コロンビア月例報告(8月分)
内政・外交状況
2010年 9月14日
在コロンビア日本大使館
Ⅰ.概要
【内政】
●緑の党,PDA党及び急進改革党各党の党首が交代した。
●7日,サントス大統領が就任した。
●12日,ボゴタ首都市において,爆弾テロ事件が発生した。
●17日,憲法裁判所は,米・コロンビア軍事協力補完協定が効力を有するためには国会の承認が必要であるとの判断を示した。
●20~23日に当地世論調査会社CNCが行った世論調査の結果によれば,サントス政権の支持率は84%であった。
●23日,FARCは,コロンビアの国内紛争に関する考え方を南米諸国連合首脳会合において表明する用意がある旨のコミュニケを発出した。
【外交】
●6~8日,吉良外務大臣政務官は,サントス大統領の就任式に出席するため,特派大使としてコロンビアを訪問した。
●10日,コロンビアを訪問したチャベス・ベネズエラ大統領がサントス大統領と会談を行い,両国の外交関係再開に合意した。
●19~20日,オルギン外相等がベネズエラを訪問し,チャベス大統領,マドゥーロ外相をはじめとする関係閣僚等と会談を行った。
●26日,オルギン外相は,コロンビアを訪問したパティーニョ・エクアドル外相と会談を行い,両国関係の完全修復に向けた意見交換を行った。
Ⅱ.内政
1 各党党首の交代
(1)緑の党
これまで緑の党は,モックス前大統領候補,ロンドーニョ元外相,ガルソン元ボゴタ市長及びペニャロサ元ボゴタ市長の4人の共同党首を置いていたが,8月30日,ガルソン元ボゴタ市長が,単独党首として選出された。
(2)PDA党
2日,PDA党の執行部選挙が行われ,ロペス党首が,前大統領候補のペトロ上院議員を破り,再選された。
(3)急進改革党
5日,バルガス・ジェラス党首(前大統領候補)がサントス政権の内務・法務大臣に就任したことに伴い,チャール上院議員及びバロン下院議員が,急進改革党の共同党首として選出された。
2 サントス新大統領の就任
7日,国会議事堂前のボリーバル広場において,国会議員,最高裁長官等のコロンビア要人等とともに,各国元首(コスタリカ,ペルー,ホンジュラス,グアテマラ,ブラジル,パナマ,アルゼンチン,エルサルバドル,メキシコ,エクアドル,ドミニカ共和国,ウルグアイ,ハイチ及びグルジア),閣僚,日本の吉良特派大使をはじめとする政府特使等の出席の中,サントス新大統領の就任式典が行われたところ,同式典におけるサントス新大統領の就任演説の概要以下のとおり。
(1)本日,自分は,この歴史的なボリーバル広場において,全ての国民のための社会的繁栄を実現する国民統一の政権を運営することを厳かに表明する。
(2)コロンビアは,この200年の間に成長し,大きな変革を遂げた。しかし,我々は,真の自由の基礎である社会的公正及び平和の強化を実現できていない。
(3)我々が経済的・社会的発展を実現したいのであれば,国民統一を図らなければならない。国民統一のための政府は,我々全てが夢見るコロンビアを強化するための偉大な同盟である。
(4)自分は,選挙キャンペーン中にコロンビアは民主的繁栄への道を歩まなければならないと国民に提案し,国民は圧倒的な投票で自分に応えてくれた。民主的繁栄とは,相応の住居,公正な給料及び年金を伴った安定的な雇用,そして教育及び医療へのアクセスを享受することである。
(5)我々が貧困問題を克服すれば,コロンビアの知的及び経済的ポテンシャルは大きな力として開花するであろう。我々が貧困者の期待を裏切ることはない。我々は,コロンビアのテロ及びその他の敵と戦うのと同様に貧困を削減するために働くであろう。
(6)我々の目標は,失業率を一桁に削減するととに,高い収益性があり,雇用を創出する企業がより多く生まれるよう起業を支援することである。自分の政権のプライオリティーは,雇用の創出を通じて,社会的繁栄を実現することである。
(7)コロンビアは,世界でも有数の生物多様性とともに,豊富な水資源を有した国であり,我々は人類のためにこれらの資源を保存することが期待されている。我々は,水及びその他の天然資源の一層の保護を保障するために,環境・持続的開発省を創設する。
(8)我々は,保健省を創設し,あらゆる制度のために義務的医療制度を統合することに重きを置いた基金改革を行う。また,自分の政権のもう一つのプライオリティーは,家族のために相応の住居を持つというコロンビア人の夢を可能にすることである。
(9)我々は,農民がコロンビアの生産的な土地の所有者になり,その土地を開発できるよう働くつもりである。コロンビアにおける麻薬取引,テロ及び暴力は,より良い土地の多くが暴力を振るう者の手に渡ることを可能にしてしまった。我々は,土地法案を国会に提出する。
(10)我々は,成長及び雇用の創出を伴った経済を離陸させる5つの軸を推進させるつもりである。我々は,農業,インフラ,住居,鉱業及びイノベーションによって,発展及び繁栄の列車を発進させなければならない。
(11)自分は,発展及び雇用を創出する投資の必要性について確信している。自分の政権は,ウリベ政権の投資家の信頼を獲得するための政策に従って,また,明確,かつ安定的なルールを維持し,投資を歓迎する。
(12)政治的理由を引き合いに出し,再び対話及び交渉の話しをしている非合法武装勢力に対して,自分の政権は,暴力の根絶及び平等,かつ公正で,より繁栄した社会の構築を模索するいかなる対話にも応じる用意があると言いたい。しかし,そのためには,武器を放棄し,誘拐,麻薬取引,恐喝及び脅しをやめることが前提条件である。非合法武装勢力が誘拐被害者を解放せず,今後もテロ行為を行うのであれば,我々は,例外なく全ての暴力と戦い続けるであろう。
(13)我々は,テロ撲滅と同様の決断をもって,汚職を撲滅するであろう。そのために汚職撲滅法案を国会に提出する予定である。効率性,透明性及び会計報告の原則が,我が政権の行動を規定する。
(14)自分は,近代民主主義の基本的原則である司法の独立を擁護する。我々は,司法を強化し,基本的人権を保護するための国家の政策として,司法省を創設する。
(15)コロンビアは,国際社会において重要な役割を果たすことを期待されており,我々は,我々に相応しいリーダーシップを果たしたいと考えている。尊重,協力及び外交が,我々の国際関係の軸である。
(16)我々は,全ての近隣諸国と平和に暮らしたいと考えている。コロンビアの対外関係を考える時,戦争という言葉は,自分の辞書にはない。自分の大統領としての基本的な目標の一つは,ベネズエラ及びエクアドルとの関係を再構築し,信頼を回復し,そして外交及び慎重さを優先することである。ベネズエラとの関係で仲介をオファーした関係者には感謝するが,自分は,率直,かつ直接的な対話を行いたい。
(17)人権の擁護は,自分の政権の確固たるコメットメントであり,本日,このことをコロンビア国民,国会議員及び国際社会に対して,改めて表明したい。これは,民主的,倫理的,そして人間としての強い信念に基づくものである。
(18)1938年8月7日にエドゥアルド・サントス大統領(サントス大統領の大叔父)が,就任演説の最後に,「コロンビア人の家庭に今よりも少しでも良い福祉,公正及び平和を提供することができるのであれば,自分は,本日歩み始める道において自分を待ち受けるいかなる犠牲も喜んで受け入れるであろう」と述べたが,自分は,自分,そして自分の祖国のために喜んでこの運命を受け入れる。
(19)歴史上多くの国が,暴力,低開発及び紛争の厳しい時期を克服し,今日発展及び社会的公正の模範となっている。今度は我々の番である。我々の運命を受入れ,憎悪を葬り去り,一致団結する時が来た。そして,我々の子孫のために誇りを持ち,威厳のある国を建設する時が来たのである。
3 爆弾テロ事件
12日,ボゴタ首都市のカラコル・ラジオ局の建物の近くで,自動車爆弾使用によるテロ事件が発生した。爆風によるガラスの飛散により,16名の負傷が出たが,死亡者は出なかった。
自動車爆弾は,最近ボゴタ首都市で盗難された車両(車種シボレー・スイフト1.3(ナンバプレートBOO-483,色グレー))が使用され,アンフォ火薬50kgが積載されていた模様。犯行目的は明らかにされていないが,犯行の手法等からFARCによるものと見られている。
4 米・コロンビア軍事協力補完協定に関する憲法裁判所の判断
(1)昨年10月30日にコロンビアと米国の間で署名された軍事協力補完協定について,コロンビア政府は,これまで米国との間で署名された一連の軍事協力協定の補完協定であり,国会の承認を必要としないとの立場を取ってきたが,17日,憲法裁判所は,同協定には,米軍が少なくともコロンビアの7つの軍事基地を使用できる条項等が入っており,同協定をこれまで米国との間で署名された一連の軍事協力協定の補完協定であると見なすことはできず,新たな軍事協力協定であるとして,憲法の規定に照らし,国会の承認が必要であるとの判断を示した。
なお,憲法裁判所は,同補完協定の内容の詳細には言及しておらず,同補完協定の合憲性についての判断は示していない。
(2)また,憲法裁判所は,同判断の中で,同補完協定は効力を有していないことから,同協定に基づいて,コロンビアが米国の軍人,装備,協力等を受け入れているのであれば,それらを米国に返還しなければならないとしているが,パストラーナ政権時代(1998~2002年)に米国と開始されたプラン・コロンビアに基づいて,1,400人の米国の軍人及び契約職員がコロンビアの軍事基地で活動できることとなっており,実態的には,今般の憲法裁判所の判断が,現在の米国の対コロンビア軍事協力に影響を与えることはないと見られている。
(3)今般の憲法裁判所の判断について,17日,コロンビア政府は,以下の内容のコミュニケを発出し,また,米国務省高官筋も,コロンビアの民主的機関による判断を尊重する旨のコメントを出している。
ア コロンビア政府は,本日の憲法裁判所の判断を尊重する。
イ コロンビア政府は,国際法,現行の関連協定及びその他の適用可能な規則に照らし,同判断を詳細に検討する。
ウ コロンビア政府は,安全保障及び国防,特に,麻薬取引及びテロの分野におけるコロンビアと米国の協力の基本的重要性を強調する。
エ コロンビア政府は,同判断が,過去に両国政府の間で署名され,現在でも有効である協定に影響を与えないことを強調する。
5 世論調査
20~23日に当地世論調査会社CNCが,全国の18歳以上の男女1,000名を対象に7日に発足したサントス政権の支持率等に関する世論調査を行い,同調査の結果によれば,サントス政権の支持率は84%であった。
6 FARCによるコミュニケの発出
23日,FARCは,左派系通信社Anncolを通じて,コロンビアの国内紛争に関する考え方を南米諸国連合首脳会合において表明する用意がある旨のコミュニケ(注)を発出した。
これに対して,政府は,FARCが南米諸国連合首脳会合出席への関心を表明したのは,政府との和平対話のカウンターパートとして国際的な承認を得たいがためであり,南米諸国連合のような国際機関におけるFARCのプレゼンスを受け入れることはできないとして,FARCの同提案を拒絶する旨表明している。
(注)コミュニケの概要
(1)コロンビア政府が,軍事的勝利及び米国の介入という蜃気楼によって促され,FARCとの対話の扉を閉じるのであれば,我々は,南米諸国連合に対して,国内紛争への政治的出口を模索する断固たる意志を改めて表明したい。
(2)コロンビアでは,プラン・コロンビア,ネオリベラル戦略及び制度的暴力が,国内紛争をあらゆるレベルで悪化させ,兄弟国の支援なしでは,現在の同紛争を克服することを非常に難しくしている。
(3)戦争のための戦争ではなく,社会的公正を伴った平和が,1964年のマルケタリアにおける創設以来のFARCの戦略的目的である。カサ・ベルデ,カラカス,トゥラクスカラ及びエル・カグアンにおける和平対話が幸福な結末を迎えなかったのは,オリガルキーが(FARCの)武装蜂起の理由となっている不公正な政治的,経済的及び社会的構造の変革の実現を望まなかったからである。
(4)(南米諸国連合加盟国の)大統領が適当であると考える時に,我々は,コロンビアの国内紛争に関する我々の考え方を南米諸国連合首脳会合において表明する用意がある。コロンビアの平和は(南米)大陸の平和である。
Ⅲ.外交
1 吉良外務大臣政務官のコロンビア訪問
6~8日,吉良外務大臣政務官は,サントス大統領の就任式に出席するため,特派大使としてコロンビアを訪問した。吉良政務官は,7日の大統領就任式に出席した他,サントス大統領との会談,ベルムデス外相(当時)との会談,当地進出日本企業関係者との会合等を行った。
2 ベネズエラとの外交関係再開
(1)10日,サントス大統領の招待により,チャベス大統領は,コロンビアのサンタ・マルタを訪問し,シモン・ボリーバルが晩年過ごしたサン・ペドロ・アレハンドリーノ邸において,サントス大統領と会談を行った。同会談において,両大統領は,7月22日以降断絶されている両国の外交関係を再開するとともに,両国関係を再活性化させることに合意し,原則宣言及び協力メカニズムに関する文書に署名した。なお,同会談には,両国の外相,キルチネル南米諸国連合事務局長等が同席した。
(2)会談後,昨年7月末の両国関係凍結の直接の原因になったコロンビア・米国軍事協力協定について,チャベス大統領は,「コロンビアは主権国家であり,いかなる国とも軍事協定を締結することができる。我々は,それらの協定が隣国の主権に影響を及ぼさない限り,同協定を認める」と述べた。また,今回の両国の外交関係断絶の原因になったベネズエラにおけるコロンビア・ゲリラのプレゼンスの問題について,チャベス大統領は,「ベネズエラ政府は,ベネズエラにおけるコロンビア・ゲリラを支援しない」と述べ,右に対する理解を求めた。
(3)これに対して,サントス大統領は,チャベス大統領の発言は,両国関係が確固たる基礎の上に維持されるために非常に重要なものであると述べるとともに,同会談で設置が決定された5つの作業委員会の意義について説明した。また,サントス大統領は,チアペ駐ベネズエラ大使の後任として,バウティスタ元通信大臣を任命したとして,同元大臣は,ベネズエラと国境を接するノルテ・デ・サンタンデール県出身で,サントス大統領に近く,ベネズエラの良き理解者であると述べた。
3 オルギン外相のベネズエラ訪問
(1)10日にサントス大統領とチャベス大統領が,両国の外交関係を再開することに合意したことを受けて,19~20日,オルギン外相は,リベラ国防相,ディアス-グラナドス商工観光相,カルドナ運輸相等とともに,ベネズエラを訪問し,チャベス大統領,マドゥーロ外相をはじめとする関係閣僚等と会談を行った。
同会談において,双方は,10日の首脳会談で設置が合意された5つの作業委員会の今後のアジェンダに合意した他,コロンビアが強い関心を示している,ベネズエラのコロンビア企業に対する債務問題(約10億ドル)について,ベネズエラが,まず2億ドルの債務支払いを行うことに合意した。
(2)21日,同会談の結果について,サントス大統領は,「昨日(20日)の結果は,期待通り,ポジティブなものであった。チャベス大統領と自分が提案したことについて,我々は大きく前進している」と述べるとともに,来週(23日の週)ベネズエラ政府がバウティスタ新駐ベネズエラ大使にアグレマンを付与する見通しであることについて,「これは,両国関係が正式に正常化することを意味し,重要な一歩である」と述べた。
4 パティーニョ・エクアドル外相のコロンビア訪問
(1)26日,オルギン外相は,コロンビアのナリーニョ県イピアレス市を訪問したパティーニョ・エクアドル外相と会談を行い,両国関係の完全修復に向けた意見交換を行った。同会談において,両外相は,センシティブな問題を扱う二国間委員会会合を10月に開催することに合意し,また,パティーニョ外相によれば,同会合の結果次第で,両国大使の任命の有無が明らかにされる見通しである。
なお,同委員会は,2008年3月にコロンビア国軍がエクアドル領内のFARCキャンプを攻撃し,同攻撃の際に押収したFARCナンバー2のラウル・レジェスのパソコンに入っていた情報のエクアドル側への提供を巡る問題,当時国防相であったサントス現大統領が対象となっているエクアドルの司法プロセスの問題等を扱うことになる。
(2)また,同会談において,両外相は,5万人を超えると言われる,エクアドルにおけるコロンビア人の避難民の問題等を扱うために,両国の社会問題担当大臣による会合を15日以内に開催することに合意した他,10月にボゴタにおいて両国の国境地域における安全保障の問題等を扱う隣国委員会会合を開催するとともに,11月にはキトにおいて税関,植物検疫等の問題を扱うための専門家会合を開催することに合意した。
また,両外相は,可能な限り早期に両国の国境に架かるルミチャカ橋を拡張することに合意した他,オルギン外相はパティーニョ外相に対し,エクアドルがエネルギーを必要とする場合には,コロンビアが同国にエネルギーを供給することを約束した。
(了)