのコレラ大統領は,サントス次期大統領に電話で祝意を伝えたのに対し,サントス次期大統領が,これらのコミュニケ及び電話を評価する発言を行ったところ,概要以下のとおり。
(ア)ベネズエラ政府のコミュニケ
①ベネズエラ政府は,6月20日の選挙において,その意思を表明したコロンビア国民に祝意を表する。
②ベネズエラ政府は,同選挙で勝利したサントス次期大統領に祝意を表するとともに,新たな責任の行使における成功を祈念する。ベネズエラ政府は,新政権のスポークスマンの発言のみならず,誠実かつ敬意を持った形で新政権との関係が推移し得るかの事実を注視していく。
③ベネズエラ政府及び国民は,地域の平和及び統合のための重要な要素となるコロンビア国内の和平に貢献する希望を改めて表明する。コロンビア及びベネズエラの国民は,共通の父であるシモン・ボリーバルの子供であり,その最後の言葉は,まさに統合への呼びかけであった。
(イ)エクアドル政府の祝辞
21日,エクアドルのコレア大統領は,サントス次期大統領に電話で祝意を伝え,また,パティーニョ外相は,「我々は,今後新政権との間でより良い結果が出ることを望んでいる。我々は,ラ米の統合を支援するとのサントス次期大統領の発言を善意の表れであると捉えており,我々がラ米において推進している行動が具体化されることを期待している」,「また,我々は,コロンビアの新政権をラ米の真の統合を実現し,我々の大陸の平和のために戦うことに招待したい」と述べた。
(ウ)サントス次期大統領の発言
21日,サントス次期大統領は,ベネズエラ政府が発出したコミュニケについて,「自分は,ベネズエラ政府が発出したコミュニケに感謝し,同コミュニケを高く評価する。自分は,同コミュニケを我々が持たなければならない目的に向けた非常にポジティブな最初のジェスチャーであると考えており,その目的は,我々の国民のために両国関係を再構築することである」と述べた。
また,同日,サントス次期大統領は,コレラ大統領から電話があったことについて,「コレア大統領から非常に親切な電話を頂いた。我々は,話をし,両国関係を更に改善し,ベルムデス外相によって進められたプロセスを加速化させるための重要な行程表を設定する方法を模索することに合意した」と述べた。
(4)菅総理発サントス次期大統領宛祝辞
23日,菅総理からサントス次期大統領に対し,20日の大統領選挙決選投票において、コロンビアの国民の多数の支持を得て勝利されたことに対し祝意を表明するとともに,両国の友好関係を一層発展させたい旨を伝える祝辞が発出された。
(5)オバマ米大統領からサントス次期大統領への祝意
24日,オバマ米大統領は,サントス次期大統領に電話し,20日の大統領選挙決選投票で勝利したことに対し祝意を伝えるとともに,両国関係を更に強化したい,そのために米国に招待したい旨述べた。
サントス次期大統領に近い筋は,サントス次期大統領との電話会談において,オバマ大統領は非常に親切な対応であった旨述べた。また,クリントン国務長官も,サントス次期大統領に電話し,祝意を伝えた。
(6)ウリベ大統領のG8サミット拡大アウトリーチ会合出席
25日,ウリベ大統領は,カナダで開催されたG8サミットの拡大アウトリーチ会合に出席し,米国,カナダ及びEUに対し,引き続き非合法武装勢力をテロリストと認定するよう求めた他,オバマ米大統領と会談し,対米FTAの米議会での承認を推進するよう求めたところ,概要以下のとおり。
(ア)G8サミットの拡大アウトリーチ会合におけるウリベ大統領の発言
25日,G8サミットの拡大アウトリーチ会合に出席したウリベ大統領は,2007年にフランスのサルコジ大統領の要請に基づいて,イングリッド・ベタンクール元大統領候補等のFARCの人質の解放を促すために,FARCの「ロドリゴ・グランダ」を釈放したが,何の成果もなく,「ロドリゴ・グランダ」は,FARCに復帰した,今日,ゲリラと麻薬テロリストを区別することはできないとした上で,米国,カナダ及びEUに対し,引き続き非合法武装勢力をテロリストと認定するよう求めた。
また,ウリベ大統領は,今や麻薬の生産国と消費国の区別はなく,麻薬の消費を認めることは麻薬を合法化していることと変わらないとした上で,麻薬の合法化については再検討しなければならない旨述べた。
(イ)ウリベ大統領とオバマ米大統領の会談
G8サミットの拡大アウトリーチ会合のマージンで,ウリベ大統領は,オバマ米大統領と会談し,対カナダFTAがカナダの議会で承認されたことに言及した上で,対米FTAの米議会における批准問題について,「(対カナダFTAがカナダの議会で承認されたことは,)米国及びEUの議会が考慮すべき参考例である」,「我々は,信頼関係が示されることを必要としている。これは,時間の問題であり,政治的判断を行うかどうかの問題であると言う人もいる」と述べたのに対し,オバマ大統領は,対米FTAの米議会における承認を推進する旨述べた。
(7)コロンビア大統領府治安庁によるコレア・エクアドル大統領盗聴疑惑
28日,エクアドルのエル・ウニベルソ紙は,DASの元職員が,2009年3月にエクアドルのコレア大統領を含む政府高官の固定電話及び携帯電話を盗聴するためキトに盗聴装置を設置したと証言した旨報じた。
これに対し,29日,コレア大統領は,今のところ,DASの元職員の証言は事実ではないとのコロンビア政府の説明に基づいて,(両国関係正常化のために)働くつもりであるがとした上で,「ウリベ大統領及び当時のサントス国防相(次期大統領)が承知の上で,エクアドルの大統領及び政府高官の盗聴が行われていたのであれば,それは,両国関係を正常化するための障害になるだけではなく,我々は,両国関係を再び断絶しなければならないであろう」と述べた。
なお,同日,カルバハル・エクアドル治安相は,本件に関する情報提供を求めるためボゴタにミッションを派遣する旨述べた。
(8)ウリベ大統領のパナマ訪問
(ア)6月30日,ウリベ大統領は,パナマを訪問し,中米統合機構(SICA)首脳会合に招待国として出席した他,パナマ運河拡張工事開所式に出席した。また,同日,韓国・SICA首脳会合に出席するためパナマを訪問していたイ・ミョンバク韓国大統領及びSICA首脳会合の招待国としてパナマを訪問していたベルルスコーニ伊首相とそれぞれ会談した。
(イ)ウリベ大統領は,SICA首脳会合において,麻薬テロへの戦いにおけるパナマとの協力関係を確認した上で,サントス次期大統領就任後も,麻薬テロへの戦いにおける両国の協力関係は継続されるであろうと述べた。
(ウ)イ・ミョンバク韓国大統領との会談後,ウリベ大統領は,8月7日以前に両国政府間で投資保護協定への署名が行われるであろうと述べるとともに,FTA締結交渉関連で,韓国大統領が,コロンビアの農牧産品の韓国市場へのアクセスを受け入れた旨述べた。
(エ)また,コロンビア政府関係筋によると,ウリベ大統領とベルルスコーニ伊首相との会談において,ベルルスコーニ首相が,EU議会におけるコロンビア・EU・FTA承認の主な推進役になることを模索すると述べた由。
(了)